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裏亜種  作者: 羽月
◆ 悪魔希少種 ◆ [ キリュウ視点 ]
9/12

◆NEW◆ 規格外な存在 ※本編32話目読了後推奨

 ネタバレがございますので本編小説『死神亜種』の32話目読了後を推奨します。

 キマイラとの対戦でキリュウが初めて翼を出したときのキリュウ視点の話です。



 徐にこちらを見上げて呆然とするヒイラギ。

 それをどこか冷めた目で見下ろし、俺は一度大きく翼を羽ばたかせた。


 その際またいくつか羽が散り、彼女を撫でるように接触していく。

 普段自然体で接してくる彼女も流石にこれは抗えないだろう。今までが異常だった……それだけの事なのだが、どこか急激に冷めるような感覚がした。


 食い入るように翼を見上げる彼女。次に口を開くとき、媚びた言葉が出てくるのだろう。それとも頬を染めるのが先か。

 酷くつまらない予想を立てながら彼女の反応を待つ。

 その光景を目の当たりにした時、恐らく今まであった彼女への興味が消え失せる。依然と同じく、退屈な日々を送る事になる。


 俺は静かにその瞬間を待った____が、




「ずるい。それ寄越せ」




 全身で不満を大いに表し、そう言い放ったヒイラギ。


 確かに触れたように見えたのだが……ギリギリで触れていなかったか。

 思わず浮かんだその否定的な考えは即行消え去った。彼女の手には漆黒の色をした羽____俺の魅了の力の塊がしっかり握られている。

 現在進行形でそれを直に喰らいながらも正気を保っている。頬すら染まる様子はない。……それは(にわか)に信じ難い光景であった。


 俺の魅了に耐えられる存在は少数だが確かにいる。しかし完全に抵抗できるのはその中でもほんの一握りだ。免疫のある同族すら直で喰らえばその殆どが下僕と化す。……それが彼女には全く効いていない。

 しかも他の黒学の生徒の魅了であれば吐き気を催していたというのに今はどうだろうか。恐らく魅了の力を直に喰らっているという現状そのものに気が付いていないのだろう。

 ……心当たりなら、ある。しかしそれを差し引いてもこの状況は有り得ないものであった。


 知れば知るほど謎が深まる存在____ヒイラギ、やはり彼女は面白い。


 先程まで確かにあったどこか冷める感覚はない。寧ろ愉快だった。


 俺は尚も不満そうにしているヒイラギを改めて見る。

 それを寄越せと言われてもこの翼は決して取り外せるものではない。「無理だ」と一言だけ返せば彼女は一つ舌打ちをし、何やら身体に力を入れ始めた。……言っておくが、翼は気合で生えてくるものではない。それこそ無理だ。

 死神も風邪魔法を駆使し、空を飛べると聞いたことがあるが……彼女の魔力量では無理なのだろう。


 同じことを考えているのか彼女の眉間に皺が寄っている。しかし、呑気にも考え込んでいて良いのか。キマイラが攻撃を待ってくれる事はないというのに。

 早速炎のブレスが容赦なく向かってくる事にやっと気が付いたようだ。只の間抜けか大物なのか……判断しかねる。

 まぁ今まで見てきた彼女の動きと対応ならばこの攻撃も大丈夫だろう____そう判断したのだが、珍事件が起きた。


「あ」


 間抜けな声と共に真っ二つになった金属製の鎌。

 先程まで彼女の命綱であったそれはもう使えない。鈍い音を立てて地面に突き刺さった刃に怯えた毛玉の黒が映った。

 鈍色に光るそれから彼女へと視線を戻すが……命綱が無くなったというのに何故か絶望の色も焦る色も見当たらない。その顔には呆れたように「またか」と書かれている。……まさかこれが日常茶飯事だというのか?


 そうしている内にも炎のブレスはどんどん近づいてくる。早く逃げないと消し炭だ。

 気が付いた彼女は漸く焦り始める。そのまま逃げれば回避できるはずなのだが…………何を思ったのか足元を見回し発見した黒い毛玉を手早く抱き上げた。何故だ。


 その一連の行動が理解できない俺を他所に彼女の奇行は続く。悲痛な表情を浮かべながら大きく振りかぶり____それを投げた。

 毛玉が綺麗な放物線を描きながら宙を舞い、鳴き声と共に森の中へ消えていく。


 ………………何をやっているんだ、こいつは。


 あまりにも予想外な行動を取られ、思わず一瞬立ち尽くす。

 彼女はブレスと対面し、目を瞑った。もしかしたら何か策があるのではないかと思ったのだが、微動だにせず覚悟を決めた顔をしているのでそんなものなどないのだとその考えを打ち消す。彼女は焼かれる気満々だ。毛玉より自分の命が軽いと思っているのか。それともこのブレスが火傷程度で済む威力だとでも思っているのか。……それ、生身でまともに喰らったら死ぬぞ。


 ____仕方ない。


 そう思ったが先か体が動いたが先か、俺はヒイラギを回収し上空へ避難した。

 炎自体は回避したが熱風で火傷を負ったかもしれない。チラリと腕に抱えた彼女を見やると状況を把握するためか知らないが、手足をぶらぶらと揺らして遊ばせていた。…………おい、余裕だな。

 こちらの気も知らないで何とも呑気な態度を表すその姿を眺める。暫くするとポカンと間抜けな顔がこちらを見上げた。


「……死ぬ気か」

「……すみません。そんでもってありがとうございます」


 流石に注意すると殊勝な応えが返ってきた。どうやら先ほど死にかけた状況は正確に把握できていたらしい。……死ぬつもりだったのか。

 自分の身を危険に晒してまで小動物を助ける自分のパートナーを見て俺は呆れた。


 あの男にのって彼女を危険に晒し、正体を暴かせるつもりだったが結局何もわからない。……いや、二つ分かった事がある。こいつは毛玉が絡むと無類の馬鹿になるという事、そして____魔力は恐ろしく弱いがそれを除いた戦闘能力は高いという事。


 現にこのキマイラ相手に即死を免れている。少々ふざけた動きをするが、場面に合わせて力の入れ方、抜き方を知っている……戦い慣れているように見えた。しかも、各上相手の手合せに。

 それが誰なのか気になるところだが……まぁ、今は良い。


「……で、どうする」

「うーん」


 百面相をしているヒイラギに問えば何やら考え出した。

 帰還しようと思えば空間魔法で出来る。……だが守る為にはあまりにも彼女の情報が少ない。情報が多ければ多い事に越したことはない。もう少し様子を見る事にする。

 暫し待っていると何故か切なそうにキマイラを眺めていた彼女がハッと顔を上げた。


「キリュウ、通行手形持ってる?」


 俺はポケットから取り出し、肯定の返事を返しながら名前が見えるようそれを彼女に見せた。

 何か良い策を思いついたのか一人うんうんと満足そうに頷く彼女。しかしこれが何だというのだろうか。


「先、帰りなよ」


 …………またこいつは……。


 きっとこの先、俺が彼女の思考を完全に把握することは出来ない。

 ……いや、誰にも出来ないに違いない。




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