シーン1
たぶん、続きをかけなくて、そのうち放置されていくような気が今からしている小説です。
彼女と出会ったのは、たぶん入学式の時なんじゃないかと思う。
でも、本当に彼女と出会えたのは、小さなカラオケ店の中でのことだった。
駅を出て三十分も歩かなくちゃいけないそのカラオケ店はとにかく安い。駅前の半分ぐらいの値段で遊べるくらいだし、そのぶん設備が悪いかと言えばそうでもなく、普通ぐらいなんじゃないかな。とにかく、学生の身としてはとてもありがたいカラオケ店だったのだ。
名前は「傘立て」
いつものように受付でのんびりと座っている店長によると、「語感で選んだ」だそうだ。
毎日のように寄ってはヒトカラ(一人カラオケの略)に励んでいる僕はいつしか、その名前をすっかり気に入ってしまっていたので、もうちょっと深い意味があると思っていただけにがっかりした。
そんな馴染みの深いカラオケ店「傘立て」に、その日も僕はヒトカラをやるために来ていた。
「いらっしゃい。いやあ、今日も来てくれて助かるよ」
冴えない感じのおじさんが僕を見るなり声をかけてきた。店長だ。
「半分趣味だからいいんだけど、お客さんがいないと暇でね」
「暇って……いっつも読んでる本はどうしたんですか? 飽きたとか?」
僕が見る限り、受付で座っている店長はいつも何かしらの小説を読んでいる。それは児童文学であったり、推理小説であったり、あるいはライトノベルであったり、様々なものを読んでいたが、一日たりとも彼のそばに本がないことはなかったのだ。
それがいつもは受付の隅のほうに積みあがっているはずの本の束がなくなっていた。
「読書に飽きるわけがないじゃないか。そうじゃなくて、本が切れたの。もう読む本がないわけ」
「もう一度読み返すとか」
「全部十回以上は読んだ気がする……さすがに飽きた」
「でしょうね……」
ちらりと店長の背後、受付の奥のほうを見ると、でっかい本棚にぎゅうぎゅう詰めになっている本たちが見える。あれを全部十回以上読んだのか……。
「というわけで、補充してくるので店番をよろしく」
呆気にとられていると、店長が馬鹿なことを言い出していた。
「どうせお客さんは来ないし、来たら来たで適当にタダで部屋に入れていいよ」
「いや、それはまずくないですか?」
ただでさえ駅から30分なんて辺鄙なところにあるせいで、お客さんが来ないのだ。というか、お客さんがいるところを僕は見たことがない。
たまに来たお客さんから搾らずに、誰から金を搾り取るつもりなのだ。
かといって僕から搾り取ろうなんてされても困るけど。
「言ったでしょう。ほとんど趣味だから利益なんていいの」
「……実は店長ってめっちゃ金持ちなんですか?」
「そうでもないかな? ただ別のところで儲けているだけ」
この口ぶりだと、「傘立て」は本業ではないのかもしれない。まあ、そのおかげで安く利用させてもらえているのだから僕にはありがたい。
「それじゃ、頼んだよ!」
「えー、僕だって歌いに来たんですけど」
「そんなにかからないから、三十分だけ! 三十分!」
「勘弁してくださいよ。僕には門限だってあるんですよ?」
「高校生にもなって?」
「ですよねー。親の縛りきついんすよ」
「んー、じゃあ、歌っててもいいよ。こうしとけば、お客さん来たとき気づくでしょ」
いいこと思いついたとばかりに店長は「御用の方は1号室まで」と紙に書いて受付の机の上に置いた。
なるほど、これなら僕が歌っててもお客さんが来たら対応できる。
それにどうせ、人なんて来ないし。
「仕方ないっすね。割引券とかくれたらいいっすよ」
「これ以上どこをまけろと? だったらタダ券でいいよ」
そう言って店長はまた紙に「タダ券」と書いて、小さく切って渡してきた。
手で切ったので切り口は汚いが、店長が書いたんだから有効だろう。
「よっしゃ。任せてください。僕の受付で人気のカラオケ店にしてみせますよ」
店長はゆっくりと店内を見回す。当然、僕たち以外には誰もいない。
「……できるの?」
「……絶対ムリっす」
そもそも受付に人が来ないのだから、受付がどんなに良くても意味なんてなかった。
「まあ、頼むよ」
「了解っす」
店長を送り出して、僕はすぐに1号室の中に入った。
どうせ人は来ないし、今日も思いっきり歌うぞ。
そう、思っていたのだが……
ずいぶんと書いていなかったから、リハビリみたいな感じで書きましたが、だいぶ文章力がなくなっている気がします。
続き……書けるかな?(不安)