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作者: 音琴 鈴鳴



「……え?」


私こと櫻山杏樹おうやまあんじゅは自分の目を疑った。


学校から帰ってきた私は確かに、家の扉を開けたはずなのに何故か目の前には青空と草原が広がっているからだ。



「……何これ。夢? 幻覚? 願望?」



頭を抱えながらそんな事を言っている自分を痛い子のように思うが、お決まりと言えばいいのだろうか。


私がこの場所にたどり着くきっかけとなった家の扉が無くなっているから人目を気にしないですんだ。


勿論、それは帰り道が無い事に繋がるので後々、どう帰るか考えなくちゃいけない。


「うぅぅぅ…………めんどくさいよ、本当に」


それは間違いなく本音だった。


普段からたくさんの小説を読み漁っていたおかげで自分が異世界トリップした事はわかる。


だけど、他の事については赤子と同じで全く知らないと同じ。


ここでは私の常識等は全く役にたたないかもしれないのだ。


それすらまだ知るすべはないのだけど。


そんな風に考えると面倒くさくならない方がおかしいと思った。


まあ、そんな事を考えるよりもまずは



「ここから動かないとダメだよね」



自分に言い聞かせるように呟く。


やる気は零に等しいが私はとりあえず歩きだす事に決めたのだった。



◆◇◆◇


歩きだしてからどれくらいたったのか。


回りの景色は変わらないし、人も異世界トリップした世界によくいる魔物等も見つからない。


ここがどこなのかわからない状況で誰にも何にも会わないのはきつかった。


情報は零。


最初と同じように、次にどうすれば最善か考えることもできない状態だ。



「めんどいし、だるい」



基本、動く事が好きでない私は歩き続ける事がだんだんと嫌になってくる。


もうここから動きたくない。そう思いながら私はその場に座り込もうとした。


そのとき、どこからか歌が聞こえてきたのだ。


私はやっと誰かに会えると安堵しただけだったはずなのに


片方の目から涙がこぼれ落ちた。


別にそれほど不安に思ってはいなかったから、これには自分が一番驚いた。


多分、歌のせいかももしれない。


そう思ったのは聞こえてくる歌が悲しいくて、切ない気持ちにさせる歌だったからだ。


いつのまにか私の両目からはポロポロと涙がこぼれ落ちていた。


それは止まることを知らないかのように、こぼれ続ける。


というか、自分の意思では止められない。


止めようと思わないから不思議だ。



「……誰が歌ってるのか知りたい」



それは無意識に言った言葉だった。


私はぐっと力が抜けてしまいそうだった足に力をいれなおし、歌が聞こえる方に歩きだした。



案外近くにいたのかすぐに歌っている人を見つけることができた。


歌っている人は薄汚れたマントを片手に大きな石の上に腰かけていた。


旅人なのかもしれない。


ゆっくりと気づかれないように近づいていく。


歌をもっと近くで聞きたいと思ったからだ。


そろそろと近づいていくうちに歌っている人の容姿がわかってきた。


私の日本人だとすぐにわかるだろう黒の髪とは反対にその人の髪は白……というよりは透明に近かった。


顔立ちは横からじゃわかりにくいけど、体格から男だとわかる。


間違っていたらすごく失礼だから口にはださないでおく。


十メートルくらいのところで私は動かしていた足を止めた。


ここくらいなら、多分危険人物だったとしても逃げ出せると思ったからだった。



涙はいまだに止まってなかったが私の中では既にどうでもいい事になっている。


後でぬぐえばいいだけの話だからだ。


歌っている人はこちらに気づいていない。


私は歌を聞いてからここがどこなのか聞こうと考えていた。


今、邪魔するのは嫌だと思っていた矢先に歌っていた人が歌うのをやめてこちらを見たのだ。


ずっと見ていた訳じゃないのに、タイミングがあったのかその人と目が合う。




「……誰?」



ポツリと小さい声で言われた言葉に、私はどう返事を返せばいいのかわからなくなっていたのだろう。


見知らぬ他人に堂々と名前を名乗ってしまったのだ。



「櫻山杏樹。それ以外の名はない」



そう言った時には名前にどんな力があるのかわからないのに何で名乗ってしまったのかと落ち込んでいた。


だが、彼は私の名前を何度か繰り返し呟いてからただ笑った。


その様子を見ていた私は私の中の彼の第一印象が決まった。


結論、不思議な人。




それが今では恋人となっている彼、ユギリア・ナチス・エグラシドとのファーストコンタクトだったのだがその時の私にはわかるはずもなかった。






唐突に思い付いたものです。特に深くは考えてないから続かないと思います。



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