【イズミ先生視点】 悪魔と賭け事(上) ※本編6話目読了後推奨
ネタバレがございますので本編小説『死神亜種』の6話目読了後を推奨します。
ペア発表の日、講堂での裏話。イズミ先生視点の話です。
本日もどうぞ宜しくお願い致します。
黒学の生徒を講堂へ詰め込もうとするものの、中々スムーズにいかない。何度も経験したことだが、相手は子供と言えども立派な悪魔……厄介だ。それにこれだけの数となると流石に骨が折れる。
予定の時間までに済みそうもない。遅れる、と受け持ちのクラスに連絡をして直ぐさま先程と同様に黒学の生徒達を講堂へ詰め込む作業を再開した。
「早く入りなさい」
「先生、死神にしては美人ですよね。生徒にモテませんか?」
「……世辞は結構です。そんな事はいいから早く中へ。時間が押しています」
「別に世辞なんかじゃないんですけどね」
魅惑の力を使いながらニヤニヤと笑う生徒達。私は仮にも教師。この程度の魅惑の力に負けるわけがない。
それでも腕試しか何かは分からないがこのように絡まれ、大幅に時間が掛かってしまうのだ。
毎度この作業の時は眉間に皺が寄りっぱなしになる。
「イズミ先生、お疲れ様です」
「……シマ先生」
「まぁまぁ、そんな顔しないで下さいよ。美人が台なしですよ?」
へらへらと笑いながらこちらに来る男は黒学の2-Aの担任、シマ。
彼を認めた瞬間、思わず苦虫を噛み潰したような表情になるのは仕方がない事だ。……私はこの男が苦手なのだから。
彼が黒学の教師に就任したのは去年の事である。それから何かにかけて私に付き纏ってくる。正直鬱陶しくて堪らない男だ。
「労いの言葉を掛けて下さるくらいなら手伝って下さい」
「んー?それよりこれから二人で抜けませんか?」
「……シマ先生は目を開けたまま寝言が言えるのですね。目、覚まさせてあげましょうか?」
「おやおや、目覚めのキスなら大歓迎ですよ」
ニヤリと笑う目の前の男。自分の眉間の皺が深くなるのを自覚した。私は長いため息を吐き出してやり場のない怒りを少しでも逃がす。教師が生徒の前で乱闘を起こすわけにはいかない。……二人きりだったら間違いなく鎌で切り付けていただろうけれども。
「……顔を洗うのでしたらあちらに手洗い場があるので使って下さい。隣に掃除道具入れもあるので拭くものがなければどうぞご遠慮なく雑巾を使って頂いて構いませんから」
「イズミは相変わらずつれませんねぇ」
「シマ先生も相変わらず馴れ馴れしくて鬱陶しい野郎ですね。呼び捨てを許した覚えはありませんよ。不快極まりないですし殺意も湧くので是非ともやめてもらえませんか?」
「やだね」
「……」
私がイラつきを隠すことも無く半目になりながら伝えると彼はニヤリと笑いそう言い放った。いつもの事だ。……そしてそのいつもの事に毎度イライラする。誰かこの男を異界へ送り返してくれないものだろうか。送料は勿論私付けで構わない。チップも添えて喜んで払う。
協力は諦め空気として扱おうと決めた時、その空気が話しかけてきた。
「……それよりイズミ先生。賭け、しませんか?」
「……」
勿論空気に言葉を返すつもりのない私は無視を決め込む。そもそも内容からして返す必要もない。
返事を返さない私をこれといって気にした様子でもないその空気はニヤリと笑って言い放った。
「――賭ってくれたら俺が黒学の生徒を詰め込みますよ」
ピクリと____僅かだか反応してしまった。……完全にやらかした。
あまりにもこの作業が大変な為、彼の誘惑の言葉についつい身体が勝手に反応してしまった。仕方がない事とはいえ、ここは何としてでも反応してはいけなかったのだ。
ほんの少し……ちょっと動きが止まった程度なのだが、目敏いこの男がそれを見逃すはずもなく、ニヤリとしていた笑みを深くする。……後ろに黒いものが見えた。これは関わってはいけないだろう。絶対に。
何とか打開策を見つけなければ。
「……賭りませんよ。大体賭けた後の条件なんて本当に呑んでくれるかどうかも分かりませんし」
「ちゃんとやりますよ」
「信用出来ません」
「……わかりました」
「え?」
やけにあっさり引いたなと不思議に思ったが彼の表情を見て自分の失言に気が付く。
しまった、と私が訂正の声を発する前に目の前の男が口を開いた。
「おい、お前ら――――さっさと入れ」
特別声を荒げた訳ではない。だが不思議と響くその低音はわいわいと騒いでいたにも関わらず黒学の生徒全員に伝わったらしい。
あれだけ苦戦していたというのに生徒達は素直にぞろぞろと講堂へ入って行った。
………………やられた。
誤字・脱字などあれば報告して下さると有難いです (´・ω・`)