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お前ら!武器屋に感謝しろ!  作者: ポロニア
第二章 眼鏡の女錬金術師
19/206

第19話 涙の意味 それは

 *


 病院がキライ。注射がキライ。苦い薬がキライ。裸を見られるのが一番キライ。

 だから『ステータス鑑定』も気乗りがしなかった。


 魔導院は学院都市のどこにいても視界に入る。それくらい大きな建物。

 「魔術科」、「神聖術科」、「錬金術科」の三大学科を基本学科に、「薬学科」や「鑑定科」みたいな副次的な学科も学べる、高校と大学を合わせたような教育施設が「魔導学院」、それは通称「学院」と呼ばれている。

 魔導学院の校舎の真ん中から(そび)え立つ、とっても背が高い建物が「魔導塔」。ここでは有名な先生たちが、学院の生徒たちの中でも特に優秀と認められた「院生」と共に日夜、研究に明け暮れてる。

 その研究施設としての魔導院の他にも、研究者や術者の為の護衛を養成する「戦闘訓練所」、院生や生徒が暮らす学生寮や図書館のような学院に関わる施設以外にも、学院都市の治安を守る「魔導院風紀委員会」の建物とか病院、関係省庁なども全部ひっくるめて「魔導院」って呼んでいるの。

 私がステータス鑑定を受ける「戦闘訓練所」は魔導院の外れにあった。


 毎日のように目にしている魔導院だけど、やっぱり初めて足を踏み入れる時は緊張して、思わずペンダントを握りしめてしまった。

 勝手が分からなくて立ち尽くす私を、女子生徒たちが追い越していく。それを私は横目で盗み見た。

 学院の夏季制服はステキ。品良く見えるのに可愛らしい、でもちょっと肌の露出の多いデザイン。「ちょいカワイイ」と「ちょいエレガント」と「ちょいセクシー」の絶妙のバランス。きっと有名な服飾家がデザインしたんだろうな……でも、学院の女の子たちに、私はどう見えているんだろう?

 胸ばっかりが目立つ中学生。下品でみっともない夏服。キライ。死にたい。


 途端に居心地の悪さを感じて、私は足早に女の子たちの集団から離れた。




 魔導院は五百年前に始まった戦争の直後に設立されたと聞くから、とても古い建築物だけど、最近になって建てられた真新しい建物も多い。それは魔導院が増築に増築を重ねて、今も拡大中だから。

 私がステータス鑑定を受ける訓練所の施設も、周りの建物に比べて新しい建物だった。


 

 教室くらいの広さだろう、円形の部屋の中心に椅子が一つ、ぽつんと置かれていた。私はそこの中心に置かれた椅子に一人、ぽつんと座らされた。

 膝に手を置いてカチコチに固まる私の周りを取り囲むのは、見るからに聖職者然した学院の制服を着た六人の男女。

 先ほど見かけた学院の制服とはちょっと違う。共通した意匠が見て取れるから、もしかして魔導院の院生なのかな。


「はい。じゃあ、目をつぶって下さい。出来たら何にも考えないで」


 そんな事を言われてしまうと、何か考えてしまうのが私の(さが)。私は先ほど受けた「ステータス鑑定」の説明を、なんとなく思い出した。


 てっきり裸にされて、色んな器具で弄繰(いじく)り回されると想像していたら全く違ってた。

 魔導院戦闘訓練所では、人の持つ能力、すなわち「ステータス数値」


 「力」・「知恵」・「信仰」・「生命」・「速」・「運」


 この六つのステータス数値を数値化して読み取る事が出来るという。

 たった六つの要素で、いったい私の何が分かるの? なんて思ったのだけど、説明を受けてその奥深さに感動した。本当にステキ。


 わくわくするようなステータス鑑定の話を反芻しながら目を閉じていると、人の気配を身近に感じた。……ちょっと怖い、でも、ちょっと気になる。

 好奇心に負けて薄目を開けると、目の前にいた若い男性とバッチリ目が合ってしまった。不意にロリコン教師に悪戯された事を思い出し、思わず顔を伏せてしまう。


 ――嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だよ。ママ、ママ助けて。


 全身が総毛立ち、鼓動が早くなる。胸の奥に痛みが走る。


「大丈夫、心配しないで。怖くなったら途中で声をかけて」


 そう言って若い男性は、笑みを浮かべて私の顔を覗き込んだ。この人は、あの教師とは違う。そう思うと、胸の違和感は落ち着いた。

 再び私が目を閉じたのを見計らって、六人の男女の詠唱が始まった。それは、男性の低い声と女性の高い声の混声による神聖詠唱術。

 信仰の薄い私には、詠唱の内容は分からない。でも、それは神を讃える讃美歌のようにも聞こえ、悲しい嘆きの鎮魂歌の様にも思えた。


 なんて美しい歌なのだろう。

 なんて綺麗な歌なのだろう。


 私の中の「キライ」が少しずつ、でも、確実に溶け出していく。

 膝に置いた手の甲に、ポタリと一つ涙が零れた。


 どうして……?

 どうして私、泣いているの?


 私は十三年も生きてきて、涙は痛みや悲しみの為だけに流れるのでは無いと初めて知った。

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