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お前ら!武器屋に感謝しろ!  作者: ポロニア
第五章 精霊の歌
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第72話 白い方が勝つ

「どうしたら……一体、どうしたら良いんだ……」


 かつてこれほど悩んだことがあっただろうか。それは、苦悩と言っても過言では無い。大陸最強馬を決める大レース、『魔導院記念』の軸馬が未だ定まらないのだ。

 誰もいないのを良いことに、俺は競馬新聞片手に店内をウロウロしていた。

 バタバタと床を踏み鳴らす度に、店内に陳列した鱗鎧(スケイルメイル)鎖帷子(チェインメイル)がカチャカチャと音を立てる。


「どうすっかなー! 『黄金細工師』が出走しないんだもんぬぁー!」


 現役最強の三冠馬『黄金細工師』が出走回避しちまったもんで、今年の魔導院記念は荒れ模様だ。しかし、しかしだ! これは反面、どの馬にもチャンスがあるって事なんだ。


「ル~ル~ティ~ア~、来てくんね~かなぁ~」


 天才メガネ娘の統計学的視点からの馬券理論には、幾度もお世話になっている。先月の『大陸杯』では儲けさせて貰った。お礼がウエスタンブレイブ百貨店の高級スイーツなら費用対効果抜群ってモンだ。


「白い方が勝つわ」


 ……? いま、確かに聞こえたぞ。まさか天の御告げか? 幸運の女神の託宣か? 白い方ってことは芦毛ってことか?


「……お前、どこから湧いた?」


 いつの間にやらカウンターの椅子にノーム族の少女が、ちんまりと収まっていた。

 この子は確か、ルルティアの入院していた病院の錬金昇降機で出会った『呪いの釘バット』、かけられた呪いは『アホ』、その効果は『アホになる』な女の子だ。

 学院の制服を着ているという事は、こいつ学院の生徒だったのか。丈の長い制服は何科の制服だ? アホ科なんてあったか?


「お前、確かルル……ルルル……ルルティアじゃなくて……あれ? ややこしいな」

「ルルモニだ。とりあえずコーヒー。ホットで」

「はいはい、ルルモニさんね。先に行っておくがウチは喫茶店じゃないんだ。大体、お前らは何なんだ? 魔導院では”武器屋と喫茶店は同じお店”とでも教えているのか?」

「ミルクと砂糖アリアリで」

「俺の、お・れ・の・は・な・し・を聞けぃ! 魔導院では”人の話は聞かぬこと”とか教えてんのか?」

「薬のざいりょうをかいにきたのだ」


 アホノームが差し出したメモ用紙を受け取る。読むのが面倒な細かさだ。なになに?


 ――水晶花×5、翡翠石の粉×8、火竜の爪×2、月精石×5……


 無言でメモに目を走らせる。こっ、これは総額で三〇〇〇Gは超えるぞ……しかし、こいつに支払能力はあるのだろうか?


「おい、ぶきゃー。これでたりるか」


 俺の困惑を知ってか知らずか、ルルモニがカウンターに硬貨を一枚置いた。二匹のドラゴンが互いの尾を咥えて回るデザイン。大陸で二番目に価値のある貨幣、五〇〇〇G金貨。

 俺は軽い眩暈を感じて、親指と人差し指で瞼を押さえた。


「す、すぐに……コーヒーをお持ちいたします」


 額に浮いた冷汗をシャツの袖で抑えながら御客様に最敬礼した。遠い昔、どこかで誰かに同じ事をした覚えがある。どこだったっけ?

 「因果応報」という東洋の言葉が頭に浮かんだが、これは武器屋の塩漬け在庫を掃く、またとないチャンスだ。この好機を逃したら「乾燥激苦瓜」なんて微妙な調薬素材は二度と売れないかも知れない。


 ――――我が名はルルモニ。伝説の魔導院の最強の無敵の薬学師だ


 あいつ、薬学師とか言ってたか。そうか、あの制服は薬学科の制服か。足元まで隠す長いスカートで分からなかった。ルルティア愛用のけしからんミニスカ制服といい、学院では改造制服でも流行っているのか? 

 もやもやと考えながら、とっておきの最高級豆「ノームズマウンテン・ナンバー1」を淹れる。三〇〇〇Gか……今月の残りは遊んで暮らしてても良いくらいの収入になるぞぅ。

 

「御客様、コーヒーをお持ちいたしました」

 

 いつもの来客用マグカップでは無く、双剣のシンボルマークがあしらわれた最高級コーヒーカップを使い、トレイに乗せてノーム族の御嬢様に差し出した。


「いいかほり」


 御嬢様はコーヒーカップに顔を寄せ、その芳しい香りに、うっとりと目を閉じる。そして砂糖もミルクも入れずにコーヒーを一口含んだ。


「ふむ、ノムマンのナンバー1か。ノーム族の私にノムマンを出すとは心憎い演出だな。武器屋よ、褒めて遣わす」

「はっ。恐れ入ります」


 カップに手に持ちながら、俺に向かってキリッとした視線を送るルルモニ。

 何なんだ? こいつは?


「ただ、一つだけ気になる品物がありましてね」

「なんだ。いってみろ。くるしゅうない」

「大きな声じゃ言えないが、マンドレイクは御禁制ですぜ」

「やっぱりだめですかぁ」


 マンドレイクは、暗殺には持ってこいの特質と、余りにも強い毒性の為に魔導院が取扱いを禁じた薬物だ。

 人型に酷似した肌色の不気味な根菜、マンドレイク。それを乾燥させた物を粉末にすると、一匙で百人は殺せる恐ろしい劇薬となる。しかも、無色で無味無臭なので食事や飲料に混ぜるのが容易な毒物だ。


「大体、そんな物騒な物を何に使うつもりで?」


 後ろめたい話をする時に口に手の甲を寄せて、ヒソヒソやっちまうのは人間族の習性か? 何だか悪徳商人気分だ。


「のます」

「誰に?」

「おまえに」

「何で!」

「てぃあのためだ」

「誰だ、そいつは! 何で知らない奴の為に、俺が殺されなきゃならんのだ!」


 天気の良い真昼間から、こんな開けっぴろげな暗殺者がいて良いのか!?

 ノーム族の少女の肩を掴んで揺さぶっていると、店の扉が開いた。


「ただいまぁ! お土産持ってきたよ!」


 埃っぽい風を(まと)わりつかせて、いかにも旅から戻った風体の少年が店に入ってきた。その後ろからは成人男性が(また)がれる程の巨大な白犬がノッソリと後を追ってきた。

 

「ねえ、何してるの? 忘年会の練習?」


 俺と暗殺者を笑顔で眺める少年と、大きく欠伸をする巨犬。


「セハト、良いとこに来てくれた。こいつは俺を殺す気満々の暗殺者だ!」


 ノーム族の暗殺者にヘッドロックを掛けながら少年に叫ぶ。


「うそ? 暗殺者? 凄い! カッコイイ!」


 常連客の少年は好奇心満々の表情で聞き返してきた。しまった。アホが二匹に増えた。

 暗殺者にヘッドロックをかまして身動きの取れない俺の尻を巨犬がスンスン嗅いで「バウッ」と一声鳴いた。

 アホ二匹に巨獣が一匹。これは圧倒的に数的不利な状況だ。

http://blogs.yahoo.co.jp/lulutialulumoni/9989717.html

上記のブログにセハトの画像を投稿しました。


http://ncode.syosetu.com/n1480bl/

上記の「エフェメラ堂書店」や


http://ncode.syosetu.com/n4968bk/

「君たち!宿屋に感謝なさい!」では、すでに登場しておりますので、合わせて読んでいただけると嬉しいです。



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