ルピナスの咲いていたあの場所
これは僕が小学三〜四年生ごろの話です。
その日は放課後同じ町内に住む、特に仲がいいわけでもない田島君となぜか遊ぶ事になり、自転車で町内を走り回っていました。
するとよく遊んでいる公園の近くに空き地を見つけました。
その空き地には高さ一メートルくらいの植物がたくさん生えていて、同じ種類の花なのに紫の株とピンクの株があり、とても綺麗だったのを覚えています。
後にこの植物はルピナスという藤に似ている事からノボリフジとも呼ばれる花で、勝手に種が飛んでとても増えやすい植物だということを知りました。
風も吹いていないのに、花たちがザワザワと揺れていたのを覚えています。
僕らは下から上に向かって咲くその花が『とうもろこしのようだ』と面白がり、僕は紫、田島君はピンクの株をそれぞれ掘って家に持ち帰りました。
次の日、同じ町内に住む小野君にその話をすると、
「そんな花が咲いている空き地なんて見た事が無い」と言われ、「じゃあ今日行ってみよう」ということになりました。
正直そう言われると、僕も今までその空き地には行った事はなかったので同じ町内なのに不思議だなとは思ったのですが。
放課後、僕は小野君と二人、その空き地に向かいました。が、どこを探してもそんな空き地はないのです。
「ほら、やっぱり無いじゃん」という小野君に、
「そんなわけない、確かに花だって持って帰ったんだから」と言い張る僕。
仕方がないので、前日一緒に空き地に行った田島君の家まで行き、彼も一緒に行ってもらうことにしました。田島君の家の花壇には昨日持ち帰ったピンクの花が咲いており、小野君に「この花がたくさんあったんだよ」と言いながら、出てきた田島君とともに、再び空き地に向かいました。ところが探しても探しても、やはりその空き地は見つかりません。確かにここだったという場所には行ったのですが、昨日はこの右の家と左の家の間に空き地があったはずなのに、空き地だけ消え失せたように右の家と左の家はピッタリとくっついて建っています。
なんと言ったらいいのか。
ハンバーガーの上下のバンズの間に入っていたパテだけが最初から入っていなかったように消えてしまって、上下のバンズも切れ目さえなく一つのパンに戻ってしまったような感じでしょうか。
小野君が「どっかと間違えたんじゃないの?」と言い、僕ら二人は首を傾げながらその周辺を探したのですが、やっぱり空き地は見つかりません。そもそも空き地は毎日通っている通学路から十メートルくらいしか離れていない場所だったし、そんなに広くもない知り尽くした町内で道を間違うはずはないと思うのですが、そう言われると自信もなくなり結局何かの勘違いだったのかもという事になってしまいました。その事で小野君から嘘つき呼ばわりされるなどという事はなかったのですが、心の中では『絶対この家とこの家の間だったよ』と思い、いつかもう一度見つけてやろうと思っていましたが、実際は探す事なく気がつくと一年が過ぎていました。
その日久しぶりに田島君の家に行った時、再び咲いているルピナスの花を見て、
「あの時の空き地、結局見つからなかったよね」と言ったところ田島君は
「は? 空き地って何?」と言うのです。
「え、そこに植えている花、去年空き地で見つけて持ってきたんじゃん」と言っても
「知らない。その花はお母さんが近所のおばさんから貰った」との事、
「いやいや、違うじゃん。次の日小野君と一緒に探しに行ったでしょ?」と言っても
「わからない」とだけ言われ、そこにいた田島君のお母さんに
「お母さん、その花って高橋さんのおばさんにもらったんだよね?」と田島君が尋ねると
「そうだよ」との事。
僕はいよいよ訳がわからなくなり、なんとなくその会話を終わらせました。
その後も何度か空き地を探しに行きましたが、二度とあの空き地に辿り着くことはできませんでした。
あれから数十年経ちますが、今でも僕の実家の庭には、紫色のルピナスが咲いています。




