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八雲レポート  作者: 和尚
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真実の噂、不条理な裁定

 悪事千里を走る……とはよく言ったもので。

 悪事に限らず、何かアレな感じの噂っていうのは、それはもうすぐに広まる。ましてやそれが、密接なコミュニティの構築された地元のことであるならなおさらだ。


 ……そりゃまあ、こうなるわよね……。


「若葉! あんた昨日『タナカ電気』行った!?」

「一緒にいたっていう男の子誰!?」

「1200万円分も買い物したってマジ!? 棚単位でDVD買ったって!」

「あーもー違うっ! 誤解! 人違いっ!」


 ここは私が通う、青林西高校の2年1組教室。さっきからクラスのうわさ好きの連中からひっきりなしにこういう質問飛んできて、もううるさいったら!

 昨日、街中心部の『タナカ電気』にて、学生服姿の男女2人が、限度額無制限のカードを携え、一日にして1000万円を超える額の買い物をしたという噂。しかもその女の方が私に似ていた……なんて噂が立ったもんだから大変。

 女の方が私……っていう方については『見間違いでしょ』っていう意見が大多数を占めてくれたけど、それでもやっぱりというか、真偽を確かめに来る野次馬は多かった。無論、そこで首を縦になんぞ振れるはずもない。私は全力で否定した。

「でもさ、私の情報筋の話だと……アンタで間違いないらしいんだけど……」

 が、クラス屈指の噂好きの1人、長南すみれはしつこく食い下がる。

「何なのよその情報筋は? 全く……」

 ……優秀じゃない。と感心していると、


 ヴーッ ヴーッ


 ポケットの中で震える私の携帯電話。おおっ、誰だか知らないけどナイスタイミング!

「あっ、ごめーん! 携帯出なきゃだからいったん出……」


『from 八雲琥珀』


「……………………(ピッ)」

「あれ、いいの若葉?」

「いいの。いたずら電話だから」

「いやいやいや、明らかに出る前に切ってたじゃん」

「それに、そんな全身使って全身全霊で電源ボタン押してる人初めて見たし……」

 押したくもなるっつの。あーもう……


 ヴーッ ヴーッ


『from 八雲琥珀』


 またかよコイツは。

 また切る手もあったけど、これ以上鳴らされても困るので、仕方なく出ることにした。

 みんなに再び断って、教室を出てから『通話』を押す。

「……もしもし?」

『あ、どうも、八雲です』

 怨敵は腹が立つくらい軽快な声で電話に出た。

「……何か用?」

「あ、はい。えっと、今日も案内をお願いしたいんですが……よろしいでしょうか?」

 断りたいけど……ノートパソコンとコンポとiPadとゲームソフト5本(あの中から好きなの貰った)買って貰っといて次の日にやめる……なんてのは気が引ける……。仕方ない、今日も付き合ってやるか……。ほっとくと何するかわからないしね。

「はいはい。で、今日はどこ?」

「あ、えっとですね、できれば今日はカーショップに行ってこの時代の車用品各種と、車本体を5,6台……」

「却下」

 これ以上いらん噂立てられてたまるか。


☆☆☆


 結局、今日は普通に食料品とかを買うことにして(それもどうせ研究用の『サンプル』なんだろうけど)、集合場所と時間を設定したのち、教室に戻った。やれやれ……今日は変なこと無いといいけど……。

(スーパーで『ここからここまで』とか言わないように見張ってないとね……)

 と、中に入ると、

 さっきまでうっとうしかったクラスメートたちはおらず、代わりに何やら重い感じの空気が漂っていた。……? 何、コレ?

 と、私はいつの間にか、さっきまではいなかったはずの琴子が登校していることに気付いた。せっかくだから挨拶の一つでも……と思って口を開きかけたけど、そのまま止まって決まった。

 窓際に座っている彼女の背中から……何だかこう、すごく重い空気を感じる……。心もちうつむいてるようにも見えるし……。

 何かあったの、とすみれに聞いてみると、

「ああ……それがね、琴子……陸上部のレギュラー降ろされちゃったんだって」

「え!? マジで!?」

「うん……」

「うわ……それで……」

 一昨日の放課後、あんなに喜んでたのに……。

 聞けば、先輩の一人が意地を見せてタイムを伸ばした上、本人も昨日の選考で不調を見せてしまったらしい。

 その際、計測を担当した先輩が故意に遅くストップウォッチを押したとか、色々裏がありそうな目撃証言があるんだけど……そこは先輩の信頼が優先され、暫定的ながらレギュラー降板になってしまったらしい。明後日の放課後の最終考査で上位に出ればまだ間に合うらしいけど……正直絶望的だとか。

 見ていていたたまれなくなったクラスメイトの1人が、

「私……慰めてこようかな……」

「いや、やめといた方がいい」

「え?」

 と、私の制止が意外だったらしく、彼女は見返してきた。

「で、でもさ……」

「あいつああ見えてプライド高いからさ。こういう時は……自力で立ち上がるの待った方がいいの。いい?」

「う……うん……」

 それでも気になるんだろう。しぶしぶ、といった雰囲気で撤収する女子たち。私もそれにならって、自分の席へ戻る。始業近いし。

 まあ、私もかわいそうだとは思うけど……こればっかりは私は何もしてあげられないしね。この問題を何とかできるとしたら……それはあんた自身だよ、琴子。




 この時……私は予想できるはずもなかった。

 琴子に、いや……この青林西高校に起こる……『ある出来事』を……。

 そして……そこに、私と、あの八雲が関わることになる、ということを……。




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