第17話 このロリコン教師め
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男性教師が指導室のドアを後ろ手で閉めると、カチッと鍵を閉める小さな音が狭い指導室に響いた。
「なんでカンニングなんてしたのかな?」
担任の男性教師が猫撫で声で訊いてきた。
私は椅子の上で小さくなり、俯いたまま胸に下げたペンダントを弄るしかなかった。
「私、不正行為なんてしていません」
大きな声で言ったつもりだったのに、掠れた声しか出てこない。そう思った途端、胸の奥に痛みにも似た違和感を感じた。
思わず胸元を押さえた私の後ろに男性教師が回り込み、両手を私の肩に置いてきた。その大きな手に思わず総毛立つ。
ママと二人きりで育った私は、男性が少し苦手だ。肌身離さず身につけている、ママから貰ったペンダントを強く強く握りしめた。
「何もしてないって? でも、八教科で八百点満点取るなんて、どう考えたって不自然じゃあないか?」
生暖かい手が私の鎖骨の辺りにまで伸びてきて、まるでマッサージでもするかのように、ゆっくりゆっくりと揉みしだく。
―――――ママ、ママ、助けて!
私は御守り代わりのペンダントを強く握っりママに助けを求めたが、胸の違和感はいよいよ刺すような痛みに変わってきた。
「カンニングペーパーでも隠してんじゃないの? この辺にとかにさぁ」
襟ぐりの空いた制服の隙間に、湿っぽい手が気味の悪い蜘蛛のように潜り込んでくる。乾涸びた痛みが喉元までせり上がってきて、堪え切れずに一つ咳が出た。
「やめて下さい!」
はっきり言ったつもりなのに、荒い息しか吐けない。
いけない……発作が起きそうだ。それを何と勘違いしたのか、男性教師が背後から私の身体を抱きすくめてきた。ベタベタと粘つく掌が肌に直に触れ、遠慮もなく撫で回してきた。
「お願いです。やめて下さい」
「やめてじゃねえよ。身体検査だろうが。それとも何か隠してんのかよ」
ヒュウ、と笛の音のように喉が鳴った。もう限界だ。
もんどりうって床に倒れ込んだ私を見て、驚いた教師が飛びずさる。
胸を、喉を掻き毟り、冷たい床に蹲るしかない。
―――――助けて! 誰でも良いから助けて! お願い、私に空気を!
男性教師は喘息発作を見た事が無いのか、狭い指導室の中を野良犬のようにウロウロするだけだった。
「ど、どうしよう、俺、何もしてないのに。まずいぞ。こりゃまずいぞ。俺、何もしてない……」
―――――生徒の危機を前に己の保身か。この変態ロリコン教師が!
目の前が真っ暗になり、意識が途切れた。