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魔法

作者: 雪猫
掲載日:2026/09/16


「魔法を使えるようになったら何がしたい?」


平凡な質問。先生ならば皆聞く、形だけの質問だ。


普通ならば。


だが目の前の頑迷で偏屈で理不尽な老魔法使いが口に出すとなれば、話は別だ。


ましてやその目に殺意のようなものが宿っているのだから、なおさらだ。


数分の狼狽と混乱の後に、僕の口から出てきた答えは


「分からない」だった。



目の前の理不尽は


「分からないなら考えろ。


魔法を使えるようになったら何がしたい?」


と問い詰める。



「分からない」の他に、何が言える?


魔法使いに夢を抱いて強く望んで来た訳じゃない。


「他よりは面白そうだから」


「友達と同じだから」


「他より楽そうだから」


「何か選ばないといけないから」


特別な才能なんてある訳じゃない


一生の仕事だと運命を感じた訳じゃない


根気もない


平凡な人間だ


少し進もうとすると、少し上ろうとすると、すぐに躓く。限界だらけだ


自分の小さな範囲で生きていくしかない


運命があるとしたら「平凡」が自分の運命だ


平凡という呪いだ


「無知の知」の何が悪い?


自分とは違う人生の人間が、自分とは違う個体が、


詐欺か、無垢な愚で


「私と同じで、君も平凡じゃない」と


人を騙そう、上から目線で人を救おうとするのを信じる程、


幼くもないことの何が悪い?



魔法があるなら


魔法が使えるなら


『僕を助けてくれ』



出来ないだろ?


じゃあ、魔法など使えても



「無だ」




「何?」



「魔法が使えても…何もしない」



「なぜ」




「魔法ごときには何も出来ないから」





なんて顔をするんだ、この老人は。そんな顔初めてだ。


次の瞬間、笑い出した。


何がそんなにおかしい?


笑っている老人を置いて帰ろうかと考え出した頃、


笑いの収まった老魔法使いは言った。


「いいぞ。魔法を教えてやる。


教えることの出来る、この世の全ての魔法を」



自分の胸に、驚きと困惑と喜びが沸き起こる。


しかし、なぜ?


老魔法使いは、僕の目を見て言う。


「魔法も捨てたもんじゃない。


だが、そうだ。


魔法『ごとき』だ」



不敵に笑う。




僕は弟子になった。




初めて、自分の杖から火を出して火傷をした日から数週間後、


コントロール出来るようになった火で作った焚き火の前で、


師は、僕の目を見て静かに言った



「他の魔法と違い、


他人に教えることが出来ない


魔法がある。



自分だけの


『本当の魔法』が」



穏やかな優しい目をしていた。


そして、確信ではなく事実を告げた。




「それがお前を助けるだろう」




僕の胸に初めて、希望が灯った




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