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お前ら!武器屋に感謝しろ!  作者: ポロニア
第六章 竜鱗の盾
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第103話 世界蛇の末裔

 俺は脇目も振らずに岩壁まで突っ走り、そこに飾られた数々の武器の中から迷わず一振りの長剣を引っ掴んだ。国宝級ともいえるこの剣を、俺は数回しか握った事が無い。だが、その剣柄(グリップ)はまるで長年愛用したかのように手に馴染んだ。

 手首の返しだけで長剣を二、三度振り回すと、結界の放つ光を反射して剣身が赤い残像を残す。さすがは伝説に謳われるほどの名剣だ。


「……随分と卑怯な手を使いますね」


 アッシュはすぐには追って来なかった。いや、追って来れなかったと言うべきか。

 奴は剣を持たない方の手で顔を覆っていた。額を割ったのか、端正な顔には幾筋の赤い線が走り、顎からは血が滴っている。


「笑わすなよ。子猫を人質に取る様なヤツが言うな」


 どうやら火の付いたオイルが降りかかるよりも、重たいランタンが顔面を直撃したのが痛手だったようだ。


「アッシュ、これが何だか分かるか?」


 俺は飾り気はないが不思議と品のある長剣を、アッシュに向かって見せつけた。


「その長剣が何か? それが一体、何だと――――」


 そう言いかけたアッシュの顔が苦しげに歪んだ。それは怪我の苦痛とは違う、明らかに嫌悪感が滲む表情だ。


「こいつは模造品(レプリカ)じゃないぜ。伝説の三頭竜から暗黒竜までも葬り去った正真正銘の竜殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)だ。お前さんがちょっとでも竜の血を引いているなら、離れていても剣の力を感じるはずだ」

「おのれ……」


 アッシュが額を抑えながら後ずさった。如何なる状況に於いても「不屈前進」を信条とする重装騎士(アーマーナイト)が怯み、後退する。それは、彼に取っては耐えがたい屈辱だろう。


「竜殺しの剣は、人間相手には普通の長剣に過ぎないが、斬りつけた相手がドラゴンなら魂ごと破壊する。今なら土下座で許してやるから、俺とエレクトラに謝れ」


 竜殺しの剣を睨む竜人族の眼差しには、憎悪と怒りが滲んでいる。

 長剣を構え直したアッシュは両手で長剣の柄を握り、「雄牛の構え」を取った。


「僕は、僕には……あの剣が! たとえ魂が砕かれようが、あの剣が必要なんだ!」


 アッシュは叫びながら、額から流れる血を拭いもしないで突進してきた。

 竜殺しの剣を前にして冷静を欠いたか? 「竜鱗の盾・レプリカ」は背中に(くく)ったままだ。

 

「うおぉお!」


 気魄はこそ良いが、何の工夫も無い遠間からの突きを軽く()なして、体位を入れ替える。簡単に背後が取れてしまった。振り向き様に放たれた水平薙ぎも、身を反らすだけで回避した。


「おい、落ち着けよ。そのヘナチョコ突きは、騎士科の授業で教えて貰ったのか?」


 平静さを無くした相手には、翻弄しまくってスタミナ切れを待つのが俺の戦術(やりかた)だ。お得意の攪乱ってヤツで根こそぎ体力を削ってから仕置きしてやる。……いや、前に同じ事やって痛い目に遭った覚えがあるぞ。


「戦いの最中に何を(わら)う!」

「おう、すまん。思い出し笑いだから気にすんな」


 返答の代わりに掬い上げるような斬撃が来たが、飛び退くだけでこれを避ける。闇雲な攻撃を切り結ぶことも無く避け続けていると、荒い呼吸音が聞こえてきた。焦りと疲れからか、アッシュの剣筋が乱れてきている。そろそろ頃合いか。

 

「アッシュ、俺はお前の事が嫌いじゃないんだ。そろそろ止めてくれないか」


 長剣を腰だめに構えたまま、アッシュの動きが止まった。髪を振り乱し、肩で息をするその姿には、いつものイケメン勇者の風格は見当たらなかった。


「俺は竜殺しの剣を使うのは初めてなんだ。これで斬りつけたら、竜人族のお前にどんな深手を負わせちまうのか見当が付かない」

「情けをかけるつもりか、この僕に」

「うわ、面倒臭い奴。いらんプライドは何の足しにもならんぞ」


 ふっ、とアッシュの目元が翳った。

 瞬きが少ないのは竜人族の特徴なのだろうか。薄緑の瞳が俺を見据える。


「……そうですね。プライドを捨てましょう」

「良かった。分かってくれ、た……か?」


 アッシュは、俺に見せつけるように左手の甲を掲げ、引きちぎる勢いでグローブを外した。

 鞘に納めた鋼玉石の剣が、音が鳴るほど大きく震えだす。呪物か? いや、違う。何だ? この反応は!?


「千の刃のエッジス。貴方のことを、弁が立つだけの元傭兵と侮った自分を責めましょう」


 強く握りしめた左拳の甲に大きな痣が見えた。いや、あれは青痣なんかじゃない。青銅色の鱗か?


「貴方の切り札が『竜殺しの剣(それ)』だと言うのなら、僕の切り札は――――」

「な……何をしている!?」


 アッシュの左手を、左腕を、瞬く間に鱗が埋め尽くしていく。


 ――――逃げろ。

 状況判断スキルが警告する。だが、目の前に起きている事実から俺は目が離せなかった。


「我が左手に携えしは青銅の盾。其は女帝を護りし絶対不可侵の聖壁」


 神聖詠唱術のような呟きと共に、アッシュの手甲(ガントレット)が、肩当(ショルダーガード)が壊れ、弾け飛んだ。

 砕け散った手甲の下から現れたのは――――


「これが僕の切り札――――英雄遺物『竜鱗の盾(ビオライン)』」


 背中を冷たい物が伝う。落ち着け、俺。気を飲まれるな。

 竜の前脚、としか形容の出来ないような鱗に覆われた腕。元の腕の倍は太く、膝下まで伸びた左腕は「異形」という印象を通り越して、もはや禍禍しい。


「へっ、盾にゃ見えないぜ。それ」


 ――――まずい。

 シンナバルと戦った時よりも確実に状況が悪い。


 アッシュは取って付けたようにしか見えない腕を、動作の確認するかのように何度も握り込む。


竜鱗の盾(これ)を前にして、まだそんな口が利けるとは。さすがは銀の髪の一族」

「……お前、何者だ。何を知っている」


 ――――考えろ。

 動揺を悟られるな。最適行動を選び取れ。


「我は、大地を支える世界蛇の正統なる直系。六英雄『青銅の竜騎士』が末裔(すえ)。真の名をル・アシュギイネ」

「ははっ、まるで冒険小説みたいだな」


 生唾を一つ飲み込む。世界蛇? 青銅の竜騎士? そんなの御伽噺じゃねえか。

 俺の腰で御先祖様がガタガタ言ってる。そうだな、あんたも御伽噺の中の人だ。


「エッジス。いや、武器屋さん。僕も貴方の事が嫌いでは無い。命まで取ろうとは思いません」


 そう言いながら、アッシュは地下室をぐるりと見渡す。そして、目を細めて岩壁の一点を見つめた。

 アッシュが見やった視線の先には、明らかに岩壁とは違う金属製の扉がある。


「あれがセハトの開けられなかった扉ですね。腕の一本くらい引き千切れば、僕の要望を聞く気になっていただけるでしょうか」

「笑えない冗談だな」


 この場は逃げるのが最善なのは分かっている。だが、予備のランタンを準備している時間は無いし、灯りも無しにあの長い階段を上る切れる保証も無ければ自信も無い。

 それに逃げ切ったところでどうすんだ。竜と言うよりも蛇にも似たアッシュの執念深さは実証済み、いや、現在進行的に体験中だ。


「大事な事だからもう一回言うけど、お前の探しているモンは倉庫にゃ無いよ。信じてくれないと思うけど」

「語るに及ばず。ここから先は剣で語り合いましょう」


 アッシュが右腕だけで振るった長剣の一撃は、正確に俺の肩口を狙ってきた。

 回避は間に合わないと判断し、竜殺しの剣で受け流す。連続で繰り出される斬撃を受け切るだけで精いっぱいだ。落ち着きを取り戻したら、こいつはやっぱ強いな。

 斬り込む勢いに負け、堪らずバックステップで距離を取る。地下室が広くて助かった。


「うはぁ、やっちっまったなぁ。出来るだけ傷付けたく無かったんだけどね」


 竜殺しの剣の刃を確認しながら、ついつい愚痴った。高いんだぞ、これ。


「この期に及んで、まだそんな口が叩けるとは。油断は死を招きますよ」

「油断? 何の事だ?」


 両手で握った剣を高く掲げ、婆ちゃん直伝の「屋根からの構え」を取る。狙いは左肩の鱗と肌の境目だ。

 渾身の攻撃を、俺の想像よりも早い反応で鱗の腕が防ぐ。しかし、厚い鱗に弾かれはしたが確かな手応えが残る。

 反撃とばかりに横薙ぎに振るわれた竜の腕を剣で弾くと、今度はアッシュがバックステップで俺との距離を取った。

 竜の腕の馴染みが悪いのか、アッシュはその異様な左腕を何度も回した。すると、そこから何枚かの鱗が剥がれ落ちるのが見えた。


「油断なんかじゃねえ。これは余裕と言うもんだ」


 って、昔の偉い人が言ってたのを真似してみたが、正直、余裕なんてありゃしない。だが、あの左腕さえ何とかすれば勝機はある。

 俺は竜殺しの剣をアッシュに向けながら、左手でポケットを(まさぐ)った。

 適当に抜き出した魔術儀典プセウド・エピグラファは「第二位魔術・氷の矢」だ。アッシュほどの相手に痛手を与えられるとは思えないが、牽制くらいには使えるか。

 

「開封!」


 魔術儀典の封を切ると、六本の矢が六芒星(ヘキサグラム)を形作る魔術紋様が浮かび上がった。

 白紙になった巻物を投げ捨て、怪訝な顔をしたアッシュに向けて「第二位魔術・氷の矢」を解放する。


「射抜け! 氷の矢!」


 六本の氷の矢が、それぞれが違った軌跡を描きながら標的、アッシュを襲う。

 驚愕の表情を浮かべるアッシュ。その動揺を見逃さず、俺は剣身を左肩に担ぐようにして氷の矢を追った。


「――――っ!? こんな小細工を!」


 一本一本は大した威力の無い氷の矢だが、当たり所が悪ければ致命傷を負いかねない。アッシュは小うるさい羽虫を払うように竜の腕で氷の矢を叩き落としたが、払いきれなかった一本が外套に突き刺さる。アッシュの動きが一瞬、鈍った。


「もらった!」


 僅かに生じた隙を逃さずに、肘の関節を狙い体当たりも同然に斬りかかる。如何に強靭な鱗に守られていようが、関節は弱いはず。

 だが、読みに反して、アッシュは俺の動きに合わせるように左肩を突き出し、ショルダータックルのような姿勢で床を蹴った。


 まずい、これはっ――――!


 シーザスターズが得意とする、防御と攻撃を両立した戦法、シールドラッシュ。

 完全にカウンターを取られ、竜殺しの剣ごと腕を跳ね上げられる。次の瞬間には身体が浮きあがるような感覚を味わった。

 猛牛のような突進をまともに喰らい、撥ねられるも同然に岩壁に激突する。背中と後頭部に激しい衝撃を感じたのも束の間、アッシュの左肩が鳩尾を抉り込むように突き上げてきた。

 息も吸えないほどの激痛に意識が途切れかける。壁を支えに何とか踏みとどまったが、すかさず伸びてきたアッシュの左手が、俺の首根っこを掴んだ。


「素直に言う事を聞いてくれれば、ここまでやらずに済んだのですが」

「……生憎だが、素直になれない性分なんでね」


 アッシュは、俺の顔をまじまじと見詰めてから「大した胆力だ」と、心底感心するように呟いた。


「だが、もう貴方に為す術は残っていない」

「あぁ、まったくだ。だがな――――」


 俺は左手をポケットに突っ込んだ。正真正銘、こいつが最後の切り札だ。

 さあ、俺は何を引く? 砦すら一撃で吹っ飛ばす最高位魔術、「第七位魔術・核撃」の巻物だったら、この地下室が俺とアッシュの墓場になる。だが、「第一位魔術・睡眠」だったら、二人仲良く早めの就寝だ。


 ――――なあ、ルルティア。お前の作った魔術儀典は、俺を生かすか? それとも殺すのか。


 ポケットから引き抜いた魔術儀典は「第六位魔術・氷雪の嵐」だった。それは、広範囲に氷と雪の暴風が吹き荒れる高等魔術を封じた魔術の巻物(マジックスクロール)

 脳裏に先ほどの光景が過った。氷の矢を受けた時に生じた僅かな隙の原因。それは――――


「アッシュ! 武器屋ァ舐めんなぁ! 開封!」


 親指で魔術儀典の封を切る。瞬間、俺とアッシュの周りに無数の氷晶を象った魔術紋様が浮かび上がった。

 

「何だ!? 何をした!?」


 俺の首を締め上げつつ、アッシュが周囲を見渡した。回転しながらふわふわと浮かぶ氷の結晶は、結界の赤い光を受けて幻想的とも言える美しさを湛えている。


「こいつでカンバンだ――――凍て付け!」


 震える左手で紋様に触れる。目標は眼前の敵。


「第六位魔術、氷雪の嵐!!」


 俺の触れた氷の結晶が一つ、砕け散った。その破片を受けた氷晶がまた一つ、二つ、三つと砕けて飛び散る。

 瞬く間に崩壊の連鎖は広がり、次第に渦巻く暴風雪となって俺とアッシュを包み込む。


「ぐうぉおおぉ!」


 ごうごうと吹き荒れる嵐にアッシュの苦悶の叫びも聞こえなくなった。氷雪を孕んだ暴風に、まともに息を吸う事すら出来ない。

 鋭い刃と化した氷片に全身を斬り刻まれる。剣を床に突きたて、剣柄にしがみ付いて耐えるしかない。

 視界が赤いのは結界の光せいか、それとも血が目に入ったか。荒れ狂う風雪に前すら見えない。自分で仕掛けたとはいえ、想像以上に苛烈な状況だ。だが、身を伏せる訳にはいかない。この作戦に肝心なのは「立っていること」だ。

 嵐が収まりかけ、視界が開けてきた。片膝を突き、(うずくま)るアッシュの姿が目に入った。


 ――――奴が立ち上がるまでが俺の勝機だ。


 床から竜殺しの剣を引き抜き、アッシュの元へ駆け出そうとしたが手足が上手く動かない。「氷雪の嵐」のよる極端な低温に全身が凍えてしまったようだ。


「第六位魔術に自分まで巻き込むとは。だが、この程度では僕は倒せませんよ」


 呻くように言ったアッシュは、取り落した剣を拾い立ち上がろうとしていた。しかし、俺と同様に思ったように身体が動かないようだ。もしかしたら、竜人族のアッシュは蜥蜴や蛇のように低温に弱いのか? だが、俺の狙いはそこでは無い。

 

「うおぉおおお!!」


 腹の底から雄叫びを上げ、よろめく足に力に気合いを入れる。

 剣が重い。足が重い。身体が重い。御先祖、婆ちゃん、俺に力を貸してくれ。

 よたよたと走りながら、かじかんだ手で竜殺しの剣を取り落さないように力を込める。

 一瞬、見やった右腕には、赤い光を跳ね返す銀のバングル。そして、ターコイズは青く、ただ青く。

 

 ――――ターコイズは旅人の守護石。災厄から貴方を護るわ

 こんな時に浮かぶのはお前の顔か、ルルティア。


 立ち上がり、俺を迎え撃とうとするアッシュの顔には余裕が浮かんでいる。

 アッシュ、それは余裕か? それは油断と言うもんだ。


「俺の――――」


 大上段に振り上げた竜殺しの剣を、アッシュの竜の腕が弾き返さんと反応する。だが、アッシュの反応がほんの一瞬だけ遅れる。それは、「第二位魔術・氷の矢」を受けた時と同じ、一瞬の隙。

 雨をたっぷりと吸ったアッシュの外套は、自然界にはあり得ないほどの低温に凍りついたのだ。それは彼の動きを封じるほどでは無かったが、隙を作るには十分だった。致命的な隙を。


「勝ちだ!」


 俺は竜殺しの剣を振り下ろす寸前に手先を変化させ、剣腹をアッシュの肩に叩きつけた。

 刃だったら左腕を切断するほどの打撃に、苦鳴を上げてアッシュが膝を突く。


「油断は死を招くってな。気を付けろよ。だいたいだな、俺なんかに足元(すく)われてる場合じゃないぞ」


 アッシュの左肩に竜殺しの剣を押し当てながら、俺は得意の説教モードに入った。

 

「なぜ……なぜ斬らないのですか」


 両膝を床に付き、アッシュは力なく項垂(うなだ)れた。


「アホか。お前を斬って俺に何の得がある。おい、アッシュ。神でも剣でも御先祖でも何でもいいから誓え。もうしません、って誓え」

「くっ……」

「くっ、じゃねえだろ。誓えば教えてやる。ウチの倉庫の奥にある、俺が持ち帰った武器ってヤツの事をな」


 アッシュは床に剣を置き、「祖なる女帝の名に於いて誓う。この勝負は貴方の勝ちです。僕は手を引きます」と、右手を上げて宣誓した。


「良し。では、俺も剣を収めよう」


 膝を突いたアッシュの目前に竜殺しの剣を突き立て、剣柄の上に掌を置いた。

 この男が宣誓を破るのは考え難い。どんな宣誓であろうが、騎士が誓いを破れば、その時点で騎士は騎士では無くなるからだ。


「さて、例の武器の話だが、まずは質問に答えてもらおう。どうしてウチの店に押し入った」

「それは先ほど言いました。シーザスターズの記録から……」

「それだけじゃプライドの高いお前さんが強盗の真似事をするには、裏付けが足りないって思ってね。お前の目当ては英雄遺物だ。そうだろう?」


 無言で頷いたアッシュを見て、「お前、さっき俺の事を『銀の髪の一族』って言ったな」と話を続ける。


「シーザスターズの活動記録には、俺が『強力な武器を持って退団した』としか書いていないはずだ。『英雄遺物を持っていきました』なんて書いてあるはずが無い。お前はどこかで俺が『六英雄の子孫』だと知ったから、俺の持っていった武器と英雄遺物とを結び付けて考えたんだろう?」

「英雄遺物はあるのですね」

「ある。だが、それはお前の考えている物とは違う。その前に教えろ。情報の出所はどこだ」

「隠す事ではありません。僕がシーザースターズに在籍していた頃、魔導院から人が訪ねて来て教えてくれました。『銀の髪の一族』が英雄遺物を持っていると」

「魔導院から? それは誰だか分かるか?」

「錬金術科教授、アイザック博士です」

「アイザック博士だと? どういうことだ……」


 どうしてアイザック博士が絡んでくる? あのオッサン、何を企んでいる?


「倉庫には、僕の求める物は無いのですね」

「ああ、倉庫にあるのは剣じゃないからな。お前の求める英雄遺物は何だ?」

「僕が探し求めているのは、かつては『鱗の女帝』の手に在り、人間の王の手に渡ったとされる黄金の大剣」


 床の一点を見つめていたアッシュが、瞬きをしない目を俺に向けた。

 氷の裂け目のようなアイスグリーンの瞳の奥に、アッシュの凍てつくような心底を見た気がした。


「お前、それは……」

「その剣の銘は――――王の剣」


 ***第六章・完***

長かった第六章が終わりました。なんか、恋愛モノと陰謀モノと戦記モノまで混ざり始めました。

何がどうなっちまうか、書いてる方も楽しんでいます。



ちなみに、「冬の童話祭り」向けに書き上げた童話風小説「王の剣」に伏線が隠されていたり、いなかったり。

http://ncode.syosetu.com/n0999bn/


未読でも「武器屋」の筋に影響しないのでご安心下さい。「宿屋」も「エフェメラ堂」も本筋には響きませんが、「あぁ、そうだったんだ」くらいに楽しんでいただけたら嬉しいです。


さて、キリが良いので「武器屋」の第七章を前に小休止です。

「宿屋」の続きを書いていたのですが、「アリアンローズ新人賞」って面白そうですね。意外なあの娘を主人公にした作品を構想中です。勘の良い方なら、誰が主人公なのかお分かりかと(笑)


では、第六章まで読んでいただき、ありがとうございました!!



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