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裏亜種  作者: 羽月
◆ 死神亜種 ◆ [ ヒイラギ視点 ]
3/12

ヒイラギによる清涼計画③ ※本編39話目読了後推奨

 ネタバレがございますので本編小説『死神亜種』の39話目読了後を推奨します。

 ヒイラギによる清涼計画②の続きです。



「ナメた真似しやがって……ッ」


 ガキッ、と目の前に突き立てられる長剣。床に広がった私の髪が少しばかしスパッと綺麗に切れた。中々良い切れ味の得物を使っているようだ。そうこうしているうちに体制を立て直した短剣野郎もこちらへ近づき、剣を突き付ける。


「ここまでだな」


 そう言うなり2人は同時に剣を構える。

 ……あぁもう何でこうなった。私はただ清涼を求めただけなのに。


 この場で魔力を解放させるのは痛いが死ぬよりはマシだ。記憶も頭を強めに小突けば吹っ飛んでくれる……と信じ、私はチョーカーへと指を掛ける。タチバナさんは……今は考えまい。

 2つの剣が振り下ろされる。それと同時に私は指に力を入れようとした。


 ____しかし、それは予想外の出来事に遮られる。




「――――――何をしている」




 教室の温度が下がった____そう感じるほど威圧的で不機嫌な声が響いた。

 その声に私と駄犬の動きが止まる。ゆっくりと後ろを振り返るとそこには想像した通りの人物がいた。


「き、キリュウ様……っ!!」

「これは、その……っ!!」


 慌て始める駄犬2人。そう、私の後ろには眉間にシワを寄せた我がパートナーが立っていた。私は溜め息をつく。これでもう大丈夫だろう。


 向けられていた得物が引っ込んだので私はよっこいせと立ち上がった。制服がベタベタに汚れている。思わず眉間に皺が寄った……サカキに貰うお小言が増えた。小言対専用秘技(キリュウ)を使って避けたい所だが、最近では免疫が出来たのか効きが悪いのだ。ほいほいと使い過ぎたせいであろう。


「……大丈夫か」

「制服が大惨事」

「…………大丈夫なようだな」


 いや、だから制服がね?

 サカキのお小言がね?

 色々と不満はあったが、近付いてきたキリュウが私の頭を撫で始めたので仕方なく飲み込んだ。こうなった彼はあまり話を聞いてくれない。


「……」


 キリュウを見上げて不満げな視線を送っていたら急に眉間のシワが深く刻まれた。彼のそれはよく見なければ分からない程度のものが常だが、今回は誰が見ても分かる程。

 そのかなり珍しい出来事に首を傾げる。いつの間にか撫でていた手も止まっていた。どうかしたのだろうか?

 疑問符をふわふわと飛ばしていると彼は私の髪を一房掬い、次いで足元に視線を遣った。赤い瞳に剣呑な光が宿る。……え、どうした?


「――――誰にやられた」


 地の底を這うような低い声が教室に響いた。空気がピリピリと肌を刺す。

 驚きに目を見開く私と震え上がる駄犬二人。彼は何故こんなに怒っているのだろうか。唯一解る事は彼の怒りの先に私はいないという事だけ。私は完全にとばっちりを受けているというだけ。おい、この空気早く何とかしてくれ。


 ふと彼の視線が足元に固定されている事に気が付いた。それを辿って視線を落とすと、あるものが視界に入る。


 ………………まさか。


「……怒ってる理由って、コレ?」


 そう言って私は指をさす。その先には床があった。もう少し詳しく言うと、先程切られた私の髪が床の上に散らばっている。


「……」


 彼は私の質問に答えない。

 無言は肯定と受け取るぞ。といっても、もう一段階深くなった皺がバッチリ肯定してくれているが。

 ……しかし私の髪が切られたくらいで彼がここまで怒るとは思ってもみなかった。しかも切られたといってもごく少量で見た目では分からない……というか現在わしゃわしゃと触って確かめているが本人ですら何処を切られたか既に分からないというのに。

 確かに彼には髪をよく梳かれるので、気に入ってるのかなとは思っていたがここまでとは。日頃お世話になっているお礼に髪が伸びたら切ってタチバナさんに人形でも作って貰おうか……いやいや、それは私が嫌だ。そしてきっと渡された方も嫌だ。そもそもキリュウに人形とか恐ろしく似合わない。


「……あいつか」


 先程私が答えなかった質問の答えを自ら出すキリュウ。私は頭の中を陣取っていたフランス人形やら日本人形を抱えたキリュウをよいしょと頑張って追い出す。うん、やはり似合わない。

 まぁ人形は兎も角、犯人を知っていたのか……あぁ、そういや彼が此処へ来た時、思いっ切り剣を突き刺していたもんな。そりゃ分かるか。しかし、分かっているのにわざわざ質問をするとは彼も中々にイイ性格をしている。


 私はチラリとキリュウを横目で見る。ド変態絡み以外でここまで怒っているキリュウは初めて見た。どのような対応を取るか私にはサッパリ分からない。

 キリュウに合わせていた視線を今度は駄犬二人に合わせる。……うむ、生まれたての子鹿が二匹いる。ガクガクでブルブルだ。特に長剣野郎の顔色の悪さが半端ない。彼らの様子を見るに結構な目に遭うとみた。

 二人がどうなろうが私の知った事ではない。寧ろ愉快である。

 高見の見物でもするか、と後ろへ下がりかけた____が、片足を後ろに引いたところで考え直す。ちょっと待てよ。

 ここで奴らに恩を売ればブレザー剥ぎ取り計画に大いに役立ってくれるのではなかろうか。私から脱げと言っても素直に聞くことはない大人数に対し、今回と同じ力技でちまちま脱がせても骨が折れる。しかしこの子鹿二人の言う事ならば渋々聞いて脱ぐかもしれない。一応同族だし。


 …………仕方ない、助けてやるか。


「キリュ――――って、ちょっと待て」


 いつの間に。

 キリュウに視線を戻すと彼の手には漆黒のダガーがしっかりと握られていた。もう少し遅れていたら手遅れだったかもしれない。セーフセーフ。

 私は急いでキリュウと駄犬の間に割って入る。


「相手十分怯えてるし、もう良いよ」

「……」


 私がフォローするとは思わなかったのか、キリュウは少し驚いた表情だ。ピリピリとした空気も幾分か薄れる。よし、もう一息。


「髪は放っとけばすぐ生えてくるし」

「…………」


 キリュウは眉を寄せて暫く私を見た後、軽く溜め息を吐き、獲物を仕舞った。どうやら渋々納得頂けたようだ。よしよし。

 私は後ろを振り返って駄犬共に視線を遣る。二人とも怯えの中に安堵の色が垣間見えた。ふふん、感謝しろ。そして私の清涼計画に協力しろ。

 私はニッコリと笑って言う。


「その暑苦しいブレザー、脱いでくれるよね?」


 というか、さっさと脱げ。




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