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お前ら!武器屋に感謝しろ!  作者: ポロニア
第二章 眼鏡の女錬金術師
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第25話 宝石の少女

 黒蜜味の飴玉は私にはちょっと大きくって、危うく喉に詰まりそうになった。もう、本当にあの世に逝くかと思っちゃった……恐るべし女将軍の黒蜜飴。

 私の隣りをぴったりと寄り添うように歩く隊長さんは、ぶっきらぼうだけど、とても優しかった。どうして魔導院には優しい人が多いのだろう。

 お別れの前に隊長さんの名前を聞いておきたくなった。もう二度と会えない、そんな予感がしたから。


「所属している機関の性質上、みだりに名前は教えられない」


 私が泣きそうな顔をしたら、隊長さんは少し慌てたみたい。


「君とはまた出会う気がする。尤も、我々とは関わりあいにならない方が良いのだが」


 そう言って隊長さんは別れを告げ、堂々とした歩様で去っていった。私はその痺れるような後ろ姿を、見えなくなるまで見送った。

 ありがとう、破廉恥なロリコン教師を退治してくれたダークエルフの女将軍様。大スキです。



 *



「先日は済まなかったね。僕らもこんな事は初めてで取り乱してしまった。中学生の女の子を前に恥ずかしいよ」


 再会するなりステータス鑑定師の若い男性は頭を下げて謝罪した。

 彼は「知恵」の神を信仰する聖職者でもあり、「知恵」のステータス数値を鑑定するのが専門だと説明してくれた。


 私が家に帰った後、魔導院はしばらく上を下への大騒ぎだったらしい。

 十三歳の少女(私のことらしい)の叩き出した「知恵」のステータス数値。それは過去の偉大な学者や大魔術師をも超える、とんでもない数値だった、らしい(私のことらしい)。

 「新人類(私のことらしい)」だの「突然変異の怪物(私のことらしい)」だの「十の位と一の位の勘違い(もう、どーでもいい)」だの、どれも私には良く分からない。それに、魔導院が大騒ぎになる理由も分からない。

 そもそも私は保険室の先生に紹介されて、喘息の検査の延長として魔導院に来ただけで、それが何で仮面の怪しい集団に拉致されてまでして来なければいけなかったのでしょうか? 「歩いて来い」って言われれば、普通に歩いて行きますけど。


「君は自分の価値に気が付いていない」


 「知恵」のステータス鑑定師はうっとりした目で私を見つめた。嫌な予感がする。


「君は知恵の女神の遣わした天使なのかも知れない。いや、間違いない! その美しさ、清らかさ、優しさ。僕は、君の涙を見た時に神の啓示を受けたんだ。あんな気持ちは生まれて初めてだった……」


 口と目を半開きにして、壁の一点を見つめてる……ちょっと危ない人かも。悪い人では無さそうだけど。きっと「信仰」のステータス数値が高すぎるのね。


「君には七日間かけて検査を受けてもらう」


 落ち付きを取り戻した彼は、私に告げた。

 えぇえ!? 学校はどうするの? 期末試験が近いんですけど。

 ママはどうなるの? 一週間も私がいなかったら、ママはおかしくなっちゃうかも。


「怖い言い方で申し訳ないんだけど、君にも学校にも、君のお母様にも選択の余地は無いんだ。魔導塔の長老会議が、君に関する事の全てに魔導院法第七条を発動したんだよ」


 『第七条』、子供でも知ってる。長ったらしい文言があるんだけど、要は「魔導院の決定に逆らったら死刑」になる。もし私が逃げ出したら、風紀委員会? それとも、さっきまで一緒にいた隊長さんが追いかけて来るのかな。また会えるなら、それも良いかも。


「君が七日間、魔導院で生活するのに必要な物は全てこちらで用意する。女子の学生寮を一部屋空けるから住む場所の心配は無いよ。他にも思いついたら何でも言ってね」


 必要な物。ご飯? 学生食堂がある。

 喘息の薬? 薬学科に何十年分かのストックはあると思う。


「あのぅ……私、読みたい本があるんです」

「何だろう? 図書館にある本なら良いね」

「笑わないで下さいね。真・六英雄伝説です」

「僕は隻眼のサムライ派だな。君は?」


 え? この人何を言ってるの?


「わ、私は銀髪のソードマスターがスキ……です」

「くぁーっ! やっぱり女子は、そっちいくよなぁ! やっぱり隻眼のサムライの渋さは男にしかわからんよ」

「なっ、何いってるんですか! 銀髪のソードマスターが、隻眼のサムライのピンチを救ったんじゃないですか!」

「やっぱり女の子は分かってないなぁ。あそこは隻眼のサムライが、わざと花を持たせたんだよ」

「違いますぅーあの状況で刀が折れるなんて絶対に油断ですぅー」


 もう! 絶対に銀髪のソードマスターの方が凄カッコ良いのに!

 なんで男の人って、自分の意見を押し付けてくるの! キライ!


 人と好きな物の話をするのが、こんなに楽しいなんて知らなかった。

 私の空っぽの「知恵」に、スキが少しずつ満たされていく。


*****


「……とりあえず、六英雄の続きは明日にしようか」

「はい。私も話し疲れました」


 こんなに長く男の人と話したのは初めて。魔導院(ここ)に来ると、私は、私では無い別の人間になった気がする。素直になれる。思った事がはっきり言える。胸の大きさを気にしなくて良い。私をイジメる人がいない。イヤらしい大人がいない。


「あの、あと、ダメなら良いんですけど……制服が……」

「ああ、その中学校の制服だと魔導院じゃ浮いちゃうからね。後で女子に言って手配してもらうよ」

「良いんですか? 私が魔導院の制服を着ても良いんですか?」

「その方が自然だしね」


 やった! 魔導院の、あのカワイイ制服が着れる! やった! やった! ステキ! 本当にステキ!


「それと、便宜上、君の事を七日間の間、『宝石』と呼ぶよ。コードネームだね。これは長老会議が決めたんだ」

「宝石、ですか?」

「君は魔導院が発掘した宝石になるかも知れないからね」


 私が、宝石……?


「知恵の宝石か……うん、良い! 天使も捨てがたいけど、宝石も良いなあ! ああ、知恵の神の与え賜うた美しき宝石よ」


 また変なスイッチが入ってしまったみたい。

 悪い人では無さそうだけど……面白い。スキ。

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