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裏亜種  作者: 羽月
◆ 死神亜種 ◆ [ ヒイラギ視点 ]
4/12

ヒイラギによる清涼計画④ ※本編39話目読読了推奨

 ネタバレがございますので本編小説『死神亜種』の39話目読了後を推奨します。

 ヒイラギによる清涼計画③の続きです。



 後ろから小さく溜め息が聞こえた。恐らく私の考えに気が付いたのだろう。

 気にせず目の前にいる二人の良い返事を待つ。


「は? 何でテメェの言うことなんざ聞かなきゃなんねぇんだよ」


 悪魔の辞書に御恩という文字はないらしい……完全に見誤った。そういやこいつらは紛れも無い悪魔であった。助け損である。

 それに気が付いた瞬間どっと疲れが押し寄せてきた。そう、彼らを使役しようとする時点で色々と面倒臭いのだ。どうしてそれに気が付かなかった、私。

 あー、もうホント面倒臭い。何だか全てが面倒臭くなってきた。

 他に方法はないだろうか。面倒臭くないやつ…………あ、何ならあれだ。


 もう、いっそのこと__


「……自分の髪でも切って――」

「直ちに脱げ」

「は、はいっ!!」

「た、只今っ!!」

「………………は?」


 一瞬の出来事だった。


 私が何気なしにボソリと言った一言に何故かキリュウが反応して即命令を下し、その命令に駄犬二人が従っている。

 私はポカンとキリュウを見上げた。実は以前、私は彼に「キリュウからも言ってよ」と頼んだ事がある。その時は「面倒な事になる」とキッパリ断わられた。キッパリと、だ。それなのに何故今更言った。


 次いで私は駄犬二人に目を向ける。真っ青だった顔色は一転、何故か真っ赤だ。そして何処が喜々として服を脱いでいる……ハッキリ言おう、気持ちが悪い。もう一度言う。気持ちが悪い。

 私が思わず後ずさるうちにも二人は忠実にキリュウの命令に従ってわたわたと慌てた様子でブレザーを脱ぎ、そして何故か下のシャツを脱ぎ始め……ってオイオイ、このままじゃまさか、え、マジで、ちょっと待____


「……ブレザーだけで良い」

「は、はいっ!!」

「失礼しましたっ!!」


 駄犬達がズボンに手をかけたところでキリュウが呆れたように言う。背中に嫌な汗が伝うのを感じた。……危なかった。危うく見たくもないものを見せられるところであった。

 今度はわたわたとシャツを身に付け始める二人……何だコイツらは。あれか、変態か、露出狂か。それと只のキリュウ狂酔者か。……あぁ、全部か。何という三重苦。

 私が二人の様子にドン引きしていると隣から溜め息が聞こえた。どうやら以前彼が言っていた『面倒な事』とはこの事のようだ。……確かに自分の言葉に喜々として脱ぎ始める野郎なんて見たくはない。キリュウに断られたあの時、何も知らない私はぶつぶつ文句を言っていた気がする。

 ……すまんかった。これはかなりの苦行だ。


「キリュウ様、脱ぎましたっ!!」

「…………寝ている奴らを連れて出て行け」

「はいっ!!」


 忠実な駄犬達はズルズルと仲間を引きずって教室を出てい……あ、今、ガンッて痛そうな音が。

 慌ただしく出ていく駄犬達を見送れば一気に教室内が静かになった。何となく出て行った扉をぼーっと眺めていると慣れた重みが頭に加わる。放っておくとその重みはスルリと滑り、髪を一房掬い取った。

 扉から視線を外して見上げると見慣れた赤い瞳と視線が絡む。……何やらまだ少し不機嫌なようだ。難しい顔をしている。


「……切るな」

「うん?」


 何? ……髪の事か?

 もしや先程私が呟いた事を気にしているのだろうか。

 私はこのままでも切ってもどちらでも良い。元々髪に頓着しないタイプだ。切ってしまおうかと言ったのも周りを変える事が出来ないならば自分が変わった方が楽だと思っただけである。

 しかしもう切る必要はない。彼が苦行を成し遂げてくれたのだから。


 …………それに。


「……」


 …………まただ。

 また幻覚が見える。


 私はジッとキリュウを見た。……うん、しょぼーんと垂れた耳と尻尾が見え……うっ、ヤバい。かぁいい。


「……、切らないよ」


 理性を総動員働かせて抱き付きたい衝動を堪え、何とか告げる。……駄目だ、あれはキリュウだ、わんこではない、キリュウだ、キリュウ、キリュウなんだ……っ!


「…………そうか」


 一人ふるふると格闘していると私の言葉を聞いたキリュウがほんの少し笑ってそう言った。ショボーンと垂れていた耳はピンと立ち、尻尾は控え目にフリフリとゆっくり揺れて……揺れ、て……____ッ!!


「……」

「……」


 ……無我の境地というものだろうか。


 気が付けばキリュウをガッチリ抱きしめていた私。もふもふ効果は恐ろしい。理性なんてものは紙と化すようだ。

 次から次へダラダラと汗が出てくる……ここからどうしよう。この無言が辛い。物凄く辛い。


 抱きしめたまま固まっていると、また慣れた重みが頭へ加わった。そしてそのままゆっくりと撫で始める。

 サラリ、サラリと私の髪を掬っては流し、撫で、そしてまた掬う。

 相変わらず無言のままだが不思議と変な緊張はなくなり、安心感が私を包んだ。流石は魔法の手。万能である。


「……そろそろ行くか」


 彼のその言葉をきっかけに私は腕を解く。

 見上げれば相変わらずの超絶美形が私を見下ろしていた。もふもふな耳と尻尾はもう見えない。少々残念……いやいや、それで良いのだ。また私が暴走してしまう。……うん、次からは気を付けよう。


「――あ、ごめん」

「……あぁ」


 視線を下げた瞬間視界に飛び込んできたものに気が付き、彼に謝る。

 そういえば私、前面がべとべとだった。すっかり忘れていた。

 同じくべとべとになったキリュウは私を咎める事もなく、頭をポンポンと撫でた。どうやら許してくれたようだ。

 まぁ黒学の制服は全体的に黒いので汚れはそれほど目立たないし、洗えばすぐに落ちるだろう。


 色々と反省し終えたところで私はキリュウに空間魔法を使ってもらい、この場を後にした。








 ____余談だが、移動した先のクリスタルゲート前では黒学の全生徒がブレザーを脱ぎ、頬を染めてキリュウを見詰めていた。


 ……信者、半端ねぇ。




 これにて『ヒイラギによる清涼計画』は終了です (´・ω・`)

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