ヒイラギによる清涼計画① ※本編39話目読了後推奨
ネタバレがございますので本編小説『死神亜種』の39話目読了後を推奨します。
第二章終了後辺りのヒイラギ視点の話です。
2011年 09月16日 拍手に掲載。
燦々と降り注ぐ真夏の太陽、ミーンミーンと喧しい音を発する蝉の群生、30度を越える真夏にも関わらず黒学の生徒は真っ黒ブレザー着用…………暑さに弱い私は流石に限界だった。暑い、とにかく暑すぎる。こうも暑くては敵わない。
だから私は清涼に思いを馳せ、あれでもないこれでもないと思考を巡らせていた。
自然的なものはどうしようもない。太陽モドキを消し去る訳にもいかないし……そもそも不可能だし。蝉だって好きで鳴いているのではない。彼等は子孫を残そうと必死になっているだけだ。地球と生態が同じであるならば一週間と生い先も短い……まぁその前に七年程地中でぬくぬくと暮らしているのだが。……待てよ。ということは地上に這い出て来る時にはもうヨボヨボの爺さん婆さん____……。
……人間の爺さん婆さんがヨロヨロと地面からはい出て来る場面を想像した所で思考を中断した。まるでゾンビだ。怖ぇ、蝉怖ぇ。
やはり自然のものをどうこうするのは止めておこう。
しかし、まだ策は残っている。正直一番イライラするアレ。視覚的に攻めて来るアレ____憎き黒ブレザーを剥ぎ取るのだ。
「――テメェらもさっさと脱げよ」
そう言いながら私は先程剥ぎ取りに成功したブレザーをぺいっと後ろへ放り投げた。足元に転がっているのは黒尽くめの男____名も知らないその黒学の男子生徒は苦しそうに呻いている。意識はあるようだが立ち上がれないらしい。まぁそれも仕方ない……先程私が鳩尾にキツイ一発をお見舞いしてやったのだから。その男子生徒と私を交互に見るなり目を見張る4人の男共。勿論黒学の生徒である。どいつもこいつもこのクソ暑い時期にブレザーなんぞ着やがって……。
私の目は完全に据わっていた。これは暑さのせいだ。ついでに口調の荒さも暑さのせいだ、うん。
一つ言っておくが、こんな暴力的な手段で清涼計画を実行しようとは思わなかった。数が数だし、疲れるし。
何故このような事態になったかというと溝程度の深さだがちゃんとした訳がある。
____時は約10分前まで遡る。
どうやってあのブレザーを脱いでもらおうかと考えを巡らしつつ、トイレから出てきた時だった。
『ちょっと面かせ』
目の前に現れた真っ黒ブレザー団体5名様。トイレ前で待ち伏せとかそれどうなの? 変態なの? とか何とか思っているうちに、彼等は有無も言わさず私の腕を引っ掴んで人気のない場所へ連れ出した。
私は取り敢えず大人しくついていく。ここは人目の付く場所だ。一方的な暴力になった時、目撃されれば正当防衛が通用するかどうか分からない。因みに自分がボコる事が前提である。こんなわんこが集まった所でやられる気がしない。しかも、私は恐らく現在暑さによっていつも通りに手加減が出来ない。よって、誰かに見つかると過剰防衛と判断されるかもしれないのだ。そんな面倒臭い事態は回避したい。
だがしかし、見つからなければ何も問題はない。何故ならプライドだけは立派に高いこいつらが自分達から売った喧嘩なのに返り討ち、しかも女である私一人にやられただなんて口が裂けても言えないからだ。そこら辺は非常に扱いやすいので助かっている。素直で可愛い奴らなのだ。まぁ躾が大変だけれども。
ごたごたと考えているうちに辿り着いた場所は2-C教室……つまり私のクラスだ。この場所にしたのは、あまり下の階だと職員室に近く、発見される恐れがあるからだろう。現在、生徒は校門前のクリスタルゲートへ集合しているので、この教室には私たち以外誰もいなかった。
『――わっ』
私は捕まれた腕を強く引かれ、教室の中に放るように入れられる。それだけでもイラッときたのに____そこから始まる悪口雑言の連続。
『キリュウ様に馴れ馴れしくするんじゃねぇよ!!』
『キリュウ様が迷惑しているのが分からないのか!?』
『キリュウ様のペアとしてお前は相応しくない!!』
『キリュウ様が――!!』
『キリュウ様の――!!』
『――!!』
『――!!』
口を開けばキリュウ様キリュウ様キリュウ様キリュウ様……。
いつぞやのリンゴみたいにキリュウ様がゲシュタルト崩壊を起こしそう……いや、起こした。
蝉だけでも十分煩いのに、更にこんなくだらない事を周りからギャーギャー言われてはたまったものではない。
現在、暑さも手伝って沸点が非常に低くなっている私は勿論____ブチ切れた。
『あーもー、このクソ暑いときにキリュウキリュウうるっせぇな!! 黙れ!! んでその暑苦しいブレザー脱げよ!! 視界に入るだけでイライラする……ッ!!』
『てめっ、キリュウ様を呼び捨てにするとはどういった了見だ!!』
『はぁ!? 私に言うな、キリュウに言え!! 本人が良いっつってんの知ってるだろ!?』
『ッ!! 調子に乗りやがって――ッ!!』
____そんなこんなで一人殴り掛かってきたのをカウンターで沈めた所で現在に戻る。
こうなったのも仕方がない事ではなかろうか。