第3話 ロングソードは男のロマン!
地下訓練施設を攻略するのは、当たり前だが一人じゃ無理だ。訓練所の教官からは、六人一組の小隊を編成して地下に挑むように徹底された。
この六人チームってのは伝統だよね。前衛三人・後衛三人の六人チーム。前衛の三人が攻撃し盾となり、後衛は魔術で敵を撃ち、味方を癒しサポートする。うん、素晴らしき機能美だね。
なに? 今はチームじゃなくて「パーティ」って言うのか。じゃあ、特攻野郎Aパーティ、つーのか? いや……何でもない。
んで、そのチームにな……あ、パーティか。うん、そのパーティのメンバーにね、これまた可愛い女の子がいたんだな。「神聖術科」の防御力、いや、ガードの固いお嬢さんだったが、土下座で頼み込んでみたら彼女になってくれたんだ。効くぞ、土下座は。挑戦してみたいヤツは自己責任で試してくれ。
彼女のルックス? そうだな。例えるなら『ロングソード+2』って感じか。
頑張れば手が届くが結構なお値段で、格好良く、自慢も出来て、使い心地抜群って事だ。お前ら、”使い心地”で変な想像しただろ?
……話を戻そう。訓練施設地下二階は、モンスターも少しは手強くなってくる。
例えばショートソードに小型のシールドを携えたネズミ人間だ。お粗末な頭脳ながらも、こちらの攻撃をシールドで受けて、ショートソードで反撃してくる。こういった相手には、メイスや棍棒でシールドの上からブン殴れ。
熟練の戦士にもなるとシールドってのは受け止めるのでは無くってな、受け流す為に使うんだ。だが、経験の少ない者ほどガッチリと受け止めようとしてしまう。棍棒の一撃をシールドでまともに受けてみな。手首が折れるぞ。
棍棒は格好悪いだと? 気持ちは分かるが、棍棒の威圧感は凄いぞ。街中で両手に棍棒を持った男に出くわしたとする。俺ならダッシュで逃げる。お前らも逃げた方が良い。だけどさぁ、やはり何と言ってもロングソードの汎用性が一番だな。切って良し、払って良しで突いて良し。そして何より格好良い。腰布一丁でロングソードを振り回す、筋骨隆々でグレートなバーバリアンに憧れたもんだよ。
なに、知らない? パンイチでムキムキで刃物なんて、変態じゃないかって? これだから最近の若い奴らは物を知らなくて困る。
ああ、そうだ。宝箱の話もしておこうかな。
訓練施設の地下二階からは「モンスターも宝箱を落とす事がある」と、いう設定。
モンスターを倒すと、教官なり先輩がそっと部屋の隅に用意してくれるんだ。いま思い出すと笑えるよな。地下二階のモンスターなんぞ巨大蜘蛛とかスライムだぞ。宝箱なんぞ隠し持っている方が不自然だ。
巨大蜘蛛の倒し方を教えろって? そうだな。狙いやすいからって脚を狙うなよ。一本切り落としたところでビクともしない。胴体の中心を狙うんだ。
使いこなせるなら弓矢が安全に攻撃出来て良いな。クロスボウは威力があるが、室内での混戦には向かないし、二の矢の装填に時間がかかる。ショートボウで連射ってのが正解かな。自信があるならロングボウで狙い澄ましての一撃! ってのも素敵だ。
何だって? スライムの倒し方まで聞きたいのか?
お前ら、スライム見た事はあるか? もしや、青くてプルプルしたカワイイのを想像してるんじゃあるまいな。あれはファンタジーだ。いや、クエストか。
現実的なスライムは……そうだな。深夜の盛り場の床に広がるアレだ。触りたくないよな? 踏みたくないよな?
そこで、この「ひのきの棒」だ。これで掻き回してやれ。そして、その場で「ひのきの棒」を捨てろ。新しい「ひのきの棒」なら店にいくらでもある。買って帰れ。お願いします。
宝箱の話だったな。これには罠が仕掛けられている事が多い。正しい鍵で開けないと罠が発動する仕組みだが、これは開錠技術を学んだ者が扱わないと危険極まりない。罠にかかるのを承知で宝箱を開けるヤツもいるが、お勧めはしないな。
学院の先輩達が用意した宝箱は、罠も先輩お手製だ。インクの詰まった水風船が飛んで来たり、激悪臭のガスなど気の利いた罠が殆どだが、女子寮の風呂に座標を合わされてテレポートさせられたパーティがいたな。強制転移の罠なんて、余程の高レベルの錬金術師しか作成出来ない。悪戯好きの先輩がいたんだろう。
かく言う俺も、地下二階まではお客さん気分だった。ちょっとしたスリルを楽しめる遠足気分、って言っても正解かな。
そう、それまでは用意された迷宮アトラクションで「冒険者ごっこ」をしていただけだったんだ。