第24話 赤と黒
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「この少女が我々の『荷物』ですか」
「ああ、間違い無い。我々の残りの任務は、訓練所への荷物の迅速な運搬。それで任務は完了だ」
「上は何をそんなに慌てているのですか?」
「知らんよ。貴様らが任務内容を気にするのは珍しいな」
「当然です。我々が出動するのは第六レベル以上の作戦が発動された時に限定されます」
「不満か? ならば、第六レベル以上の要人救出作戦だと考えろ。任務完了まで気を抜くな」
真昼間の平和な学院都市でフォーメーションを組んで警戒移動する仮面の武装集団。どう好意的に見ても異常な光景。学院都市の住人は、極力目を合わせないようにしている。きっと私だってそうするだろう。しかも、フォーメーションの中心は女子中学生。何ですか、これ?
白馬の騎士団にでも護衛されれば、お姫様気分が味わえそうだけど、これじゃあ護送される凶悪犯みたいじゃない。
仮面の一団に護送され、凶悪犯たる私は遂に処刑場に到着した。後は断罪されるのを待つ身。そんな気分。
またここに、また魔導院に来てしまった。これ以上傷つきたくないのに、どうして放っておいてくれないの?
少し胸が痛くなってきたので、こっそりとママのペンダントを取り出して握りしめた。ここなら意地悪な女の子達にペンダントを取り上げられる事も無い。
赤い髪の隊長さんが横目でこちらを伺っている。ちょっと怖いけど、長い耳がカワイイ。ピコピコ動いている。エルフの耳が動くのは、興味がある物に反応している時だと本で読んだ。そうか、この人エルフなんだ。でも、褐色の肌は……。
私たち人間族以外にも、大陸にはコミュニケーションが取れる種族がいる。その中でも人間族と友好的な種族の一つがエルフ族。
人間族に近い種族で見た目も似ている。でも私はエルフと面と向かって話した事も無い。それどころか異種族の交流が盛んな学院都市でも、たまに見かける程度。
エルフ族は、男性も女性も美形でスマートで耳が長くてピコピコしてる。街中で見かけると思わず見惚れてしまう。ピコピコする耳……ちょっとスキ。
森林や泉などの美しい自然を愛する種族で、喧騒を好まないあまり、自分たちのテリトリーである深い森から出たがらない種族と中学校で習った。
でも、この赤毛の隊長さんはどうだろう。私が知るエルフと言う種族は、こんなに背が高くないし、こんなに肌が浅黒くもない。もしかしてこの人……ダークエルフ?
すうっと血の気が引くのを感じた。銀髪のソードマスターを騙まし討ちにしたのはダークエルフの女将軍だ。そういえば、この隊長さんは『真・六英雄伝説』に出てくるダークエルフの女将軍のイメージにぴったり……
「任務の完了を宣言する。解散し、各自、次の作戦に備えろ」
ダークエルフの女将軍が仮面の黒騎士たちに号令を下すと、黒騎士たちは一斉に敬礼し、闇へと還って行った。
ちょっとちょっと、しっかりしてよ私。『真・六英雄伝説』に嵌りすぎよ。戻って来なさい。
「ここから先は私が案内しよう。ついて来い」
ああ……いよいよあの世に案内されるんだ。ダークエルフの女将軍に。銀髪のソードマスターと同じ運命を辿るのならば、それも悪くないわ。少し咳が出た。
私の前を歩いていたダークエルフの将軍が私を振り返る。そして、何も言わずに懐に手を入れた。
きっと懐に忍ばせた残酷な光を放つ漆黒の短刀に、この胸を刺し貫かれるのね。銀髪のソードマスターと同様に。
あぁ、愛しの銀髪のソードマスター様。
いまこそ貴方の元に逝きます。
「イチゴ味と黒蜜味」
ダークエルフの女将軍が地獄の底から轟くような声で言った。差し出されたその手には、赤い玉と黒い玉が乗っている。
「好きな方を選べ」
好きな方で死ねと言うことね。
絶対に黒い玉には呪いが込められている。
でも、赤い玉は鮮血の呪いかも知れない。
「ちなみに私はイチゴ味が好きだ」
それを先に言われちゃったら選べないじゃない。