表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前ら!武器屋に感謝しろ!  作者: ポロニア
第二章 眼鏡の女錬金術師
18/206

第18話 キライ 死んでしまえ

 もう見慣れた。ここは保健室のベッドの上。私は制服のままベッドの上に寝かされていた。

 ベッドの周りは白い大きなカーテンで仕切られていて保健室の様子は伺いしれない。でも、人の気配がする。


「いやあ、指導中に突然倒れて。俺が機転をきかせて、ここまで担いで来たんですよ」


 男の声が聞こえる。ロリコン教師め。しゃあしゃあと。


「危ないところでした。たかが喘息と思っている人もいますが、ときには命に関わる事もあるのですよ」


 保健室の先生の声。生徒から好かれているショートカットの若くて綺麗な先生。


「十三歳の女の子とはいえ、結構重くて。でも俺、体鍛えてるんで何てこと無いですよ」


 さっきまで私に何をしていたか、洗いざらい話してやろうか。


「そうでしたか。生徒の危機に咄嗟に動けるとは教師の鑑ですね」

「いやぁ、たいした事して無いですよ。俺、生徒を愛してますから」


 お前が愛しているのは十代前半の女の子。さっき、その人、私の胸を触りました。


「ところで今夜、メシなんてどうですか? 魔導院の近くに新しいレストランが……」

「あら、目が覚めたようですね。さあ、出て行って下さい。女の子の身体を診なくてはいけないから」

「レストランがですね。俺、学院都市ウォーカーで調べてあるんで……」

「早く出て下さい!」


 女医の鋭い叱責に追われ、ロリコン教師は出て行ったみたい。慌ただしくドアを開け閉めする音が聞こえた。


「起きているんでしょう? もう大丈夫よ」


 カーテンを開けた白衣の女医が、「何かされなかった?」とベッドに横たわる私に、優しい声で訊いてきた。

 悔しい。恥ずかしい。情けない。色んな感情がゴチャゴチャになって、私はペンダントを握ってメソメソ泣いた。それでも大声で泣けないところが私という人間。


「あいつ! 必ず尻尾掴んで風紀委員会に突き出してやる!」


 女医は拳を握って歯噛みした。


 キライ

 オトコがキライ

 怖くて汚くて臭くて湿っていてベタベタしててキライ。


 クラスの男子が私の事を陰で何て呼んでいるか、私は知ってる。「デカパイ」とか「ルルパイ」。人を身体的特徴でからかうなんて、人間として最低だ。

 オトナのオトコもキライ。私の事をジロジロ見る。胸ばっかり見る。さっきみたいに触ってくる奴もいる。

 変態。ロリコンどもめ。死ね、死んでしまえ。


 夏の制服がキライ。体のラインが隠れる地味な制服だからこそ、この学校を選んだのに、どうして夏服がこんなに開放的なデザインなんだろう。

 気が付かなかった私が馬鹿だった。センスの悪い大きいリボンが胸元にくるから余計に胸が目立つ。キライ。大キライ。


 自分がキライ。喘息持ちで痩せっぽちのクセに胸ばっかり成長する歪な身体。キライ。

 顔がキライ。陰険そうな吊り目がキライ。そのくせ視力は悪い。役立たず。ママ譲りの目元の黒子(ほくろ)だけはスキ。

 灰色かかった硬くて黒っぽい髪がキライ。同じクラスのナナちゃんみたいな金色で柔らかくてフワッフワの髪が良かった。

 ナナちゃんのママは有名な髪結いさんで、学院都市のカリスマナントカで格好良い。私も髪を切って貰ったことがある。眼鏡をかけてるからって眉上パッツンにされた。最悪。死にたい。


 ママはスキだけどキライ。ママは痩せてて美人だけど、ナナちゃんのママみたいにカッコ良くは無い。

 お針子さんをやっていて洋服が作れるのに、自作の地味なデザインの服ばかり着ている。でも、胸の大きさが隠せる服を作ってくれるから、私の服は全部ママのお手製。だからママの作る服はスキ。

 ママは逃げたお父さんの悪口を言う。余所の女の人とどこかに行ってしまったそうだ。その事を一日一度は必ず言う。でも、私にしか言わない。気が小さいのはママ譲り。だから私は自分がキライ。


「一度、魔導院でステータス鑑定を受けてみない?」


 女医の言葉で我に返った。すぐに自分の世界に入り込む私。キライ。


「喘息だけが体調不良の原因では無さそうなのよね。ねぇ、先生が魔導院に紹介状書こうか?」


 魔導院には興味があった。学院都市で育った子供には憧れの場所。でも、入学試験は難関だと聞くし、特に体力審査なんて受かるはずも無い。


「魔導院の訓練所でステータスの鑑定を受ければ、何か分かるかも知れないし。ねっ」


 先生は魔導院の薬学科の出身。とても優しいし、凄く頭が良い。憧れる。先生はスキ。


 こうして私は、魔導院に「ステータス鑑定」を受けに行く事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ