珍妙で不思議な死神(中) ※本編18話目読了後推奨
ネタバレがございますので本編小説『死神亜種』の18話目読了後を推奨します。
珍妙で不思議な死神(上)の続きです。
本日もどうぞ宜しくお願い致します。
どれくらい時間が経っただろうか。
俺は読み終えた本を閉じて棚に仕舞い、時計を見た。
12時40分……結構な時間が経っていたらしい。
そういえば、とベッドに横たわっている女を見る。目を覚ましたら何者なのか問い質そうと思っていたのだが……あれから目を覚ましていない。
相変わらず締まりの無い顔で寝入っている女。顔色は悪いままだ。
無理やり起こしても良いのだが……涎を垂らしながら心底気持ち良さそうに寝ている様を見ていたらそんな気も失せてしまった。
まぁ、授業をサボった所でこれといって特に大きな支障はない。
「……――――」
暫し眺めていると女が何か言葉を零した。
起きたのだろうかと思ったが、ゆっくりとした規則正しい息遣いと閉じられたままの瞳を見てそうではない事が分かった。…………どうやら寝言のようだ。
声が小さ過ぎて言葉は拾えなかったが表情を見ると先程と変わらず緩み切っている。幸せな夢を見ているらしい。
「……めん…………」
……めん?
またもや発された寝言。今度のものは先程よりもしっかりと聞き取れた。
何となく耳を近づける。
「………………いと……らーめん……きた……」
…………。
……いと?………………糸ラーメン?
……ラーメンは聞いたことがある。確か、茹で上げた麺に醤油だか味噌だか塩だかで味付けされた熱い鶏がらスープを並々とかけ、仕上げに葱などの具を盛り付けた食べ物だ。
しかし、糸ラーメン……そんなもの聞いたことが無い。麺が糸のように細いのだろうか?…………謎だ。
更に耳を傾ける。もしかしたら欲しい情報の糸口をポロっと喋ってくれるかもしれない。
「…………私の……やらんぞ……」
……この女は食い意地が張っているらしいというどうでも良い情報を手に入れる事が出来た。
女を見ると少ししかめっ面だ。何としてでも夢の中の相手に取られたくないようだ……糸ラーメンとは余程美味いものらしい。
……これ以上聞いていても欲しい情報は手に入れられそうになさそうだ。
「…………」
馬鹿らしいと俺は屈んでいた体制を直したその時、女の瞼がピクリと動いた。
どうやら今度は本当に起きたらしい。俺は女をジッと見る。
「……」
「……」
……どうしてか女は瞼を上げようとしない。確実に起きているはずなのに……何故だろうか。
痺れを切らした俺が声を掛けようと思ったその時、やっと女がゆるゆるとゆっくり瞼を上げる。
そして俺の姿を認めた瞬間____即、それは下ろされた。
……何故閉じる。
「……起きたか」
堪らず声を掛けたが反応が無い。
少し待つと観念したように閉じられた瞼がもう一度ゆっくりと上がる。
何かを期待したようなその瞳は俺と目が合うやいなや落胆の色に翳った。
…………一体何だ。
「……おはようございます」
「もう昼だがな」
「…………こんにちは」
「……」
まだ朝だと思っているようなので訂正を入れたら挨拶を昼のものに変えて言い直してきた……やはり変な女だ。
女はそう言ったきり何か思案し始めたと思えばこちらを見上げてくる……その間もころころと変わるその表情を眺めていた。
明るい茶髪とそれと同色の瞳……死神では有り触れた配色だ。髪と瞳はその者の一番得意な属性の色が表れ、そしてそれは魔力が強ければ強いほど比例して濃く表れてくる。まぁそういう者は大体が優れた一族の者なのだが。……目の前の女を見る限りきっと大した魔力もないのだろう。
ならば何故、此処に来る事が出来た?
……謎は深まるばかりだ。
「あの、もしかして運んでくれました?」
思案していると女が話し掛けてきた。確かに間違ってはいないので「あぁ」と答えると女がきょとんとした……何だ?
邪魔だったからと付け加えるとまた考え出したようだ……そして目を逸らして何故か落ち込んでいる。意味が分からない。
「……ご迷惑をお掛けしました」
謝罪してきたのでまた適当に返事をする。
……だが謝罪などはどうでも良い。
お前は一体何者だ?
見下ろしていると女がこちらを見上げてきたので目が合った。
今度は逸らしてこないその瞳の中を覗くようにじっと見る。
「……お前は何故此処にいる」
一体どうやって入ってきた?
言外にそう問い質す。まさか意味が分からないはずはあるまい。
あれだけ厳重なトラップを掻い潜って来たのだから。
俺の言葉を聞いた女はまたきょとんとした後、さも当たり前といったように言葉を返してきた。
「体調悪いからですが」
……。
…………まさか本気で言っているのだろうか?
女は答えたぞとばかりに俺から視線を外し、何故か今度は愛おしそうに布団を見ている。
…………布団マニアか?
「……いや、そういう意味では…………まぁいい」
女が不思議そうに首を傾げたところで溜息を吐き出しつつ説明を止めた。
とても嘘をついているようには見えなかったのだ。……信じられないがどうやら本気らしい。
尚も首を傾げ続ける目の前の女を見て、俺の中で不思議な女と位置付けをした。
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