第26話 サイズ選びは慎重にね
私が憧れた「ちょいカワイイ&ちょいエレガンス&ちょいセクシー」略して「ちょいカワエレセク」な女の子の制服は、戦士科や騎士科などの生徒が着る『総合戦闘科』の女子制服だった。戦闘系の制服らしく、動きやすさも重視されているから肌の露出が多かったみたい。
「魔術科」の女子制服は、ホントに魔女が着ているローブみたいで、魔導院の紋章が入っていてカッコイイの。あれを着たら六英雄の「勝ち気な魔女」みたいになれるかも。
「神聖術科」の制服は修道女みたいにディンプルを被るの。それだけでもシスター気分を味わえそう。
「錬金術科」の制服は、ちょっと残念。薬品の調合や金属の精製で汚れやすいから、制服の上にシンプルなケープを羽織るだけ。
私の場合、Sサイズだと胸がきつくて、Mサイズだと身体が制服に着られちゃう。Lサイズなんて論外。
十八歳以上の生徒の制服には、もっと細かなサイズ区分があるんだけど、私の身長では大幅に丈詰めしないと着られないし、裾や袖のデザインが死ぬのなんて絶対の絶対に許せない!
うむむむむむ。でも仕方ない。七日間だけでも学院の生徒の気分を味わうには、これくらいは妥協しなくては。
結局のところ、私は「総合戦闘科」のMサイズの制服を借りることにした。
午前中いっぱいから昼食の休憩を挟み、日が落ちるまでが精密検査の拘束時間。中学校にいる時間よりも長い。でも辛くは無かった。ううん、むしろ楽しいくらい。
いよいよ身体中のあちこちを調べられるのかと思っていたら、講義を受けてテストして、その後に感想文。学校で過ごしているのと大して変わらない感じ?
でも、講義の内容は中学校の授業なんかよりも断然面白いの。特にステータス鑑定師から教わった基本ステータス講座は、とっても為になった。
私も頑張って勉強したらステータス鑑定師になれるかな? よぉ〜し、いまの内に講義の復習をしておこう!
「力」・・・単純に筋力の目安じゃないの。ムキムキの大男の気の抜けたパンチと、怒った女の子のビンタは、往々にして怒りのビンタの方が威力が上回る時がある。「意思の強さ」も、大きく数値を左右するんだ。
「気合いだー!」とか「元気ですかー!」って、普段から叫んでいる人は凄い数値が出るかも。
「知恵」・・・素の頭の良さよ。勘違いしてはいけないのは、知識があればステータス数値が高くなる訳ではないの。もし、知識の量が知恵のステータス数値を左右するなら、お年寄りや人間の三倍くらいの寿命のあるエルフ族は、とんでもない数字が出ちゃうことになる。
「知恵の泉」って言葉があるでしょう? 泉の水が知識だとすれば、その広さや深さが「知恵」のステータス数値ということ。知識という水の入るコップの大きさと思っても正解ね。
「信仰」・・・神様を信じる心の深さの数値。じゃあ、私みたいな不信心者は絶対低い数値になるかな、と思ったら違うみたい。確かに私は特定の神様を信仰はしていないけれども、神様はいるって信じているし、良いことあったら「ラッキー!」って思う。これは「幸運の神」を信じている、って事に繋がるの。だけど、毎日礼拝を欠かさないのに「信仰」のステータス数値が低い人もいる。神様を信じているのに、どこかで神様を信じきれていないなんて、何だか無情ね。
「生命力」・・・これは一番自信が無い。幼い頃はそんなに体が弱い方でも無かったのにね。これは意外なのだけど、ムキムキの大男よりも子供の方が高い数値が高く出る事があるの。子供の頃の方が、怪我の治りが良かった事があるでしょう? ムキムキの大男は、明日にも亡くなる不治の病を抱えているかも知れない。意外に見た目に左右されないのが「生命力」ね。
「速さ」・・・足の速さ。以上。ちが~う! もちろん物理的な速度も大きく数値に関与するけど、「器用さ」とか、「頭の回転の速さ」も関わってる。頭は良いのに気が回らない人とか、空気が読めないのに、やたらと行動力がある人っているでしょ? そういう人は「速さ」のステータス数値に影響されているみたい。
「運」・・・小銭を拾ってラッキー! って、思える人もいれば、見かけてもスルーする人だっている。「ラッキー!」って思える人ほど「運」のステータス数値が高くなる素質を秘めているんだって。「運」の数値は、日替わりで変動するみたい。「今月に入ってツキが落ちた」とか「俺にもやっと運が回ってきた」なんて、良く耳にするフレーズね。
これら六つのステータスを組み合わせると、その人の特性が見えてくるの。
「力」や「生命力」に優れていると戦士に向いていると言えるのだけど、「速さ」が無いと先手を取れないし、「知恵」が足りないと攻撃が単調になる。一流の戦士になるには「速さ」や「知恵」は不可欠って事ね。
「信仰」だけが高い聖職者は、教義の為に教祖を殺すような狂信者に成り果てる恐れもある。やっぱり、真実を見通す「知恵」も大事。
「速さ」と「運」さえ高ければ良いと思われている盗賊も、「知恵」が無いと開錠のコツとか、罠の種類が覚えられない。「知恵」のステータスが低い盗賊は、あっさりと死に直結する罠に引っかかるかも。
「知恵」の神を信仰しているステータス鑑定師が講師だったから、「知恵」に重点を置いた講義だったけど、たった六つのステータスが、こんなにも私たちに深く関わっていたとは思ってもみなかった。
*
「君はたった一度の講義で、ここまでステータスについて理解したのか!」
私の書いた講義の感想文を読み終えたステータス鑑定師は、呆気に取られた顔をして私を見た。
「さすがは魔導院の宝石! 僕の目に狂いは無かった。あぁ、美しきは知恵の宝石よ、恩寵の輝石よ」
また始まるの、それ!? せっかく、六英雄伝説の好きなシーンを考えてきたのに。えっとねぇ、まずは『私の選ぶ、銀髪の剣士様の名シーン』の第十位から!
結局、私と鑑定師による六英雄伝説論争は、学生食堂で夕食を取っている最中も続き、それこそ女子寮に入る寸前までも続いたのでした。今日は、さすがに疲れた!




