第45話 私の仲間たち
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ルルモニの紹介してくれたパーティは、戦士のカイラルとアスベル、治療役の神聖術師のミュラと薬学師のルルモニ、そして、強力な攻撃魔術を操る魔術師のソカリスの五人だ。ここに騎士科の私が加入すれば、前衛の戦闘職が三人になるので、理想的な六人編成のパーティとなる。
パーティとは「チーム」や「班」とも呼ばれ、前衛と後衛を合わせて一つの戦闘単位と数える。
前衛は正面攻撃、正面防御の要であり、強力な武器を装備し、堅固な防具に身を固め、パーティ全体の殲滅能力、生存確率を高める役割を担う。
後衛の三名は、弓などの長距離後方支援攻撃や攪乱、魔術師の攻撃魔術、神聖術師や薬学師の治癒術を駆使して前衛のサポートを担う。
空間に制限のある地下訓練施設では、前衛三名、後衛三名のフォーメーションが理想的と考えられている。
私たちは昼休みを利用して、何度も学生食堂に集まりミーティングを重ねた。
「地下訓練施設はセオリー通りだが、屋内戦的な戦術が適していると思う」
ティーカップを手にしたカイラルが落ち着いた口調で語る。紅茶派で理論派のカイラルらしい物言いだ。
「物陰に隠れて待ち伏せされるのは洒落にならねぇからなあ」
カイラルの弟、アスベルが左腕の古傷を摩る。以前、待ち伏せを受けた際に受けた傷だという。兄のカイラルに比べて、アスベルには生傷が多い様に見えるのは、戦士としての腕の差なのだろうか。
「私は森で生まれ育った。目や耳には自信がある。私が先頭を歩いてみてはどうだろうか?」
珈琲党の私は、使い込まれたマグカップを片手に提言した。
私の目は木の葉一枚一枚の違いを見分け、私の耳は木の葉が地に落ちる音すら聞き分ける。そして何より「勘」だ。森で育った私は勘が鋭い。危険な生物の気配を感知する「勘」には自信がある。
「いや、女性を矢面に立たせるのは抵抗がある。その案はどうだろうか」
「カイラル、私を侮っているのか?」
「いやいや、失礼した。そんなつもりで言ったのではない。忘れてくれ」
慌てて手を振り、謝罪したカイラルを見て、全員がどっと笑った。
カイラルの、「知恵」のステータス数値からくる冷静な状況判断は、理論的で信用出来そうだ。モラルもあり統率力に溢れる文句無しのリーダーだと思う。
「今までは俺が先頭だったんだけどさ、音とか別に気にして無かったモンな」
パーティの中では、アスベルが最も戦闘能力や戦闘技術が高い。「力」、「生命力」、「早さ」のステータス数値のバランスが良く、殺傷力の高い戦斧を自在に操る腕力と器用さを持ち合わせる優秀な戦士だ。
私たち前衛の三名は、私を先頭に据えて、その後ろにカイラルとアスベルが横に並ぶフォーメーションを選択した。
「後衛は、今まで通りの編成で良いでしょうか?」
「正直なところ、戦闘状態に入ると後ろを気にしていられなくなる。サブリーダーは引き続きソカリスに頼む」
「ルルモニが、タイチョーをやってやってもよいぞ」
「モニモニ隊長、俺は生きて還りたいんだ。自重してくれ」
後衛は、魔術師のソカリスを中心に、神聖術師のミュラと薬学師のルルモニを左右で流動的に動くように決めた。
後衛のサブリーダーたる魔術師ソカリスは、自らの攻撃魔術で敵勢力に被害を与えながらも、回復や防御の為のサポートを神聖術科のミュラ、薬学科のルルモニに的確に指示を出す、言わばパーティの頭脳だ。
「傷の治療には、神様と私の神聖術を信じて下さい。神様は等しく平等なのです。そもそも神様の愛とは、神様が我々を愛して下さって……」
シスターのような制服を着たミュラが、祈るように手を組み目を瞑ると、それは敬虔な修道女にしか見えない。控えめな化粧を施した清楚な容貌と、慎み深い彼女の振る舞いを見ていると、女性としての完全な敗北を実感する。これを女子力というのだろうか。
「ルルモニはみんなをあいしておるぞよ」
「モニモニ、お前、愛って何だか説明してみろよ」
「愛、それはお互いを見つめ合う事ではなく、一緒に同じ方向を見つめる事である」
「……お前、たまにとんでもない事を口にするよな」
敵の特徴や状況に応じてフォーメーションを変えるのが正道だが、まだ実戦を経験していない私を抱える新造パーティでは、一つのフォーメーションを体に覚えこませる方が得策だろう。実戦を重ねるうちに新たなフォーメーションの必要性が出てくるはずだ。