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八雲レポート  作者: 和尚
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その名は八雲琥珀

 昨日幽霊見た! なんて言えるはずもなく。ってか言いたくもないし。

 今日も今日とて、私は普通に学生生活を送りましたとさ。文句あるか。

 いつも通り、適当に授業受けて、友達とおしゃべりして、お弁当食べて、部活動……は私入ってない。

 入ってないんだけど……すぐには帰れないのよね、

 なぜなら……私を狙う部活動勧誘員の皆様が、正門にも裏門にも控えてらっしゃるから。あいつらに捕まると厄介なのよね……。1年前……入学当初に『部活動はやりません』てその旨伝えて全部きっぱり断ったのに、地区総体近くなるとこれだもの……。

 おかげで、ここんとこはほぼ毎日放課後はここで時間潰さないと帰れない。あーもう、早く青葉のお見舞いに行きたいのに……。


「贅沢な悩みねぇ……」


 と、誰もいないはずの屋上にいきなりそんな声が響いた。やばっ、見つかった!?

 とっさに素早く上体を起こした私の目に映ったのは……

「なんだ、琴子(ことこ)じゃん」

「何だとは何よ、ミス罰当たり」


 黒髪のおかっぱ頭に、ビン底みたいなメガネをかけた私のクラスメート、陸上部所属の竹内(たけうち)琴子(ことこ)が腰に手を当てて仁王立ちしている姿だった。

「あんたのことだからここにいると思った。また部の勧誘から逃げてんの?」

「うん。何度も断ってんのに、諦める気配ゼロなの。もううんざり」

 ため息をつく私の隣に、琴子は何の遠慮もなく腰を下ろした。

「はぁ……もったいない。何で才能あるのに意欲がないのかね……」

「何よ、あんたまであの連中と同じこと言う?」

「言いたくもなるわよ。中学の頃からそりゃもうスーパーホープっぷり全開。中1で100m11秒台出したり、駅伝で最下位から全抜きしたり、助っ人穴埋めで出た水泳の大会で大会新記録出しちゃったり……あんたの武勇伝どんだけあると思ってんの? 運動部がほっとくわけないじゃない」

 あーもう、私の黒歴史をほじくり返すなっての。

 その思い出したくもない武勇伝のおかげで、朝の通学路から放課後までひっきりなしに勧誘が来てうっとおしいったらないんだから。私は時間を束縛されるような部活動はもうやらないって決めたの! 文句あるか!

「あんたのポリシーにとやかく言う気は無いけどさあ……あーあ、世の中不公平よね~……」

「? どういう意味?」

「だってそうじゃん、あたしみたいな毎日一生懸命頑張ってトレーニングしてる奴じゃなく、よりによってアンタみたいなやる気ゼロのやつに才能があるなんてさ……絶対神様ってステータス配分間違ってるわ」

 やれやれ、またその話か……。

 目指せレギュラー! ってんで日々練習を重ねてるこの子は、陸上部のレギュラー候補の1人。いつもあと一歩の所で他の人達に及ばず、補欠止まりなんだけど……たまにこうしてグチ言いに来るのよね。あ、グチとも違うか。

「それで、それ言うために私を探してたの? まさかまた選抜落ちた?」

「残念はずれ。今日はあんたに釘を刺しに来たのよ」

「? 釘?」

 珍しく鋭げな目をしたと思ったら……どゆこと?

「実は私……この度、レギュラー選抜に受かりましたっ!」

「おお!」

 すごいじゃん、長年の努力が実ったか。これで晴れて、後輩達どころか一部の先輩にも威張れる、夢のポジションが琴子、あんたのものに……って、ん? 今のと私と何の関係があるのかしら?

「そこで1つ言っとく! あんたがどこの部活の助っ人に出ようが構わないけど、陸上部だけは来ないで。あたしがレギュラーじゃなくなるから」

「あ。そゆこと」

 なるほどね……確かに、あたしがそこに入ったら、当然あたしは上に来るからレギュラー陣の順位が1つずつ下がって、レギュラー内最下位の人が押し出し式に外される。……って、何よあんた最下位だったの?

 で、レギュラーの座を守るために私に『釘』か……マメですこと。

「返事は?」

「はいはい、心配しなさんな、どこも出ませんよあたしゃ」

「ならよし!」

 惰気に満ち満ちた私の返事に逆に安心したのか、うんうんと首が取れそうなほどに縦に首を振って、琴子はダッシュで屋上を後にした。これから部活か、わざわざご苦労様です。

 さて……私はまだ帰れそうにないわ。あの連中が自分の部活に参加せざるをえない全体練習の時間帯まで……もう1時間はここで昼寝かしら。あーメンドクサ。それもこれも、こんな才能なんかがあるから……。私はそこそこ動けりゃ十分よ。

「要らないのになー、こんな才能とか。欲しけりゃ誰でも持ってけっての」

「そんなこと言うものじゃありませんよ、罰当たりな。持って生まれた才能は大事にするべきです」

 何よ、人の気も知らないで、勝手なこと言わないでよね。わかる? 日夜あの連中に追っかけられるこの鬱陶しさが。

「人気があるっていうのはいいことじゃないですか。向こうは真面目なんですから、たとえあなた自身のやる気が起きなくとも、邪険にせずに誠意を持って対応するべきでは?」

「あーもぉうっさいわね、さっきからアン……た………?」


 ……あれ?

 さっきから私……誰と喋ってんの? 声からして……絶対琴子じゃないんだけど。ていうか、最近どっかで聞いた声のような……?

 なんだかイヤな予感を覚えつつ、声のした方……背後に目を向けると、


「あ、昨夜はどうも」

「…………」


 そこには……昨日の白学ランの少年が、あぐらをかいていた。

「……誰、あんた?」

「あ、やっぱり見えるんですね、僕のこと」

 ……? まるで普通は見えないみたいな言い方ですけど……? ま、まさか本当に……? こんな昼間っから?

「……おばけ?」

「は?」

 と、白学ラン君がキョトンとした顔になる。目が『何言ってんの?』ってバリバリ自己主張してんだけど。この反応……違うのかしら?

 その白学ラン君、少し考え込むような素振りを見せた後、ぽんと手を打ち鳴らして、

「……ああ、なるほど! や、大丈夫ですよ。僕はおばけでも部活動の勧誘でもないですから」

 と、妙にムカつく爽やかスマイルできっぱり否定を……ってちょっと待たんかい!

 おばけ云々は会話の内容(見えるとか何とか)から予想つくとしても、何で私が部活動の勧誘を避けてることを知ってんのこいつ!?

「あ、すいません。盗み聞きするつもりはなかったんですけど、さっきの方との会話を聞いてまして……」

「琴子との? ……って、どこで?」

「いや、さっきからずっとここで。あなたがここに来たよりは後ですけど」

 は? いや……だったら琴子があんたの存在に気付いて何らかの反応を示すでしょ!?そんな様子は微塵も……って待て待て、そう言えばさっきこいつ『普通は見えない』みたいなこと言ってたっけ。じゃあ琴子が反応しなかったのはこいつが見えなかったからで……ってだからこいつ結局何者よ?

 いや、焦るな焦るな、えっと……ひとまず落ち着いて見てみよ。

 目の前でぽりぽり頬をかいて、『どうしたもんかな~』的な視線を送ってくるこの少年……顔は悪くないわね。若干童顔だけど、整ってる感じ。髪は明るい茶髪、メガネ着用。歳は多分……私とそう変わらない。特徴的な白の学ランは……どこの学校のか見当もつかない。てか、白学ランなんて漫画以外で初めて見たし。

「あのさ……」

「はい?」

「あんた、結局誰なの? 初対面……よね?」

 白学ランなんて珍しい服のやつ、一回見たら忘れそうにないし……。

「そうですね。まあ厳密には昨夜1度お会いしてはいるんですが、あの程度のやりとりで既知の仲と呼べるかと問われればまず否でしょうから……初めまして、でいいと思います」

「ふーん……」

 台本でも用意してたのかと思うくらいにさらりと述べる謎の少年。でも、そうならそうでアンタ妙に馴れ馴れしくない? 初対面の相手に対して、自己紹介も無しにさ。

 すると、文句の1つも言ってやろうとした私の先を取り、彼は心でも読めるのかというほど見事なタイミングで言った。

「あ、すいません、申し遅れました。僕、八雲(やぐも)琥珀(こはく)といいます。どうぞお見知り置きを」

 ぺこりと一礼。

 ふーん、八雲琥珀……ね。


 これが……普通の女子高生である私・常盤若葉と、これからその正体が明らかになる謎の少年・八雲琥珀との出会いだった。







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