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お前ら!武器屋に感謝しろ!  作者: ポロニア
第二章 眼鏡の女錬金術師
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第30話 帰りたい 何処へ?

 職種適性検査の結果、私が就いた職業は……適正無し。すなわち無職。

 さすがに落ち込んだ。その残酷な言葉の響きに。別に良いんです。気にしていません。だって私、十三歳ですもの。でも、せめて”学院の生徒”って呼んで欲しい。


 総合戦闘科の適性検査はそもそも受けもしなかった。だって受けても意味無いし。

 中学校の身体測定で、握力計を握ってもピクリともしなかった事がある。これ、壊れているんじゃないの? って、思っていたら、ナナちゃんが、「ぐいーん」ってやったのを見て、これは私に向かないスポーツなんだ、って確信した。

 でも、「知恵」のステータス数値が一番大切と言われる「魔術師」や「錬金術師」には向いてると自分でも思ってのに、「生命力」のステータス数値があんまりにも低すぎて「適性無し」と、なってしまった。

 どうしてダメなの? いじわるっ! って思ったけど、ステータス数値についての講義を思い出して納得するしかなかった。


 魔術師は、魔術に対する理解の為の研究と、発現する事象をイメージする為の鍛錬、「瞑想」をするのが大切なんだって。

 長時間に渡る深い深い瞑想は、意外に体力勝負。

 持続する心の強さ、すなわち「精神力」も「生命力」に含まれる要素だから、私は精神力も弱いのね。悲しいくらいに納得。


 錬金術師は、研究研究、とにかく研究! 「神秘の神髄に至る為の道程を探る」なんてカッコイイことを言ってるけど、結局は研究。これには、根性が必要ね。

 私、可愛い服は大スキだけど針仕事は全然ダメ。ママの手伝いをしてみたけど、最終的には苦笑いで断られた。私には「根性」のステータス数値が足りないのかな……あれ、違う? もしかして不器用だから? だとしたら『速さ』のステータス数値が足りていないのかも?


 不信心者な私には、そもそも向いていなさそうだけど、神聖術科は「神の奇跡」や「神の恩寵」を受けるために、祈りの聖歌「神聖詠唱」を歌う。

 長い時間をかけて歌い続けるのは、喘息持ちの私には厳しいと思う。


 体質の弱い私としては、医学に通じる『薬学科』にも興味があったのだけど、喘息を悪化させかねない香気の強い薬草を取り扱わないとあっては、きっと長くは続けられない。


 「鑑定科」は悩むところ。古い美術品やキレイな絵画に興味はあるけど、私は知りたいの。私の知らない世界を。私は見たいの。私の見た事の無い世界を。


 うむむむむ。力仕事の戦士や盗賊には『知恵』のステータスはあんまり関係無いと思っていたのと同じように、魔術師や錬金術師のような頭脳職だと思っていた職種にも『生命力』のステータス数値が物を言うとは意外だった。


 そうして私は『魔術科』と『錬金術科』の担当教官と相談した結果、とりあえず講義だけでも受けてみる事にした。 

 


***



「イメージするんだ。杖の先端に火が灯るイメージを」


 魔術科の教官に促されるままに、杖の先端に火をイメージ。先端に火。ひ?

 火っ火っふぅ。火っ火っふぅ。こうかな? いや、これは何か違う物を生み出す時のイメージだ。


 魔術とは、世界に満ちる「精霊」を従わせる術。その為には、「世界」を理解し「想像」し「制御」する力が必要。

 「精霊」とは比喩的表現。「エネルギー」、「エーテル」、「マナ」など、人によって呼び名が違う。火球を発生させる第一位魔術から、兵士ごと砦を吹き飛ばす程の威力を誇る第七位魔術など、主に攻撃や破壊に適した魔術。

 現在の研究目標は「第八位魔術」の開発。


 火ねぇ……イメージしろ、と言われても、いきなりは難しいなあ。

 よぅし、ここは一発、六英雄の『気の強い魔女』になりきってみよう!

 私は炎を操る魔女。そして、銀髪のソードマスターの妻……妻といったらお嫁さん……お嫁さんといったら銀髪のソードマスターのお嫁さんになりたい……何よ、かえって駄目じゃない。


 六英雄の時代には、錬金術師は存在していないの。ここ数十年で、一気に研究が進んだみたい。戦闘に直接役に立つ職業では無いのだけど、錬金術を応用して強力な武具や道具を作り出せる。

 例えば、指で擦るだけで小さな炎が出せる「魔火石」なんて、とっても便利。

 現在の研究目標は「賢者の石」の開発。


「こんなに短時間で素材の選別を覚えるとは。君は筋が良いね。素晴らしい」


 汚れた白衣を着た錬金術科の教官に褒められた。

 私は褒められると伸びる子。だから、もっと褒めて! って、自分で言ってちゃ駄目ね。

 私がやっているのは、錬金術に使う石の選別。はっきり言って地味。でも、”見た事も聞いたことも無い、新しい物を作り出す”って、凄く魅力的。だって私が考え、作った物が世界を変えるかも知れないって事でしょう? それに『ロリコンスレイヤー』を作り出すチャンスも巡ってくる。此の世からロリコンを一人残らず駆除する夢は諦めてない。


 「魔術科」のカッコイイ制服は惜しいけど、私は「錬金術科」を選択した。暫定的見習い錬金術師。でも不健康普通科中学生よりは、ずっと良い。何より学院に残れるのが嬉しい。

 寮長さんはどんな顔するかな? 喜んでくれるかな? それとも怒るのかな? どっちでも良いや。

 私は寮長さんに会いたい。抱きしめられたいし、抱きしめてあげたい。


 魔導院に本格的に入学する前に一時帰宅を許された。学院は全寮制だから、今までみたいに朝起きて、学校に行って、帰ってきて、それからママと一緒に過ごすというわけにはいかない。しかも、私の場合は魔導院から半ば強制的に入学させられるような状況。だから、今夜くらいはママに会いたい。会いたいはず。

 

 ――どうしたの私。ママに会いたくないの? 


 久しぶりにママに会えるのに心が躍らない。ペンダントに触る気持ちにならない。体調は良い。この七日間で喘息が良くなった気がする。


 七日ぶりの自宅。他人の家みたいに馴染まない空気。嗅ぎ慣れない臭い。足裏に触れる床に違和感。壁紙の色って、こんな色だった?

 七日ぶりのママ。痩せたみたい。こんな笑顔だった? こんな目つきだった? こんな喋り方だった? こんなママだった?


「お願いだからママを一人にしないで」


 大人の人を胸に抱くのは今日は二回め。でも、私の芯は冷たく冷たく冴えきっている。

 寮長さんの部屋に、深い海の聖域に帰りたい。


 その夜、私は喘息発作を起こした。

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