表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前ら!武器屋に感謝しろ!  作者: ポロニア
第三章 異端の女
57/206

第57話 戦乙女の騎行

 Hojotoho! Hojotoho!

 Heiaha! Heiaha! Hojotoho! Heiaha!


 遠くから聞こえてくる掛け声。

 懐かしい森の言葉。


 *********************************


 Nun zäume dein Ross, Walküre!

 (馬の準備をするのだ! 戦乙女よ!)

 Bald entbrennt brünstiger S treit

 (すぐに激しい戦いが始まる)

 stürme zum Kampf!

 (戦場へ急げ!)

 Drum rüstig und rasch, reite zur Wal! 

 (武装せよ。戦死者の元へ騎行せよ!)


 *********************************


 女性の勇ましい叫びが響き渡る。

 あれは森の言葉。エルフの言語。


 私の足元には、見渡す限りの(おびただ)しい武装した男たちの遺骸。

 私の目前には、墓標の代わりに大地に突き立てられた無数の武器。


 誰一人として動く者はいない。むせ返るほどの死臭に思わず立ちすくむ。

 夕暮れ時の空に、不吉を感じる黒い鳥が旋回している。


 ここは何処だ? 私は、たしか地下三階にいたはず。

 ここは戦死者の丘。いつの間に私はこんなところに。

 

 日が陰ったように感じた。鳥が降りて来たのだろうか。

 戦死者たちの血を吸い上げたように、赤く赤く染まった空を見上げた。


 空から降り注ぐ灰雪のように羽毛が舞い散る。

 音も無く武装した女性が降り立つ。その背には輝く白い翼。

 私の眼前に金色(こんじき)に輝く鎧を身に着けた女性が立った。


 ひどく懐かしい気持ちに胸を衝かれる。

 お姉様、どうしてこのようなところに?

 いや、よく似た面差しだが別人だ。

 しかし、私はこの女性(ひと)を知っている。

 


 ***********************************************


 Nur Todgeweihten taugt mein Anblick

 (死のさだめにある者にしか私は見えない)

 wer mich erschaut, der scheidet vom Lebenslicht

 (私の姿を目にする者は、命の火を消すこととなる)

 Auf der Walstatt allein erschein' ich Edlen

 (戦場でのみ、私は戦士に姿を見せる)

 wer mich gewahrt, zur Wal kor ich ihn mir

 (私の姿を見る者は、すでに死すべき運命と定められし者)


 ***********************************************


 エルフ族の言葉で女性が私に語りかける。

 威厳に満ちた美しさ。

 慈しみに満ちた眼差し。


 私は貴女(あなた)を知っている。


 貴女は「六英雄」

 貴女は「金色の戦乙女」

 貴女は「私の憧れ」


 「ob ich um Freund',immer doch war ich geächtet

 (友だちを作りたくても、いつも私は仲間はずれ)

 Unheil lag auf mir

 (不幸をこの身に(まと)っていたのです)

 Was Rechtes je ich riet, andern dünkte es arg

 (私が正しいと思ったことが、人には悪いことに伝わり)

 was schlimm immer mir schien

 (良くないと思ったことが)

 andre gaben ihm Gunst

 (人には好ましいことだったのです)

 Zorn traf mich, wohin ich zog

 (行く先々で怒りを呼び起こし)

 gehrt' ich nach Wonne, weckt' ich nur Weh'

 (喜びを求めているはずなのに、悲しみしか(もたら)さない)」


 お父様にも語った事の無い胸の内を語った。

 私は、貴女のような、白く輝く森の乙女になりたかった。


 「Da wusst' ich, wer der war

 (でも、いま私は分かりました)

 als in frostig öder Fremde

 (見知らぬものばかりの凍てつく荒野で)

 Was je ich ersehnt, ersah ich in dir

 (かつて憧れたものは、貴女の中にあり)

 in dir fand ich, was je mir gefehlt

 (かつて失ったものを、貴女の中に見つけました)」

 

 私は、貴女のような、気高い戦乙女になりたかった。


 *********************************************


 Littest du Schmach

 (貴女が苦しむとき)

 und schmerzte mich Leid

 (私も心に痛みを感じる)

 war ich geächtet, und warst du entehrt

 (私が(あざけ)られるとき、貴女も共に傷つくのです)


 *********************************************

 

 「金色の戦乙女」が私の頬を両手で包むように触れ、優しく抱きしめる。

 溢れる涙が止まらない。私の全てが涙と共に流れ出ていく。

 温かい湯に浸かったときのように、私の全てが溶け出していく。


 なんて暖かいのだろう。

 なんて心地良いのだろう。


 「金色の戦乙女」が私を掻き抱いたまま宣告した。


 **************************************


 O merke wohl, was ich dir melde!

 (さあ、私の言うことを良く聞きなさい!)

 dem Stärksten allein ward sie bestimmt

 (最も強き者に与えられる最も強き武器よ)

 heraus aus der Scheide zu mir!

 (私の中からその姿を現せ!) 

 Zeig' deiner Schärfe schneidenden Zahn

 (鋭い刃を見せつけよ)

 Wer meines Speeres Spitze fürchtet

 (我が槍の穂先を怖れよ)

 Zurück vor dem Speer!

 (槍の力を思い知らせよ!)

 all deiner Kühnheit entbiete im Kampf

 (お前のすべての勇気を、戦いに注ぎ込むのだ)

 Triff ihn,Walküre!

 (突け、戦乙女よ!)

 Dies sei der Walküre Werk!

 (それが戦乙女たる、お前のつとめ(・・・)だ!)


 ***************************************


 もう、涙は止まった。

 さあ、戦場に向かおう。

  

 私の名は「全てを貫く者」

 私の名は「勝利に通じる者」


 私の名は「英雄遺物――――女神の聖槍(トリプティカ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ