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八雲レポート  作者: 和尚
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時間も空間も越えて

 で、


「私に何か用? 八雲琥珀やぐもこはく君?」


 今しがた自己紹介をした白学ランの彼……八雲琥珀に、私はそうたずねた。

 昨夜といい、今日といい……何だって私は名前も知らない少年に話しかけられるのか。

 まあ、昨夜のは偶然会っただけだとしても……今日のは部外者なのに校舎内に入ってまで私に会いに来てるんだから、明らかにおかしい。それに昨夜は、足音も足跡も無くいきなり消えやがったし……その辺考えると、こいつわけわかんない箇所多すぎる。

 ともかく、何か用があって私に会いに来てるんだろうし、その理由と、できればコイツがどこの何者なのかも把握しときたい。不審者、って可能性もゼロじゃないし……。

「あ、はい。えっとですね……簡単に申し上げますと、あなたに取材をさせていただきたいんです」

「取材?」

 取材って……何それ? あんた何かの記者? あたし別に地域新聞とかに載るような話題は持ってないんだけど……?

「あ、いえそういうのじゃないんです。僕がお聞きしたいのは、もっと他のことで……」

「他って何よ?」

「えっと、具体的には、現代日本の文化とか、日用品各種の解説とか、特徴的な習慣とか……」

「はあ!?」

 ちょ……急に言ってることがわかんなくなったんですけど。えーと、現代日本の文化? 習慣? 解説? な、何、その日本に留学してきた外国の人みたいな質問? あんた日本人じゃないの?

「あ、いえ、日本人ですよ? 一応……」

「一応?」

「はい、まあ……向こうの区分でですけど……。と、とにかくその……取材、させていただけないでしょうか……?」

 いやいやいや、アンタ疑問点が何一つ解決してないこの状況下で返事を求めるな。そもそも質問からして意味わかんないし。何だってそんなレポート課題みたいな……あ、もしかしたら案外そうなのかも。

 いやでも、それにしたって何で私に? 常識的に言って、日用品うんたらはまず置いといて、こういうのは市役所や図書館で調べるべき事柄のはず。決して偶然出会った現地人を適当に捕まえて取材するようなものではないし、そもそもその発想が……。

「あ、あの……すいません、他に頼める人に心当たりなくて……」

「いや、あんたさぁ……」

 だからって昨日ちょろっと会っただけの私をわざわざ頼らんでも……あれ?

 そういえばこいつ、何で私がこの学校にいるって知って……

 と、


 コトッ


「「ん?」」

 何かが屋上のコンクリの床に落下するような音がした。その音がした方を振り返ると……っっ! ヤバいっ!

 目の前に転がってるのは……バドミントンのシャトル。これがここに飛んできたってことは……バドをやってた人がコレを回収しにここへ来る!

 見た所、学校の備品を表す校印がきちんと押されてるし、なんか新品っぽいし……この学校、備品管理にうるさいから、指導室行きになりたくなければここまでシャトルを回収しに来るはず!

 こんな所に飛んでくるってことは、多分やってたのは放課後暇してる帰宅部とかの連中で、ベランダでやってたら飛んだ、ってとこかしら。正規のバド部員じゃないでしょうけど……それでもここで私が見つかって『常盤若葉はよく屋上にいる』ってバレるのは嫌! ここにまで勧誘の連中の魔の手が伸びかねない! ああでもここまで一本道だから取りに来る人と途中で鉢合わせするかもだし、屋上(ここ)隠れる場所無いし……

 と、

「あのー……」

 ああっ、こいつまだいた!

 白学ラン……八雲琥珀が、遠慮がちに、といった感じで手を挙げている。

「えっと、取材……」

「黙っててよ! 今どうやってこっから逃げようか考えてんだから!」

 く~っ、降りてこい、手品の女神、脱出の女神、もしくは2時間ドラマのアリバイ工作かなんかの女神降りてこい……っ!

「そんなこと言……ん? ここを離れたいんですか?」

「そうよ! それとも何、あんたがどうにかしてくれるの?」

 キョトンとしてる八雲琥珀に、イラつきを隠さずにやや威圧的に言うと、意外な答えが帰ってきた。

「そのくらいなら……まあ、いいですけど」

「……え?」

 あれ、返事YES? てっきり困った顔するものと……。

「それは、はい。でもその」

「わかった! 取材でも何でも出来る範囲で受けたげるから早く!」

「えっ、いきなり!?」

 難色を示していた取材オファーがいきなりOKされてびっくりしている様子の彼。ふっ、私の頭の回転の早さをなめるなよ。この後の展開はおそらく、


『逃がす代わりに取材させてくれますか?』

『え、そ、それはその……』


 恐らくはこういうパターンだ。ここで返事にとまどってるとタイムオーバーになる可能性が出てくる。こいつがどうやって私を逃がすつもりが知らないけど(逃げるのは実質的に無理だから、『隠す』かしら?)……もし本当に出来るんなら、さっさとやってもらうに限る!

 取材だか何だか知らないけど、まあ、基本私帰宅部でヒマだし……ちょっと話聞かせてやるぐらいなら大丈夫でしょ!

「あ、あの……」

「聞いてたでしょ? その耳は飾り!? 取材なら協力するから、早く私を逃がして!」

「わ、わかりました! あの……逃がす先ですけど、どこでもいいですか?」

「最低限常識的な所なら!」

 飛び降りるとか、柵からぶら下がるとか抜かすなよ?

「わ、わかりました。ではその……ちょっと失礼します」

「へっ?」

 八雲は何の意味でか一礼すると、唐突に私の手をとった。え、何?

 と、次の瞬間、


 ギュオン


「……え?」

 変な音と共に一瞬視界が揺らぎ、奇妙な浮遊間が全身を包んだ。そして一瞬だけ視界が暗転し、そこに再び光が戻ったと思うと……

 私は……


 ……学校の屋上ではなく、波の打ち寄せる海岸(砂浜)に立っていた。


「…………!!?」

 な……何これ……!? 私、さっきまで学校の屋上に居たはずじゃ……?

 と、訳が分からなくなっている私に、

「えーと、いいでしょうか?」

 微塵も同様していない様子の八雲琥珀が語りかけてくる。

「取材の了解もいただいて、ついでに未来技術(オーバーテクノロジー)も実際に体験していただきましたしね。改めて自己紹介させていただきます」

 そして、八雲琥珀はまっすぐ私の目を見て、


「僕の名前は八雲琥珀。西暦3285年の日本から時間跳躍機構を用いてここに来ました……平たく言えば未来人ですかね。どうぞよろしくお願いします」


 何の屈託もない、尻の軽そうな女子なら軽く落ちそうな爽やかスマイルで、そうきっぱりと言ってのけた。




 ……………………は??






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