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八雲レポート  作者: 和尚
14/26

青林裏路地捕物帳・後編

 前略。皆さん、窃盗事件が強盗事件になりつつあります。


 目の前には、バタフライナイフやらメリケンサックやら、なんちゃってヤンキーが調子に乗って所持してそうな凶器もったのが数人。けど、それらは一応本物で殺傷力は確かにあり、そして追いつめられて興奮気味なもんだから余計にタチが悪い。

「な、なあ、これって強盗だろ? ヤバくね?」

「いやお前、こんなもんカツアゲみたいなもんだって! ギリギリセーフだセーフ!」

 カツアゲが既にアウトだっつの。

「ともかく! 逃げきれねえんだったらしょうがねえ、向こうに逃げてもらうしかないだろ! 財布置いてな!」

「そうだ!これは正当防衛だ!」

 今すぐこいつに広辞苑を叩きつけて辞書引かせてやりたい。カツアゲに正当防衛もヘッタクレもあるか。

 ……ってツッコミしてる場合じゃなくて、この状況さすがにまずくない?

 私、体力なら速攻インターハイ行けるくらいの自信はあるけど、喧嘩とかあんましやったことないし……いくらなんでもナイフとメリケン相手に素手とか……。

 ところが困ったことに、周りに武器になりそうなものが何も……はっ、そうだ! こんな時こそこいつの出番!

「や、八雲! あんた何か武器とかないの!?」

「武器ですか?一応護身用のがありますけど……ところで、あれがかの有名な『ヤンキー』ってヤツですか?」

「そうよ! それよりあるのね武器!? 早く……」

「あ、その前に、折角なんでよかったらこの時代のヤンキーの皆さんにインタビューとかしておきたいんですけど……」

「んなことしとる場合か! さっさと武器よこせ!」

「わ、わかりましたよ……ちぇっ」

 なんでこの状況で舌打ち出来るのか拳で聞きたいところね。何、ヤンキーにインタビューって!? 勉強熱心にも程があるでしょ!? だけど、今はそんなことしてる場合じゃないから見逃してあげるわ。

 しぶしぶながら、八雲はポーチに手を入れて、

「あ、若葉さんって剣道とかできます?」

「え? まあ、前に助っ人で出たことあるけど……」

 ちなみにその時は、助っ人した部の連中全員倒して優勝したわ。

「そうですか、じゃあこれを」

 と、八雲はポーチから取り出した『何か』を私の手に握らせた。何かしらコレ? 警棒にしては短いし……スタンガン? 違うわね、電極がないもの。何だろ、見た感じまるで、刀身が無い剣の柄の部分だけみたいな……ってコレもしかして……!

 その時、私の指が何かのスイッチに触れたらしく、


 ヴォン


「この時代で言う……ラ○トセイバーです」

「これは危なすぎるわ!」

 棒の先端から出てきた光の剣に度肝を抜かれた。いや、いくらなんでもこれはヤバいって! 某宇宙戦争映画でしか見たことないこれが1200年後に実際に発明されてんのにも驚いたけど、何で平然とコレを出すの!? てかコレ1200年後には一般の護身用武器として使われてんの!? 何そのハリウッドのCG担当も真っ青な世紀末的戦闘街!?

「さて、じゃ僕はこっちを」

 そう言って八雲はさらにポーチから、


 すちゃ


 どう見てもスーパー戦隊仕様の光線銃にしか見えない『何か』を取り出して構えた。

 だからあんたは何でそう躊躇いもなく……!

「な、何だアレ?」

「ははっ、何出すかと思ったらおもちゃの剣とレーザー銃か! かわいいじゃん!」

「ビビって損したぜ、運動神経はあっても、所詮は一般人パンピーだな」

 違うんです! こいつのは正真正銘本物……っていうかこいつ自身本物なんです!

 そんなことを知る由もないヤンキーの皆さん。その1人が、ナイフ片手につかつかとこっちに歩み寄って来た。ああっ、来ちゃダメ……

「オラオラぁ! さっさと財布置いて……」


 ピュンピュンピュン!


 妙に甲高い電子音ちっくな音が3回。と同時に、私の動体視力が超高速でとぶ光弾のようなものを一瞬だけ捕らえ……前進していたヤンキーさんが音もなくその場に倒れ伏した。

「「「………………」」」

 一同、絶句。そして……


 ダッ!!


 人間の危機管理本能が見事に働いたらしく、残るヤンキーの皆さんは一斉に踵を返して逃げ出した。

「おおおおおおい! 何だ今の!? モノホンか!? モノホンの拳銃か!?」

「バカいくらなんでもそんなわけねーだろ! ありゃきっと改造エアガンだよ!」

「どっちにしろヤバいだろ! 逃げんぞ!」

 うんうん、賢明な判断だよね……ってちょっと待った! 鞄は置いてけってば!

 間髪入れずに私は走りだし、八雲も走……ると見せかけて離陸した。

「うわあっ! お、追って来たあっ!」

「く、来るなぁっ!」

 と、逃げるヤンキーの1人が、私達の進路を妨害すべく、立て掛けてあった大量の鉄パイプを蹴飛ばして倒した。うわっ、危なっ!

 そして私は思わず持っていた光の剣を振るって(ズパパパッ)わあああっ!? 斬れた! ホントに斬れた! 全部! 真っ二つ!

「ちょっとちょっとちょっと! ホントに危ないでしょコレ! あんたのレーザーも!」

「あ、大丈夫ですよ。その剣も、この銃の弾も、帯電性特殊光子で構築されてるんです。硬質の物体は破壊できますけど、人体とか、生体に対しては殺傷力は低く設定されてますから」

「そ、そうなの?」

 じゃあ、さっき凶弾に倒れた人も無事?

「はい。せいぜい2、30秒間ショックで心肺停止する程度ですから」

「十分危なっかしいわよ!」

「あ、あと剣の方は、出力と使い手の実力次第では『スパッ』といく場合も……」

「全然大丈夫じゃないじゃん!」

 私結構剣道自信あるんですけど!?

「でもほら、いざとなっても……テレポートで帰っちゃえばアリバイは完璧ですから」

「殺る前提で話すな!」

「失礼な、いかに不届き者とはいえ、せいぜい病院送りくらいでとどめますよ」

「十分ヤバいっつの! 思考が!」


「だから何であいつらフツーに話しながらついて来れてんだよ!?」

「知るか! あーくそ貧乏くじ引いたっ!」


 命の危機を感じて残り少ないライフに鞭打って走るヤンキーの皆さん。もう、何でそこで『盗品を捨てる』って選択肢が出てこないかな……いい加減追うのもめんどいんだけど。と、

 ん? なんかそのさらに前方に人影が……

「……ん? 何だ?」

「おい! どけそこのアマ!」

 どうやら前の道に無関係な女の人がいて逃走経路をふさいでいるらしい。あ、どなたか存じませんが、危ないから早く退いて……あれ!?

 ヤンキーの隙間から見えたその『女の人』って……あの白衣とあの金髪とあのメガネは……もしかして……


「は、葉桜先生!?」


 一昨日に顔を見たばかりの養護教諭だった。

「お? そこにいるのは、2年1組出席番……」

「先生! 人の学籍情報丁寧に口に出して認識してないでそこどいて下さい! 危ないから!」

 この人は説明なしで人のことを呼べないのか?

「危ないって何……ん?」

 と、ナイフを構えたヤンキーの集団はいよいよ先生のところにさしかかって……って先生! だから危ないから逃げ……


「「「オラどけぇ―――っ!」」」


 ばきばきどか!!


「「「ぎゃあ―――っ!!」」」


 …………あれ?

 ヤンキーが先生に突っ込んでいった瞬間、先生の手と肘と足がすごい速さで動いたかと思うと……その2秒後には、ヤンキーの皆さんが全員地に倒れ伏していた。

 え、ちょ……先生!? あんた何したの!?

「何だよこいつら? ったく、危ねーな……」

 いや、あなたのほうが危ないって可能性もかなり濃厚ですけど……

 今の一瞬でエルボー、ストレート、ハイキック、裏拳、そしてフィニッシュに弾丸のごとき飛び膝蹴りを決めて総勢5人のヤンキーを全員沈めた葉桜先生は、ピカピカの白衣についたほこりを悠然と払っていた。

 す、すごすぎ……私でもほとんど見えなかった……。葉桜先生……何者!?

「それはそうと……おい、お前らこんなとこで何してんだ? こいつら何だ?」

「あ、実はかくかくしかじかでして……」

「ふーん、なるほどな。ほれ、鞄」

 と、連中が持っていた私の鞄をぽいと放る。っとと、キャッチ成功。さて……ああよかった、中身何も盗られてないみたい。

 そして先生は携帯を取り出して『110』を押して警察を呼び、その後、流れるような手つきで連中の財布から現金を抜き取り、ぴくっと動いて気がつきそうになった1人に当て身をかまして再び眠らせた。…………あれ?

「んじゃ、こいつらは私が処理しとくから、お前ら帰っていいぞ?」

「あの、今何か問題行動が見えた気がしたんですけど……?」

「気のせいだ、さっさと散れ、失せろ、消えろ」

「……はーい……」

 何言っても無駄そうだなと悟ってもう行こうとした私たちを、

「あ、それと、それしまってけよ。いくらおもちゃでも、補導されんぞ?」

「え? あ! はい!」

 と、私と八雲の持ってる光の剣と光線銃を指差して言った。あわてて私は刀身をしまって八雲にそれを返し、ポーチにしまわせる。

「ん? 今のお前のそれ、剣縮まなかったか?」

「き、気のせいですっ! じゃあ私たちはこれで!」

 これ以上何か聞かれる前に、私は八雲の手を引いて全速力で逃げるようにその場を去った。というか……逃げた。

 よ、よかった……何だか知らないけど、それ以上に大きな事件が目の前で展開したおかげで、先生私たちが裏路地で何してたのかとか聞かなかった……運がいいわ。うん。

 先生が異常に強かったとか、何でこんなとこにいたのかとか、ていうか現金抜いてたとか、気になることはいくつかあったけど……そういうことはもう考えないようにして、私はひたすら路地を走った。

 ……そのせいで、後ろのほうで何ごとか八雲がつぶやいていたことに気付かなかった。


「……『葉桜先生』? それにあの服……今の飛び膝……もしかしてあの人……」


☆☆☆


「ったく……とんでもねーことするな、あのバカガキは……」


 誰もいなくなった裏路地で、葉桜翠はポツリとつぶやいた。





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