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お前ら!武器屋に感謝しろ!  作者: ポロニア
第三章 異端の女
49/206

第49話 仲間と友情

*****



()う……さすがに苦戦したな」

「おい、ネスよう。大丈夫か? しこたまやられたな」

「ああ、大した事は無いが、人の姿をしていない敵の攻撃にはまだ慣れない」


 革製の胸鎧の形が変わる程の一撃だった。回避行動が遅れていたら、変形してたのは私の身体だったかも知れない。

 巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーと戦った時だ。粘つく蜘蛛の糸で、私は最大の武器である足を封じられ、強靭な蜘蛛の脚に打ち据えられて手酷い打撲を負った。地下二階にもなると、さすがに全くの無傷とは済まなくなってきていた。

 戦闘中にはミュラの神聖術で救急的に治療していたが、安全が確保出来る場所ではルルモニの治療薬や湿布薬が役に立った。

 奇妙な行動と珍妙な言動が目立つルルモニだが、彼女の薬の知識と応急手当の技量は相当な物だった。


 ノーム族はそもそも薬学に秀でた種族だが、ルルモニのそれは一種の才能だろう。独自の配合から作られた治療薬は、同じ材料から作られた治療薬に比べても効果が高い。

 的確に怪我の状態を見抜き最適な手当を行う手腕に、私たちは幾度も助けられた。


 そして、何よりも私たちを救ったのは彼女の作る飴玉だった。日の届かない地下で命懸けで戦闘を続けていると神経が消耗する。お喋りなアスベルでさえ無口になる事もしばしばだった。

 そこでルルモニ謹製の飴玉だ。私にはイチゴ飴、ソカリスには蜂蜜飴、カイラルには紅茶飴、ミュラには薄荷飴。それからアスベルには嫌がらせの激辛飴、もしくは激苦飴と、メンバーに合わせて数々の飴玉を毎回用意してくれるルルモニの優しさに何度も助けられた。

 フォーメーションについて私とアスベルが口論になった時にも飴玉ひとつで解決だ。大きな飴玉を口にしたままの口論は難しい。


「ふぁからあ! ネスは前に出ふぎだって言っふぇんだろう!」

「アふベルこふぉ私がさふぃに出てふぁら攻撃ふる決まりふぉ破っふぇいるのふぁろう!」


 優しい味は緊張でささくれ立った心を癒やしてくれる。それは神聖術とは違う自然な癒しだった。


「ルルモニはしゅみであめをつくる。きにしないでありがたいとおもえ」


 気にするべきなのか、感謝すべきなのか? ルルモニの本心はサッパリ分からないが、感謝の念は抱いておこう。



***



 二十体ほどの『弓使いの小鬼(ゴブリンアーチャー)』の集団と戦った時だ。小鬼(ゴブリン)は力は弱いが動きが素早い。早く倒さないと後衛のソカリスやミュラ、ルルモニが狙われ怪我をしかねない。


「兄ィ! やべえよ、キリがねえ!」

「ソカリス、頼む! 焼き払ってくれ!」

「分かりました。時間を稼いで下さい」


 ソカリスは第三位魔術の「炎の嵐」の予備動作に入った。大規模な魔術は発動までにタイムラグが発生する。

 まずいな。止めを刺したとばかりに思っていたゴブリンアーチャーの一匹が、倒れたままの態勢から短弓でソカリスを狙いを付けている。

 ソカリスは魔術の発動に集中して気がついていない。私が今いる距離では倒しきれる保証は無い。

 迷ってる暇は無い! 身を投げ出し、射線に飛び出した。


「あうっ!」


 左肩に矢が突き刺さる。灼けつくような痛みが走る。咄嗟に肩に刺さった矢を半ばから折り捨て、床に身体を投げ出した瞬間、ソカリスの第三位魔術が発動した!

 ゴォオウ! と音を上げた猛烈な炎がゴブリンの一団を焼き尽くす。

 私は身を伏せながら肩を襲う激痛に耐えて吹き荒れる炎の嵐を眺めた。

 炎が収まった頃には、原型を留めない燃えカスが床に散らばるだけだった。


「ネスが大変! 早く治療を!」


ミュラとルルモニが、肩の痛みに耐えかね、床に倒れ伏せた私の元に駆け寄る。そして。


「ネス、済まなかった。君のおかげで助かった」


 ソカリスは今にも泣き出しそうな表情で、倒れた私に手を差し伸べる。ソカリスが私に手を? 忌み嫌うダークエルフに手を?

 私は震える手でソカリスの手を握った。肩の痛みはどこかに忘れた。


「後衛の身を護るのは私の役目だ。必要以上に気にしないでくれ」

「僕は以前、君にとても失礼な事を言った。謝っても謝りきれない」

「私は気にしていないよ、ソカリス。君が無事で良かった」

「……君は僕の知るどんなエルフよりも勇敢で誇り高い。僕は君を尊敬する」


 その言葉だけで十分だ。

 私は「仲間」を得た。

 私は「友情」を知った。


 肌の色なんて問題では無い。拘っていたのは私自身だったのだ。






 度重なる戦闘で、私の装備は損傷が激しくなってきた。特に先日のジャイアントスパイダーとの戦闘で傷んだ革鎧の変形が酷い。歪んだ鎧のせいで戦闘姿勢に支障が出る程だ。


「やはり、ネスの装備が一番早くに傷むな。リーダーとしては懸念事項だ」

「そりゃあ、ネスは斬り込み隊長だからなあ。次に突撃したら槍が折れちまうんじゃねえか?」

「そ、それは困る。購買部で新しい装備を調達すべきだろうか?」

「いや、そろそろ学院都市の武具屋で売っている装備を手に入れても良い頃だろう」

「じゃあルルモニが、いやいやですが案内してあげる!」


 いやいやなのか……まぁ、細かい事は気にしないでおこう。

 ルルモニと一緒に行く買い物は楽しい。彼女は意外にも安くて可愛い服を探すのが上手い。

 アウターやトップスを「ユナイテッド・クローゼット」略して「ユナクロ」や「矢印良品」などの手頃な価格の店で揃えて、高級だが値段の張らないストールや帽子などの小物を「ウエスタン・ブレイブ」や「スリー・エクシード」などの高級百貨店で探すといった、積極的にお洒落を楽しむ習慣の無いエルフ族の私には、到底真似の出来ない服飾スキルには素直に感心した。ルルモニがいれば良い買い物が出来そうだ。


「無駄使いはダメですよ。お茶するくらいなら良いですけど」


 ミュラからドラゴンの横顔が刻印された銀貨を三枚を手渡された。


「いや、私は自分の所持金で装備を買ってくるよ。それにこんな大金、どうしたんだ?」

「これは皆で貯めている貯金で、パーティの為に使うのお金なの」


 私の疑問にミュラが答える。


「そうですよ。ネスの装備は僕たちが生き残る為にも必要です。皆で貯めた貯金で出来る限りの良い装備を整えてきて欲しい」


 ソカリスに言われては断わり難い。このところ、彼とは生まれ育った故郷の森や、そこでの生活を話し合う程の間柄になった。

 彼はエルフ族の美徳を誇る反面、退廃的なエルフ族の生活や文化に疑問を抱き、学院都市に来たそうだ。だからこそ、肌の色で私を差別的な目で見たことを事ある毎に恥じている。

 私は何度も気にはしていないと言ったのだが、彼の優秀な「知恵」のステータス数値が許さないのだろう。もう良いのに。ソカリスは私の大切な仲間であり、掛け替えの無い友なのだから。


***


 ルルモニの選んだ店は、学院都市でも一、二を争う大型武具店だった。

 割高だが品数が多く高品質で確かな商品を置き、素性の分からない品の鑑定や、どんなに使い込んだ中古品の買取も引き受ける総合大型武具店。確か屋号は「ボッタクル商店」だったか? いや、「ボッタクリ商店」? そんな屋号だったはず。

 ルルモニは、「買取カウンターに用があるから、先に装備でも見ていて」と言い残し、目当てのフロアに向かった。

 彼女は戦闘後にモンスターの残存物を調べている事がある。巨大な蛞蝓(ジャイアントスラッグ)の飛び散った肉片や体液を嬉々として集めるその姿に「ノーム族には不思議な風習があるな、いや、ルルモニのやる事だから想像のつかない事に使うのだろう。まさか飴の材料か?」と、危ぶんでいたのだが、それは大きな勘違いだった。


 モンスターの身体の一部は「魔導院」にとって貴重な研究素材になる場合がある。特に「錬金術科」や「薬学科」は慢性的な素材不足に喘いでいて、地下訓練施設や学院都市の外から持ち込まれる「素材」をなかなか良い値段で買い上げてくれる。その資金で持って、我々のような学院の生徒も装備を充実させることが出来るのだ。

 ただし「魔導院」の買い上げ価格は年単位でしか価格が変わらない固定相場制なので、生徒の殆どは週替わりの変動制相場を採用している学院都市の素材を買い取ってくれる店に売りに行く。ルルモニは「魔導院」の購買部に素材を売りに行くよりも「ボッタクラレ商店」に売りに行く方が儲けが出ると判断したのだろう。


 ルルモニが戻って来るまでの間、私は広々とした店内を見て周った。

 壁と店内にディスプレイされた沢山の武具。大勢の買い物客。学院の生徒らしき若者も多いが、旅の途中で立ち寄ったであろう薄汚れた装備の者や、大剣を背にした歴戦の強者といった風情の者もいる。

 様々な武器が壁一面に展示されていた。大剣から長剣、短刀や戦斧、メイスやフレイル、槍斧(ハルバード)などのポールウェポン類、使い方の分からない珍しい武器の数々。

 私は壁に展示された一本の槍に目を奪われた。素晴らしい槍だ。学院の生徒に無償で配布される訓練用の槍とは風格からして違う。説明書きを読んでみた。


****************************************


 「鋼の槍+1」


 伝統の名槍は常に究極を求められる宿命を背負い、それに答えるべき性能ポテンシャルは長い年月をかけて構築した伝統と最新鋭の技術により新たに最高次元で誕生しました。

 槍の命とも言われる素材材料は現存する最高級鉄鋼を採用し、それが持つ剛性ポテンシャルを極限にまで発揮する構造設計を幾度となく試案試作を重ねました。

 また生産工程では成形から加工までを専用ラインで材料ポテンシャルを最大限に発揮する工法を採用しました。

 これらの最新の設計・生産技術の融合により、曲げ・圧縮物理特性・強度の向上及び均一化の実現。

 物理強度特性以外では手にした時の持ち重り感の減少・戦闘でのパワー的優位性・安心感を伝える感度等を実現しました。

 頂点の醍醐味を貴方に伝えます!!


****************************************


 半分から先は読み飛ばしたが、とにかく素晴らしい逸品に違いは無さそうだ。


「そちらの槍、お試しになりますか?」

 

 揃いの黄色いエプロンを身に着けた女性店員に声をかけられた。


「え? 触っても良いでしょうか?」

「振り回したりしなければ大丈夫ですよ。触ってみないと良さが分かりませんから。さあ、どうぞ」


 穂先から柄、石突に至るまでが金属製の槍は、思いのほかに軽かった。重心のバランスが良いので今、使っている槍よりも軽く感じる程だ。

 革紐を何重にも巻いた柄を握り、突撃姿勢を取ってみた。店内の鏡に映った自分を見て心が躍る。ふふっ、まるで「金色の戦乙女」みたい。


「それが気にいったのか? かっこいいじゃないか」

「み、見てたのか。何だか恥ずかしいな」

「それにしよう。ルルモニがきにいった」


 値札を確認して、ちょっとガッカリした。この鋼の槍を買ってしまっては、(ひしゃ)げてしまった胸鎧の代わりが買えない。


「ルルモニ、これを買ったら鎧が買えないよ。他の槍にしよう」

「いや、ルルモニはこれを買うことにきめた」

「でも、お金が……私の手持ちを足したとしても、槍は買えても鎧が買えなくなる」

「ルルモニには薬でかせいだ貯金がある。それを使う」

「駄目だよ。それはルルモニのお金だ」

「ちがう。お金をあげるんじゃない。ネスにプレゼントをしたい」


 森ではひとりぼっちだった私は贈り物を貰った記憶は無い。生活用品を渡された事ならあるが、他人から物を贈られた事は無い。


「やりはパーティの金でかえ。ルルモニはネスのよろいをプレゼントする」

「嬉しいけど、やっぱりそれは……」

「私の金をどう使おうが貴様には関係無い。買ってやるから後生大事にしろ」


 泣く子とルルモニには適わない。





「こ、これを私が装備するのか」

「うん。すごいカワイイ。にあうとおもう」


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 「天使の胸鎧+1」


 涼しく快適、装備がキマる! 

 ご好評いただいた「天使の胸鎧」シリーズが進化しました。

 さらなるラインナップの拡大で「天使の胸鎧+1」がデビュー!!

 汗をかきやすい季節でも、ひんやりさわやかな着けごこち。

 くっきり谷間を叶える「天使の胸鎧+1」が新登場。

 全体にあしらわれた繊細な装飾が上品&クールな印象の胸鎧!

 脇からしっかり寄せてスリムに魅せてくれます。

 部分的に通気性の良い鉄鎖を使用し、くっきりグラマラスな谷間をメイク!

 シリーズでの完全装備をオススメします!

 「天使の兜」「天使の腰鎧」「天使の手甲」のコーディネートをお試し下さい。


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 半分から先は読み飛ばしたが、これを装備した己の姿の想像がつかない。


「ほれ、早く脱げ。減るモンじゃねえだろうがよ」


 装飾過多な胸鎧に腰が引けた私を、ルルモニが試着室に押し込んだ。


「ほれ、こうやって寄せてあげるんじゃ」

「ちょ、苦しいって。いたたたた」

「我慢せい。キレイになりたくないんか」

「キレイになる為の装備じゃないだろうが」

「え? ちがうの?」

「これは鎧だ。防御力を高める防具で、それ以上でも無く、それ以下でも無い」

「ま、いいじゃん。カワイイほうが。ほれギューっとしぼるぞ」

「ま、待って! うぐぐぅ、くるしいっ」



 鏡には「鋼の槍+1」を持ち、「天使の胸鎧+1」を装備した自分の姿。

 こ、これは……ちょっと恥ずかしいが、ちょっと良いかも。「金色の戦乙女」みたいだ。

 

「おぉ、いいじゃなーい! グッとクルゥ」

 

 またルルモニが妙な事を言っているが、満更でも無い。


「とてもお似合いですよ。お客様はスタイルが良いですから、全身鎧よりも胸鎧がお似合いですね」


 先ほどの女性店員が御世辞を言ってくれた。リップサービスかも知れないが素直に嬉しい。


「ルルモニ、ありがとう。でもこれ、結構高いんだろう?」

「ルルモニのプレゼントがネスをまもる。ルルモニには、それがうれしい」


 その気持ちだけで十分だ。私も嬉しいよ。ありがとうルルモニ。

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