第22話 お願いだから 笑わないで
「おいおいおい、僕の授業を受けるよりも、その本の方が面白いのかい?」
しまった。小説の世界に没頭しているうちに次の授業が始まっていた。しかも、よりによってアイツの授業だ。
慌てて『真・六英雄伝説』を机の中に仕舞おうとしたが、その手を掴まれてしまう。。
触るな変態! 離せロリコン教師! お前なんか、この「ロリコンスレイヤー」でやっつけて――――そんな物は無い。いい加減に居心地の良い世界から帰ってきなさいよ、私。馬鹿じゃないの?
「ふぅん。こういうの読むんだ? 八百点満点の天才少女は」
ロリコン教師は、私の手から取り上げた「真・六英雄伝説」を馬鹿にするようにパラパラと捲る。
「授業中に読んでいたのは謝ります。ごめんなさい。でも大事な本なんです。返して下さい」
はっきりと言ったつもりだったのに、小さな声しか出ない。胸がシクリとする。
「おい、みんな。こういう本を授業中に読むと、次のテストで八百点満点が取れるかも知れないぞ。なんせ天才少女の愛読書だからな」
ロリコン教師は、近くにいた女子生徒に『真・英雄伝説』を手渡した。
「うわ、キモっ。私、こういうの全然ムリ」
「意外だなあ、こーゆーの読む人なんだ」
「ロクエイユウってなに? 美味しいの?」
「挿絵がいかにもだよね」
「イマドキ六英雄ってナシでしょ」
「こういう王道モノ嫌いなんだよね。今はやっぱり美少女剣士のさ……」
「あ、俺もそれ好き。やっぱキャラデザが大事っしょ」
私の大切な『真・六英雄伝説』がクラス中に回され、笑い物にされている。
冷めた笑いが、嘲笑の輪が拡がっていく。私は顔を覆って机に伏した。
やめて、馬鹿にしないで。
お願いだから笑わないで。
好きなのよ。六英雄の物語が。
仲間の為に命を懸ける英雄たちが。
明日には死ぬかも知れない世界で、精一杯に生きる人たちが!
……大スキなの。
あんたらみたいに人をイジメて楽しむ人間がいる世界よりも!
女の子にイヤらしい事をする変態がいる世界よりも!
嫌いなの。こんな世界は嫌いなのよ!
……大キライなの。
空想に逃げる私を笑えばいいじゃない。
自分の世界に閉じこもる私を馬鹿にすればいいじゃない。
でも、六英雄は本当にいた人たちなのよ。
笑ったり泣いたり愛したり憎んだりしたの。
大昔に生きた人たちだけど、私たちと同じ人間なのよ。
――――未来に生きる子孫のために
銀髪のソードマスターは、宝石の剣に誓った。
――――明日を生きるこの子たちのために
勝気な魔女は、幼子を胸に抱いて微笑んだ。
命を懸けて戦った人たちを笑わないで。
未来のために命を捧げた人たちを笑わないで。
お願いだから
お願いだから笑わないで
銀髪のソードマスターは、私を助けに来てくれない。
私は泣く事しか出来ない、馬鹿な十三歳の女の子。