ヒイラギによる清涼計画② ※本編39話目読了後推奨
ネタバレがございますので本編小説『死神亜種』の39話目読了後を推奨します。
ヒイラギによる清涼計画①の続きです。
仁王立ちになっている私を取り囲んでいる駄犬共が少したじろぐ。私は目を細めてそいつらを見遣った。
「早く。遊んでる暇なんてないんだけど」
帰りが遅いとまたサカキの小言が始まるではないか。面倒臭い。
「っ、この……ッ!!」
ギリッと奥歯を噛んだ駄犬の一人が闇を出現させ、そこから獲物を取り出した。それに見習って次々と獲物を確保する駄犬達……わぁ、卑怯臭い。
「お前、鎌を生成できない落ち零れだってな?」
ニヤリと笑って手の中の武器をくるりと回す。4人の持つ獲物は長剣が3つと短剣が1つ。どうやら悪魔の武器は長剣が主流のようだ。扱いやすいからだろうか。
ふむふむと相手の獲物を確認し終わったところで私は口を開いた。
「まぁその落ち零れにやられてる奴もいるけどね」
「こいつとか」と付け足し、足元の駄犬を強めに踏み付ける。足元で「うぐっ」と呻き声が聞こえた。言っておくが決して私の体重が重い訳ではない。あくまで強めに踏みつけただけ……そう信じたい。
その光景を見た目の前にいる駄犬達の口元がヒクリと引き攣った。
「五寸刻みに刻んでやる……ッ」
わぁ、悪役でお決まりの台詞……生で聞けるとは思わなかった。どうもありがとう。
しかし挑発し過ぎただろうか。皆目が血走って……いや、こいつらは元々赤目であった。
今にも切り付けてきそうな駄犬達。獲物を所持している4人相手に丸腰では流石に無傷でいられないだろう。タチバナさんなら余裕だろうけれども。……まぁあの方は規格外なので比べる事自体が間違いではあるが。
私は素早く部屋に視線を走らせた。武器になりそうなものを確保しなければ…………おっと、あれで良いか。
ラッキーな事に教室の隅に片付け忘れられていたモップが転がっていた。誰か知らんが感謝する。先ずはアレを確保だ。
「――っらぁ!!」
駄犬達が飛び掛かってきたと同時に私は身を翻し、机を足場にして教室の隅へ走った。辿り着くとその足で床に落ちているモップを蹴り上げ、そのまま手の中に納める。武器確保完了だ。
駄犬が得物を振り上げている気配がすぐ後ろからする。私は振り向く回転を利用し、そのままモップを相手の横っ腹に叩き込んだ。
叩き込まれた駄犬はくぐもった声を上げ、脇腹を押さえながら崩れ落ちた。……今気が付いたがこのモップ、ベッタベタに濡れている。水分を含んで威力を増したこれは取り扱い注意だ。……頭を狙わなくて良かった。といっても嫌な手応えがあったから恐らく肋が2、3本逝っている。まぁ死ぬわけでないし、相手は得物を持っているから仕方がない、うん。
一応「ごめんごめん」と謝っておいた。断じてワザとではない。
「――――っ、この……ッ!!」
残りの駄犬共は怯んだがそれは一瞬の事で、またこちらに切り掛かってきた。引いてくれれば良いものの……実に面倒臭い連中である。
私は剣の軌道を読み、それをギリギリでかわす。そのついでとばかりにモップの柄の部分で鳩尾をピンポイントで小突いておいた。今度は取り扱いバッチリなハズだ。
相手は苦しそうな声を漏らして膝から崩れ落ちる。そこへ今度は回し蹴りをお見舞いし、邪魔にならない所へ飛ばしておいた。吹っ飛んだ駄犬は壁にぶち当たり、ズルズルと床に落ちていく。意識は飛んでいないがかなり苦しそうだ……我が教室がゲロ塗れにならない事を願う。って、悪魔は食事取らなくても生きていけるというのにゲロを吐くのだろうか。出ても胃液か?そもそも胃は存在するのか?……色々と不思議な生き物だな、悪魔。
「死ねッ!!」
「うわっ」
そんなくだらない事を考えていたら、反応が少し遅れてしまった。相手が握っているのは短剣。振り抜くスピードは長剣より早い。勿論私のモップよりも、だ。先に攻撃を仕掛けたのは短剣野郎なので私は防御を取るしかない。避ける間もなかったので持っていたモップでガードを取った。
ガキンッと2回金属音が響く。次の攻撃はなかったので私は後ろへ飛び退き、相手と距離を取った。そして柄を強く握って構え直す。
「………………あ」
カランカランと足元に転がったのは私が先程まで持っていたモップの先の部分と柄の部分だ。手元に残ったのは30センチ程の棒切れだけ……どうやら先程の攻撃でスッパリ切られたらしい。
「クク、もうそれは使えねぇなぁ?」
「大人しく切られろよ」
「……」
卑下た笑いを漏らす駄犬2人。モップを切っただけですっかり勝った気分になってしまったらしいが、剣を構えもせず隙だらけ……間抜けとしか思えないのだが。まぁ折角自ら作ってくれた隙なので遠慮なく突かせて頂くことにする。
私は棒切れと2人を目を細めて見比べた後、手に残った棒切れを____思い切り投げた。
「うわッ!!」
短剣野郎の顔面目掛けて真っ直ぐに飛んでいく棒切れ。彼は何とか避けたが体制を崩し、よろめいた。投げると同時に動いた私が狙うのはよろめいた短剣野郎ではない。それらに気を取られてボケッとしている長剣野郎だ。余所見は危ないよ、キミ。
私は殴り飛ばすため、拳を握り込んで思い切り地面を踏み込んだ。
____が、いきなり視界が反転する。
「へぶっ……ッ!?」
そして身体前面に走る痛み。私は自分の現状をコンマ二秒で把握した。
周りの床に飛び散っているのは私が振り回していたモップに含まれていた水だ。暴れているうちにあちこちへ飛んでいたらしい。
……やらかしたのだ。どうやら私はそれを踏んでずっこけたらしい。何て事だ。こんなドジっ子みたいな事、認めたくない。
これは私じゃなくてサカキの仕事だろ。