第1話 ひのきの棒は儲からない
「お前ら! 武器屋に感謝しろ!」と、俺は声を大にして言いたい。
もしくは、「お前ら! 俺に感謝しろ!」でも良い。
教会に通わない信者がいないように、武器屋に通わない冒険者はいない。
だが、神に感謝しない信者はいないが、武器屋に感謝する冒険者は少ない。
だいたいだな、使い古しの『ひのきの棒』なんぞ買い取ってくれる古物商なんていると思うか? 武器屋くらいだぞ。あんな棒っきれに金まで出して引き取ってくれんのは。
それにしてもよう、そこの大通りの武具屋なんて『ひのきの棒、買取不可』なんて張り紙しやがって……おかげでウチの『ひのきの棒』の在庫が増えちまった。売れないクセにどんどん増えていく棒っきれ、困るよなぁ。
それにさあ、聞いてくれよ。あの常連のメガネっ娘、名前はルル? ルルル? なんだっけ……まぁ、メガネっ娘で十分だろう。んで、そのメガネがさ、「突っ立ってるだけで良いなんて、楽チンな商売よね」なんて宣いやがって。俺を『動く石像』か何かと思ってやがんのか、っての。
武器屋の仕事は忙しいんだ。お前らからは見えない仕事が多いんだよ。接客や販売だけが仕事じゃあない。
在庫の管理に発注だろ、顧客管理や帳簿付けだって大事な仕事だ。簿記なんて大変なんだぜ……ああ、そう言やぁ、そろそろ申告の時期か。学院都市は余所の街と比べて税金が安いのは助かるな。
あぁそうそう、商品の点検と修理も大切だな。これにはかなり気を使っているんだ。
お前らが小鬼族だか豚人族やらと戦うとするだろ? そんなんとガチで闘り合ってる最中に、ウチで買ったばっかりのロングソードがポッキリ逝っちまったとする。評判ガタ落ちだ。ロングソードの評判じゃないぞ。ウチのだ、ウチの評判が落ちる。それにお前らが死ぬ。これだけは避けたい。悲しいからじゃないぞ。客が減るのは困るからだ。
そしてウチの収益を支える一番の肝だが、お前らの持ち込む『正体不明のアイテム』の正体を暴く『鑑定』が一番の収入源なんだな。
表通りのボッタクリで有名な、あの商店は知ってるか? 彼処は目利きの鑑定士を大勢雇っているから、何に使うのか見当も付かない年代物でも、意味の分からない舶来物でも、何だって鑑定して買い取ってくれる。ただし、鑑定料は買値の半分だ。銀貨一枚分のロングソードの鑑定料が銅貨五枚だぞ。高ぇよなあ。悪い事は言わないから、俺の店に持って来い。
なに? 鑑定なんて必要無い? ちょっ、待てよ。ドコの誰が着てたか分からない鎧なんて装備したくないだろ? もしかしてだけど、前の持ち主がモノ凄い殺され方をしたかも知れないんだぞ。
例えばさ、とびっきりの美少女が使ったスプーンだったら俺は喜んで咥えるけど、口臭に悩むオッサンの愛用スプーンとは見分けは付かないだろ……そんな目で見るな。あくまで例えだ。
ウチは買値の二割を鑑定料に定めてる。この学院都市の中でも底値と言っても良い価格だ。
良心的? そうだろう。もっと褒めて良いぞ。
薄利多売? いや、俺は自分一人で捌ける仕事しかしたくないし、店を拡張する野望も無い。
俺はただ、婆ちゃんが残してくれたこの店を大切にしたい。それだけだ。それに俺が得意とする『鑑定』は、ちょいと特殊でね。
よぅし、今日は特別だ。お前らに昔話をしてやろう。