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八雲レポート  作者: 和尚
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ショッピング・クライシス

 世のお母さん方が子育てにおいて必ず体験するのが、『言うことを聞かずにショッピングモール内をうろちょろして困らせる』という子供の行動。小さい頃は私もそうだった記憶があるし、休日に商店街とか歩いてるとよくそれらしき光景を見かける。微笑ましい光景だなあ……なんて思いながらいつもは見てるんだけど、

 この歳でそれを疑似体験してみて、それがどれほど腹立つのかってことがよくわかった。

しかも、


「若葉さん!コレ何ですか?」

「ん? iPod。音楽聞くやつ」

「これは?」

「蛍光灯」

「これは?」

「電池」


 ……子供どころか身内でもない分、たちが悪い。

 さっきからずっとこの調子なんだもの。学ラン姿の高校生くらいの男が、iPodやら何やらを見て5歳児顔負けのはしゃぎよう。保護者のこっちは恥ずかしいわ疲れるわ……。

 ちなみに、さっきまでこいつを普通の人の目から見えないようにしていた光学なんちゃらは解除してある。そうでないと、私は端から見て何もない空間に話しかけてるヤバい奴に見られるから。

 ……結局、何で私だけに見えるのかは謎のままなんだけどね……。

 しかし、そんなに珍しいか、この時代の家電製品が。あんたの時代にもそのくらいあるんじゃない?

「ええまあ、似たものはありますけど……何せ1200年も経ってますから、形状から何から様変わりしてるんですよ。例えば……一番顕著なのがコレですね。電池」

 と、そう言って八雲は売り場に置いてあった電池(4本セット)を手にとって言った。

「あんたんとこの電池は形違うの?」

「はい。向こうでは、蓄電用のユニットは特殊有機合金のプレートタイプがほとんどです。大きさは……この電池を厚さ1ミリで輪切りにしたぐらいかな」

 へー、まるでボタン電池ね。聞けば、その小ささ・薄さで単3電池の数百倍の出力&寿命なんだとか。またスゴいのが発明されてるのね。

 そんだけのものがあればこんな時代のものなんかどうでもよさそうなもんだけど、なんだかんだで興味をそそるらしい。恐竜の化石見に来た子供みたいな目になってるし。

 まあ、あんたの好奇心を咎めるつもりはないけど……学ラン高校生が電池と蛍光灯を手にはしゃいでる姿ってシュールだから、もうちょっと慎んでほしいかな……。一緒にいる私まで目立つし……。

「ところで八雲、あんたそれ買っていくの?」

 と、電池を全種類片っ端からかごにいれている八雲に訪ねる。

「ええ、資料は多い方がいいので」

「なるほど、そりゃ確かにね」

 思いっきり既製品の電池で何を研究・観察するのやら。

「あ、それと……他にも探してるものがあるんですが」

「何? また資料?」

 何買うのかしら? 蛍光灯もiPodもかごに入ってるし……そろそろかごいっぱいになりそうなんだけど……。何を買うかによっては2つ目を使う必要が……

「えーとですね、プラズマテレビと、DVDプレーヤーと、冷蔵庫と……」

 待て待て待て、本気か?

 もうカートどころの問題じゃないし。ていうか……あんたお金あんの? 今、ざっとで言ったみたいだけど、それでもそんだけ買ったら10~20万は行くわよ?

「ご心配なく、資金は十分ありますから」

「な、ならいいけど……あんたんち金持ちなのね? そんなにお小遣いもらえるなんて」

「あ、いえ普通に研究費で出るんで」

 驚いた。1200年後の高等学校では夏休みの自由研究に研究費が出るのか。

 遠足のバス代すら自前で出させる現代の高校とのギャップにめまいを感じたけど、まあ違う時代のことだし、気にしても仕方ないでしょ。そう割り切ったものの、

 いざ家電売り場に連れてきてみてというもの、


「えーと……これとこれとこれ。あと、あれとそれもください」

「「「は……はい……」」」


 カタログ片手に、時折店員に質問しながら、そんな感じで豪快にテレビやら洗濯機やらエアコンやらを指差し1つでまとめ買いしていくこいつの隣にいるのはすごく辛かった。だって……こんな買い方マンガとかでしか見たことないし……。

 さすがに店員の人もいたずらや冗談を疑ったらしいんだけど、八雲が指示した番号のクレジット会社に問い合わせてから後は、超お得意様を相手にするかのごとき姿勢で接していた。……さっきちらっと見えたあいつのブラックカード(限度額無制限)、本物だったんだ……。いつの間に用意したんだか。

 店員が持ってる伝票の合計額がそろそろ8ケタに到達しようとした頃、八雲がこんなことを言い出した。

「あ、そうだ。若葉さん、何か入り用なものとかありますか? ついでに買いますよ?」

 あら、思いがけず魅力的な提案。でも……いいの? 研究費でしょ?

「大丈夫ですよ。まだまだありますから」

 まだまだ? マジで?

「それにほら、協力者に謝礼をする目的で使う……っていうのも、立派な研究費でしょ?」

 ああ、まあ……そう言われればそうか、お礼は大事だしね。

 まだ何か違う気がするけど……まあ……いいか。甘えちゃお。実は……部屋のコンポとノートパソコンにガタが来てたのよね……。

 その2つと、あとついでにiPadも買ってもらって、ちょっと欲が出た私は。

「あ、あと、その……ゲームもいい?」

「ゲーム……ですか? ええ、構いませんけど……」

 あ、ラッキー。欲しいのあったのよ。

 で、ゲーム売り場に一緒に来たはいいんだけど……いざ何でも買えるとなると、逆に迷うわね……どれにしようかな……。

 と、ここでいきなり八雲が、

「……これ、全部ゲームソフトなんですよね? この時代の遊び道具の」

「ん、まあそうね……対応するハードはそれぞれ違うけど」

「へー……ふーん……」

 ん? 何その反応? もしかして……興味持った?

「……よし、決めたっ! すいませーん!」

 え? 何? や、私まだ決めてないんだけど……てか、何で店員呼ぶ?

 ……何かしら、嫌な予感が……。


「えっと……こことこことそことあそこの棚のゲームソフト全部ください」


 ……欲張らなきゃよかった……。ま、また目立っ……!

 結局その日は、さらにその店でCDやDVDをそんな感じで『棚買い』した上、隣接する本屋と服屋でもそんな感じで買い物をしてお開きとなった。


 わ……私……もうこのお店来れないよ……。




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