目指すは商店街
「おい、そっちどうだ!? いたか!?」
「だめだ、いない。くっ……一体どこへ?」
「まさかもう帰ったんじゃ……?」
「それはないさ。出入り口はすべて固めてあるからな」
そんな会話を繰り広げるスカウト目的のみなさんの姿が、学校から遠く離れたビルの屋上に立つ私の目に飛び込んできていた。ふふっ……残念でした。こっちには瞬間移動できる未来のアイテム……を使える未来人が居んのよ。
ま……あいつらから逃れられたからって、今から自由に遊べる、ってわけでもないけどね。『そういう約束』で連れ出してもらったんだし。
……ということで、
「あのー……若葉さーん? そろそろいいですかー?」
じゃ……行きますか。この勉強熱心な未来人くんの観光案内に。
☆☆☆
「それで? 具体的にはどこ行きたいわけよ?」
とりあえず、まだ人通りの少ない学校裏の通りで、私はあらかじめ八雲に聞いておくことにした。
昨日ざっとは聞いたけど……やっぱりもうちょっと具体的に聞いておきたいし。
生活様式そのものを知りたい……って言ってたけど、さすがに朝起きてから夜寝るまで何するかまでみっちり知りたいわけじゃないみたいだしね。聞いた感じ、バスとか電車とか、公共交通機関のシステムなんかは今とあんまり変わらないらしいし。形は様変わりしてるらしいけど。
「っていうかまあ、目的……知りたいことを話してもらった方がいいかもね。それに合わせて目的地決めなきゃならないし」
「はい……歴史上の大きな出来事なんかはまあ、ある程度の資料がありますから……そのあたりは大丈夫です」
なるほど。全く資料がゼロ……ってわけじゃないんだ。それを踏まえたうえで……か。
それに、これは昨日考えたんだけど……市役所や図書館、郷土資料館なんかを使えば、わざわざそこに私がいなくてもこいつ1人で情報を調べられるはず。少なくとも、そこで得られる分の情報は。
となると……私がこいつに同行している今は、私がいないと説明も理解も難しい事柄を調べるのが効率的なのかな。
そう聞いたら、
「そうですね。その方向性でいいと思います」
「そっか。じゃあ……具体的にどんなところに行きたい?」
施設とかの入場料その他はコイツ持ちなんだし……私は時間さえ都合すればいいんだから、よっぽど突飛なところじゃない限りは付き合ってあげよっと。脱出の件では私も助かったしね。
八雲はしばらく考えて、
「うーん……この時代に使われている日用品、家電製品なんかを閲覧したり、それらに関する資料の書籍を閲覧・購入できたり、食糧や消耗品、嗜好・娯楽品のサンプルを入手できるところなどがあれば」
なるほど、研究・観察に必要な材料をそろえたいわけね。合理的だわ。
要するにええと……家電を見たり、本とか雑誌を読んだり、食べ物を買ったりできるところ……ね。ううむ、何か心当たりは……
……ていうか、それってつまり……
「……よし、じゃ……行こっか」
「はい! ……で……どこへ?」
「商店街」
単なるショッピングで事足りるな……と、結構考えた後に思いついてしまった。なんか……別にそんなことないのに損した気分……。
☆☆☆
商店街……と聞くと、人は2種類の像を思い浮かべるらしい。
1つは、昔ながらの八百屋、魚屋、電機屋……それも大型のじゃなくて、お爺さんが1人で経営してるちっちゃい感じの……とかが並ぶ、古風で趣のある、昭和系の商店街。
もう1つは、超大っきくて品揃えもいい電機屋とか、食料品何でもござれのスーパーとか、流行りのブティックやらスポーツ用品店やら、果ては大っきな病院まで、近代風のお店が所狭しと立ち並ぶショッピングモール系。
この町の商店街はというと、どちらかと言えば後者だけど、上手い具合にその2つを折衷した感じのやつなのよね。
八百屋もあるし、スーパーもある。ブティックもあるし魚屋もある。ちょっと建ってる位置が違って、品ぞろえなんかも微妙に違うから、うまいことどっちもやっていけてる。
道路も広いし、交通機関も充実してる。何より……今の時代でも地域間でのコミュニティがちゃんとあるから、住みやすいのよね、この町……青林町は。
「さーて……とりあえず端から見て回る?」
「あ、いえその……1店1店時間をかけたいので、出来れば絞り込んでもらえると……」
「何よ、注文多いわね」
ま、熱心な心がけですけど。
「となると……そうね、この一番大きい電気屋行ってみる? 品ぞろえもいいわよ。……若干遠いけど」
「そうですね。じゃあ、そうしましょう」
というわけで、まずは街の中心に行って電気屋に行くことにした。移動はまたワープか、飛んでいくことを提案したんだけど、その2つは使わず、電車で行くらしい。
他にもいろいろと理由があるみたいだけど……この時代の交通機関の観察・体験をしたいってのが本音みたい。まあ……いい体験だろうし、町中にいきなり空から舞い降りるわけにはいかないしね……。
そうこうしているうちに、駅に到着。お、ちょうどいいタイミングね、電車も来たみたいだし……って……?
「何してんの、あんた……?」
「え? この時代の電車って、手挙げて止めるんじゃないんですか?」
「……………………」
時間に待ってりゃ止まるっつの。ていうか、そんな公共交通機関があるか。
うーん……1200年分のジェネレーションギャップを甘く見てたわ……コレ下手したら交通ルールから教えなきゃかもしれないわね……。