第21話 イジメ カッコワルイ
結局、ステータス鑑定の件は保留となった。
私を遠巻きに見ていたステータス鑑定師たちは六人六様の意見を言っていたけど、話の内容が難しすぎて私の「知恵」のステータス数値では、ちっとも理解は出来なかった。
結局はそう……私も「馬鹿」の一員なんだ。
***
「暑い……死ぬ」
あまりの暑さに机に突っ伏した。席は教室の一番前の窓際。一番前なのは、目が悪い私の為の配慮。
この時期に死ぬほど暑い窓際なのは、身体が弱い私が日光浴が出来るようにと、ナナちゃんが提案してくれたから。ありがとうナナちゃん。でもキライ。
担任のロリコン教師は、「お前らの友達想いの優しさ。先生は感動した!」とか言って涙ぐんでるの。馬鹿じゃないの? 死ね。
それから私以外のクラス全員で拍手喝采。全員キライ。
私は強制的に教室の隅に追いやられた。
教室の席は等間隔で並んでいる。でも私の席だけ、ぽつりと離れた歪な距離感。
どうやら私は「いじめ」に遭っているようだ。
席を外して戻ってみると、机に卑猥な落書きがされていた。男子の字は汚いから、すぐに分かる。しかも筆跡で誰が書いたのかも、私には分かる。ニキビ面の男子。
最近は露骨にイヤらしい事を言ってきたり、私の肩を抱いたり腰に手を回してくる。
ニキビ男子の父親は学院都市の、ちょっとした商店の店主で、更には中学校の父母会の会長だ。悪い取り巻きがいて、教師も迂闊に注意が出来ない。
私が中間試験でカンニングをして、それを見咎めた男性教師を誘惑して揉み消した、なんて、馬鹿みたいな噂まで流れた。根も葉もない噂なのに、クラス全員馬鹿ばっかりだから、皆あっさり信じてる。
ナナちゃんも私と目を合わさなくなった。そればかりか私を見て意地悪そうに嗤うようになった。
ナナちゃんも馬鹿だったんだね。馬鹿はキライ。だから私は、私がキライ。
さっきからニキビ男子が赤黒い舌で唇を舐めまわしながら、その舌で舐めまわす様に私を見ている。
あの男子の「知恵」のステータス数値の低い粗末な頭の中で、私は裸にされて、その傷んだイチゴみたいな舌で全身を舐めまわされているのだろう。反射的にペンダントを触りたくなったが、女の子たちにペンダントを取り上げられそうになった事があるので、今は制服の上には出さないようにして首から下げている。
ペンダントに触れないのは心許ないけど、この頃の私はペンダントに代る良い避難場所を見つけ出していた。
机の中から一冊の本を取り出して、栞を挟んでおいた読みかけのページを開く。
本の名前は『真・六英雄伝説*物語は伝説へ*』って題名。これは少年向けの「ライトなんとか」ってジャンルらしい。こんなのに夢中になっている男子とか、ホントに馬鹿ばっかと思っていたんだけど、表紙の絵が気に入って何となく手にしてみたんだけど、これがすっごく面白いの!
原著にあたる『六英雄物語』は大人向けの歴史物で、一冊通して読んだ事はあるのだけれど、なんだか歴史の教科書を読んでいるみたいな気持ちになった。
大きな岩が落ちてきて、すんでのところで剣士は避けた。
危ないところだった。「古城は危険な場所だ」、剣士はそう思った。
こんな言い回しが、ずうっと続くの。つまらないの。
それに比べて『真・六英雄伝説』は今風にアレンジされていて、すっごく読みやすい! 脚色も多いんだけど、それも原作の雰囲気を壊さない絶妙な匙加減で、もうステキ! 三回も読み返しちゃった。
私のお気に入りのキャラは『銀髪のソードマスター』さま! めっちゃめちゃカッコイイ! 悪魔や悪霊みたいな不浄の敵を滅ぼす『宝石の剣』を手に大活躍するの。イケメンで男らしくて謙虚で優しくて仲間思いでイケメン。大事なところだから二回言いました。少し抜けているところも可愛くってグッとキタ!
物語の中盤で気の強い魔女と結婚しちゃった時には、正直ガッカリしたなぁ。清楚で大人しいシスターの方が絶っ対に似合っているのに「さくしゃ~分かってないなぁ~」って思ったんだけど、六英雄物語って実話だったよね。そこまで物語に入り込んでしまった自分が恥ずかしい。でもね、物語の終盤に仲間に化けていた敵に「宝石の剣」を根本から折られて死んじゃうの。私、もう声を上げて泣いちゃった。あんまり大きな声で泣いていたら、ママが心配して部屋に入って来ちゃった。泣きながら理由を話したら、ママは心底呆れた顔してた。今思えば恥ずかしい。
学院都市のどこかに『宝石の剣』みたいなの、売ってないかな? その効果は「十五歳未満の少女に性欲を抱く変態を狩る」。どうかしら? 『ロリコンスレイヤー』とか『ロリコンキラー』って言うの。私は、それを両手に装備して、この大陸から変態どもを狩り尽くすの。狩って狩って狩りまくって最後の一人まで狩り尽くして、この世からロリコンを滅ぼすの。それってとってもステキじゃない?