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お前ら!武器屋に感謝しろ!  作者: ポロニア
第三章 異端の女
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第47話 ジョギングに挑戦!

 *


 アスベルとの模擬戦の後、己の持久力の弱さを痛感した。あの時は未完成ながら「ドラゴン・トゥース」が通用したから良かったものの、不発だった場合、床に倒れていたのは私だったはず。

 持久力については医学と関わりの深い薬学科の生徒に聞いてみるのが早いだろう。薬学科か……身近な知り合いはいただろうか?


「ネス、なにをむずかしい顔をしてやがりますか?」

 

 出たなルルモニ。だが、彼女を薬学科の代表のように考えてしまっては、薬学に身を捧げた先人に申し訳ない。


「また子供でもデキちゃったのか」


 出来るか! しかも「また」って何だ! 妙な誤解をされるだろうがっ!


「きさまにイイことをおしえてやる。われわれノーム族はタマゴからうまれるのだ」


 人の形をしているのに卵生? ノーム族とは、蜥蜴人族(リザードマン)竜人族(ドラゴニュート)に近い種なのか?


「母親が一度に十個ほどの卵を産み、二十一日間温め続ける。その後に孵化して自ら卵殻を割り、この世に誕生するのだ」


 なんと……この世には不思議な種族がいるものだな。また一つ、この世の神秘を知った。


「うそです。ぜんぶうそです」


 処刑だな。もう処刑するほかあるまい。


 *


 それから数日後、毎日走り込みを欠かさないというカイラルに、持久力を身に着ける秘訣を聞いてみた。


「私は弟ほどには戦士の才能に恵まれてはいない。アスベルには戦士として天賦の才がある」


 私は姉にコンプレックスしか感じないのに、自分の弟を認めた上で、己の弱点まで分析するとは見上げた人物だ。これも柔軟に物事を受け入れる人間族の特性なのだろうか。それともカイラルと言う男の美点なのか。


「才の足りない私が戦士として全うする為には、鍛えて自らの能力を高めるしかないとの結論を得た。その一つが持久力を高めるための走り込みだ。毎朝と毎夕、魔導院の敷地を一時間かけて一周することにしている」

「魔導院一周を一時間か。それは凄いな」


 魔導院を一周とは相当の距離だ。森で育った私はそれほど長い距離を走った事が無い。足の速い獲物を追う為に、短い距離を全速力で駆け抜ける事は得意だが。


「大した距離ではないよ。見晴らしが良いから飽きないし、何よりコースが整備されているから走りやすい」


 驚くべき事に魔導院を一周する程度の距離は、走り込む者にとっては足慣らし程度の距離らしい。


「私に続けられるだろうか」


 不安を口にすると、カイラルは、ふっ、と笑みを浮かべ、私の肩を叩いた。


「その真面目な性格こそが走り込みに一番必要な要素だよ。では、明朝に会いましょう」





 その日のうちに騎士科の同期からトレーニングウェアと靴を一式借りて、早朝のジョギングに挑戦することにした。

 早起きして外に出ると、思いの外にジョギングを楽しむ人が多くて驚いた。

 黙々と一人で走る者から、数人で談笑しながら走る者まで、それは生徒だけで無く、教官どころか魔導院の教授と思しき年配者までもが老若男女を問わずに走る事を楽しんでいた。


 カイラルと合流すると、朝の挨拶もそこそこに準備運動が始まった。


「まずは、魔導院を半周にしておきましょう」

「半周?」


 カイラルは魔導院を一周していると言っていたな。私を女だと思って甘くみているのか。


「ネス、君の性格だと何よりオーバーワークに気を付けたい」


 的確過ぎる指摘に思わず顔が熱くなる。カイラルは読心術まで習得しているのか?

 入念にストレッチをして、走るフォームをカイラルから教わった。

 走り方なんて今さら教わるものでも無いと思っていたのだが、正しいフォームを意識しながら走るのは思っていた以上に難しかった。


「そうそう。脇締めて、顔は真っ直ぐを見て。手は軽く握る感じで」


 むむ、脇を締めると顔が上向いてしまうし、考えれば考えるほど拳を握りしめてしまう。でも、並走しながらのアドバイスをくれるカイラルに感謝だ。彼の応援に応える為にも頑張らなくては。それに、もともと走る事は好きだ。森の中を駆け抜けるのは気分が良い。

 思い出して、ついつい歩調が早まった。


「駄目だよネス。ペースを上げすぎだ。気持ちは分かるけど落ち着こう」


 口髭男爵との戦闘訓練を思い出した。まだ槍の握り方、構え方から教わっていた頃、男爵に何度も何度も教わった事だ。


「戦闘は短距離を全力で駆け抜ける事に似ている。常に全力を尽くせ。どんな相手だろうが、半分の力で戦おうとするな。それは敗北、そして死に直結する」


 戦闘は勝たないと先が無い。しかし、ジョギングは勝つ事が目的では無い。己を高みに導く修練だ。

 快調に飛ばしていたが、十分も走ると呼吸が乱れてきた。膝と足首が熱くなってきた気がする。


「もっと肩の力を抜いて。少しスピードを落とそう。着地は踵からだよ。その着地だと足首を痛める」


 戦闘訓練でもそうだ。血気に逸る私は、定められた制限時間を超えて攻撃を繰り返してしまう。

 身体は物とは違う。全力で動くと必ずどこかに反動が出る。入念に柔軟体操をしようが過度の戦闘継続は必ず身体を、特に下肢を破壊する。戦闘中に足が動かなくなる。それは敗北に、死に直結する。

 戦闘訓練とジョギングは全く違う事に思えるが、鍛錬という点では同じだ。過度の訓練は身体を壊しかけない。ペースを守って少しずつ鍛えるのが正道だ。

 ジョギングは戦闘で生き残る為の鍛錬。日課にしよう。


「ネス! またペースが上がってきているぞ!まったく、アスベル並みの短絡さだなぁ」


 むう、アスベルと同じレベルとは心外な。

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