表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前ら!武器屋に感謝しろ!  作者: ポロニア
第二章 眼鏡の女錬金術師
20/206

第20話 人間の価値 それは

 いつの間にか、詠唱が終わっていた。 でも、私は目を開けることすら出来ず、込み上げて来る感情と嗚咽を抑えるので必死だった。


「ご、ごめんね。ちょっと怖かったかな?」

「誰だ、怖い声出したのは?」

「女の子なんだから、無理しないで良いんだよ」


 私よりも、ずっと頭が良くて、ずっとずっと大人の人たちが、私なんかを心配してくれている。それが何だか可笑しくて、それが何だか嬉しい。


「あの……違うんです」


 深呼吸してから目を開き、周りを取り囲んでいる院生たちに向かって、何とか笑って見せた。


「私、あんなに綺麗な歌を聞いたのは生まれて初めてです。その……感動しちゃいました」


 自分でも驚くほどに、口からすらすらと言葉が続いた。


「涙って、悲しい時にだけ出るんじゃないんですね。泣いちゃいましたけど、鑑定に影響が出たらごめんなさい」


 私の話をお終いまで聞き終えた院生たちは、一様に安心した様子で私の顔を覗き込んできた。


「君はとっても優しい子なんだね。こんな時代にも、君のような子がいるんだと知っただけで、僕は、僕は……」


 検査前に私を励ましてくれた男性が突然泣き出した。

 優しいなんて、生まれて初めて言われたかも知れない。嬉しくて、胸が痛くて、また涙が溢れてきてしまう。


「ちょっ、ちょっと止めてよ。何なのよ貴方たち。こんなのって、おかしいわよ。わ、私……ふうぅ」


 釣られた女性の院生までもが、もらい泣きを始める。


「俺たちの詠唱で、君のような少女が感動してくれるなんて思ってもみなかった。俺はこの仕事を誇りに思うよ」


 輪になって号泣する院生たちと中学生。

 一体これは何の集まりでしょう。ステータス鑑定という名の、身体測定だったはずでは?

 変なの。でも嫌な気持ちはしない。なんだかくすぐったいみたいな、でも良い気持ち。これは……スキ。


 ステータス鑑定は、これにて終了。あとは六人のステータス鑑定師が、それぞれ信仰する神さまの託宣に従って、私のステータスを記入してお終い。

 きっと「知恵」の数値だけ高めに出るんだろうな。私、ちょっと勉強が得意なくらいしか取り柄がないからなー。


 嫌い……きらい……キライ……自分が大っ嫌い!


 「知恵」に(すが)る自分が浅ましい。自分の頭が他人より少し出来が良いからって、それが何なの? ちょっと頭が良いのを自信満々に誇る馬鹿。それが私。

 人より頭が良いことが、そんなに誇らしいの? それなら胸の大きさも誇りなさいよ。ホントに下らない女。恥を知りなさい……私。

 魔導院になんて来なければ良かったんだ。こんな素敵な所なんて知らなければ良かった。もう忘れよう。やっぱり私には、あの場所がお似合いなんだ。

 ママのペンダントを握りしめると、少しだけ気持ちが紛れた。


「あの……私、もう帰ります」


 はっきり言ったつもりだったけど聞こえなかったのかな? ステータス鑑定師たちは顔を見合わせて一様に押し黙っていた。


「あの、私、そろそろ帰ります」


 もう一度言うと、ステータス鑑定師の六人が一斉に私を見た。驚愕と戸惑いが、それぞれの顔に浮かんでいる。


「ご、ごめんなさい。泣いたのが……ダメでしたか?」

「君……ステータス数値の最高値って知ってるかい?」


 さっきまで、優しい笑顔で接してくれていた院生が、怖いモノを見るような目で私を見た。でも、私には見当もつかないので、答える代わりに首を横に振った。


「一般人で、一つのステータス数値は10前後、少し優れている人で12くらいなんだ。だから六つのステータス数値の合計は、一般人でだいたい60前後、優秀と言われる人で70くらいなんだ」


 だから何? 何が言いたいの? どうせ私のは、たいした数値じゃないないんでしょう。


「自慢では無いが、僕らは六つのステータス数値の平均は15、合計で90。これは、院生の平均的なステータス合計だ」


 へえ、すごいですね。さすがは魔導院生ですね。だから何?


「君のステータス数値の合計は65」


 ほら、普通より多少ましなくらいじゃない。数値が人の価値じゃ無いって言ってたくせに。

 咳が出た。胸が痛む。ママの待ってる家に早く帰りたい。魔導院なんて、早く忘れたい。


「だが、君の知恵のステータス数値は……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ