2.ああ、愛すべきモブ女騎士(28)、溺愛されてしまう!
モブ騎士「きゃああああああああっ!」
長い黒髪を左右で三つ編みにした女モブ騎士は、教室の壇上に立っていた。
しかも、騎士の格好ではなく、他の学園生徒達と同じ焦げ茶色の制服を着ている。
どうしてなのか。
あなたに簡潔に説明すると、騎士である彼女がこの王立学園に入学したからであった。
「……私は二十八歳の平民です。よろしくお願いします」
自己紹介の最後にそうつけ加えるよう、彼女は主人の第四王女ライアールから命令を受けていた。
二十八歳の平民。
この発言に反感を持つ、公爵令嬢とその取り巻き二人がいた。彼女達三人に、モブ騎士はついて来るよう半ば強要された。
誰も訪れないであろう、東校舎の最上階にあった空き教室へと、令嬢達とモブ騎士は到着する。
「ではさっそく、制服を脱いで頂きましょうか」
「……えっ?」
モブ騎士は公爵令嬢の言葉に耳を疑った。しかし、聞いた通りの意味らしい。
「位が上の者には従うものですよ? 早くなさい」
長くて美しい橙色の髪を持つ公爵令嬢。彼女は腕組みをしつつ、モブ騎士に厳しい顔を向けている。
三人の令嬢達から冷たい視線を受けるモブ騎士は、もちろん貴族ではない。特に公爵家に逆らうとまずいという、いかにも平民らしい考えにたどり着いたモブ騎士は、渋々ながらも従った。
「うぅ……」
制服を脱いだモブ騎士が、令嬢達から目を逸らす。
モブ騎士の白い下着姿。上下ともに小さな白いリボンがついている以外、装飾は見られない。二十八歳の女性が着けるものとしては幼い感じだが、その点を恥ずかしがっているのではなく、下着を晒すこと自体が恥ずかしいという考えから、顔を赤くしているのであった。
背が高いモブ騎士の体は、鍛えられているのが見て分かる。公爵令嬢の取り巻きの片方……茶髪の子爵令嬢はその点に注目していたが、首謀者の公爵令嬢はそうではなかった。
「紋章がありませんわね……」
公爵令嬢は聖女特有の印を探していた。聖女であれば、体のどこか、分かりやすい位置にあるはずの紋章である。
しかし、あなたもすでに知っている通り、モブ騎士は騎士であって、聖女ではない。そんな紋章、あるはずがないのだ。
「平民で急に入学ということで、聖女なのかもと思いましたが、違ったようです。三十近くになるまで聖女として認められなかったのは、やはり不自然ですものね……」
推測を述べた後、公爵令嬢は白い下着姿のモブ騎士を勢い良く押した。
「きゃっ!」
モブ騎士は情けなく倒された。
公爵令嬢は慣れた手つきでモブ騎士の股下に右膝を置き、彼女の動きを封じるように覆い被さる。床のすぐ上の、お互いの顔が近い。
「貴女、ただの平民の分際で、どうやってこの歴史と伝統のある王立学園に入学出来たんですの? 場合によっては、あのような暴言とも取れる発言をした貴女には、罰を与えなければなりません。――さあ、正直におっしゃいなさい」
公爵令嬢を恐れるモブ騎士は、彼女には逆らえない。
「……私は、騎士の養成学校しか出ていなかったので、こちらの学園で従者にふさわしい教育を受けるように、との命を受けました……私のご主人様の、王女ライアール様に……」
「王女ライアール様? 第四王女のっ?」
公爵令嬢の表情が一変した。
「――はい、お呼びでしょうか」
わざとらしく大きな音を立てて、扉を開いた。王女の登場だ。
「ライアール様ッ?」
公爵令嬢が飛び上がるように立ち上がった。他の令嬢も背筋を伸ばす。
「こちらで一部始終、見せて頂きましたが、どうやら私の大切な近衛騎士隊長に、大変面白いことをしていたようですね」
「いえ、これは……っ、えっ、騎士隊長っ?」
公爵令嬢は酷く混乱している。
「それと、とても興味深いこともお聞きしました。位が上の者には、従うものなのですね? 私もそれには賛成です。――では貴女達も全員、制服をお脱ぎなさい」
王女は笑顔のまま、冷静に命じた。
令嬢達は三人とも格上である存在には逆らえず、すぐに従った。
横並びした三名が制服を脱いだ……のだが、王女から見て右端の長い青髪の伯爵令嬢だけ、下に着ていた体操着を脱がずにいた。
「体操着は?」
「……脱ぎます」
伯爵令嬢は王女に指摘され、顔を赤くしながら、上の白い半袖、下のダークグリーンのハーフパンツも脱いだ。
空き教室で令嬢三人と騎士一人が下着姿になっているという、異様な状況が生まれた。
令嬢のうち、中央にいる最も上位の公爵令嬢は、ミントグリーンの揃いを着ていた。白いフリルやリボンが用いられた彼女の下着は、高貴さも感じさせる。
体操着を着ていた青髪の伯爵令嬢は、下着の色こそ白だが、装飾も多く、モブ騎士のそれよりも高級感で上回る。
残りの茶髪の子爵令嬢は、桃色に白の水玉模様で、最もかわいらしい印象だった。
彼女達は淑女であり、人前で下着姿を晒すことに恥じらいを抱いている。
モブ騎士としては、自分と同じように脱がされている彼女達に、同情すら抱いているようだ。
だが、モブ騎士の主人たるライアールは、これだけで罰を終わらせるつもりはない。
「はい、お次は、裸になってダンスを披露してもらいましょうか?」
「「「「えええッ?」」」」
令嬢達だけでなくモブ騎士も声に加わった。
「ライアール様! さすがにそれはやり過ぎではっ?」
モブ騎士は王女に異議を唱える。彼女は命令に忠実ではあるものの、根が真面目なこともあって、このような態度をとることもある。
「そうでしょうか? 私の近衛騎士隊長に辱めを与えたことを考慮すれば、むしろその程度で済んで喜ぶところですよ」
王女に言われて、モブ騎士は今も下着姿であることを意識した。両手で胸部を出来るだけ隠す。
「振付は貴女にお任せしましょう」
「私はそんなことしませんっ!」
「では、私が考えて差し上げます」
「やめて下さいって! 貴女がたはもういいのでご退出下さいっ!」
モブ騎士に促された令嬢達は制服を持って、バツが悪そうにそそくさと教室から出て行った。
「この私に口答えするなんて、随分と偉くなったものですね、モブ騎士」
「何回もこんな姿にされてたら、さすがにそうなります! 今回はライアール様が原因ではなかったですけどっ!」
モブ騎士は不満を叫び、脱いだ制服に手を伸ばした。白い下着姿から制服姿に戻れば、不思議とモブ騎士とライアールは同級生のようにも見える。モブ騎士は二十八歳とは思われないほど、童顔で若く見える。
この後、モブ騎士とライアールは去って行った令嬢達と顔を合わすことはなかったが、翌日、彼女達はモブ騎士の姿を見つけるなり、即座に謝罪をするのだった。
■
あなたに説明すると、この王都の中では基本、剣を持つことはなく、代わりに長い警棒を扱う。もちろん、学園内の剣術の授業で用いられるのも、警棒だ。
その警棒を持つ二人が、屋外の運動場で構え合う。
片方は黒いポニーテールの女教師で、もう片方は、生徒でもあるモブ騎士だ。
剣術の授業の際、教師は力量を知りたいとして、モブ騎士に手合わせを申し込んだ。彼女が第四王女ライアールの近衛騎士だということも聞いているらしい。王女であるライアールとは無理でも、近衛騎士とであれば、願いは叶うと踏んだのだろう。
女教師は、生徒達の半袖ハーフパンツという体操着姿とは異なり、白の長袖に青の十分丈という出で立ちだ。凛とした顔つきの美女でも、モブ騎士より若いということを、あなたには知っていてほしい。
「では行きますよ!」
「はい、よろしくお願いいたします、先生!」
モブ騎士は年下の教師を先生と呼んだ。
真面目なモブ騎士は、同級生の半数ぐらいと同様に、体操着の半袖の裾をハーフパンツ内に入れている。
開始の合図はなく、モブ騎士が動いた直後に教師も合わせて、模擬戦が始まった。
双方が警棒で打ち合う。
そんな彼女達の勝負を、生徒達が見守る。模擬戦の鑑賞は、生徒達の参考にもなるだろう。
モブ騎士が防御中心であるのに対し、教師は攻め中心の戦法だ。攻撃側が防御を打ち破れるか、あるいは防御側が隙を見て打ち込められるかで、試合は大きく動く。
第四王女ライアールは、王女の中で最も武術に長けている。モブ騎士は仕えているライアールより実力が劣っているものの、決して弱くはない。確実に教師の攻撃を防ぎ、体力を削る。地味だが堅実な戦法を維持する。
最後には、上手い具合に教師の警棒を弾き飛ばす。それは空中で回転し、地面に落ちた。
モブ騎士を騎士とは知らず、ただの二十八の年増だという認識を持っている大半の生徒は、敗北した教師の不甲斐なさを軽蔑したかもしれない。彼らはモブ騎士の強さを認識出来ていない。
逆に先日の令嬢達三人は、モブ騎士をあの強きライアール王女が認めた近衛騎士隊長だと疑っておらず、負けるはずがないと信じていた。それゆえに、今の嫌な空気に不安を覚えている様子だった。
勝者のモブ騎士は、どうにかしなければならないと焦っている。ライアールはモブ騎士に手を貸さず、敢えて傍観者でいた。
「――あのっ! 私は皆さんに、お伝えしていないことがありました! 実は私、王女ライアール様の近衛騎士に任命されていまして、それで先生が、私とのお手合わせを申し込まれたのです!」
彼女が放った『王女ライアールの近衛騎士』という肩書は、先ほどの模擬戦の結果を生徒達に納得させるにはじゅうぶんだった。
「私はライアール様を守ることが仕事ですが、先生は皆さんに教えることが仕事です。皆さんに良いお手本を見せるため、先生は素晴らしい試合運びをして下さいました。ありがとうございます」
モブ騎士が頭を下げると、教師は恐れ多く思っている様子だった。
「……私達の国は、このようなお方に支えられているのですね」
青髪の伯爵令嬢が両手を組んで、感嘆の声を出していた。先日、制服の下に今着用中の体操着を着込んでいた令嬢だ。
その後、あの公爵令嬢が賞賛の手を叩き始めると、すぐに多くの生徒達が呼応して、割れんばかりの拍手になった。
もはや、モブ騎士をただの平民と罵る者はそこにいない。
授業が終わると、モブ騎士は教師のほうに近寄った。
「先生、ありがとうございました。私の顔を立てるために、勝利を譲って下さったのですよね」
「いいえ、騎士様。私も全力で、勝つつもりで挑んでいました。私に勝てたのは、他でもない貴女様の実力です」
「そうおっしゃって頂けると有難く思います。それと、私は生徒ですから、様づけはしないで大丈夫ですよ」
「王女殿下の側近の方にそのようなご無礼はさすがに……。それに私も年下ですし」
「えッ、年下っ?」
モブ騎士が女教師の発言に驚いていると、今度は令嬢達三人がモブ騎士のほうに寄って来た。
「すみません、お尋ねしたいことが……」
「ええと、なんでしょう?」
モブ騎士は橙色の髪の公爵令嬢に応じた。
「先日の際……貴女様ほどの実力をお持ちであれば、私達に従わず、返り討ちに出来たと思います。どうして、そうしなかったのですか?」
「それは……私が、この王国の民を守る騎士だからです。その民にはもちろん、貴族の皆さんも含まれています。民を守るために培って来た力を、その民に向かって無暗に行使することなど、騎士として恥ずべき行為です。それこそ、制服を脱ぐくらいで穏便に済ませられるなら、私は喜んでそちらを選びます」
モブ騎士は日頃からライアールに脱がされているからこそ、自信たっぷりに言えるのだった。
そんな事情も知らず、公爵令嬢が緑の瞳を宝石のように輝かせる。
「私が思っていた以上のご回答、ありがとうございます! 貴女様の誠実さに私は感激いたしました! これからは親しみを込めてお姉様とお呼びしてもよろしいでしょうかっ!」
彼女の高揚した顔は、拒否というものをさせないほどに純粋だった。
「はい、構いませんが……」
モブ騎士は軽く笑顔を作って肯定する。
「ありがとうございます、お姉様! 今後ともよろしくお願いいたしますわっ!」
公爵令嬢はモブ騎士の両手を握っていた。
「お姉様のお体……大変素敵ですわ……」
横で茶髪の子爵令嬢がモブ騎士へと抱きつく。馴れ馴れしい彼女は先日から、モブ騎士の体に興味があるらしい。
もう一人の伯爵令嬢も、ずっとモブ騎士を崇めている。
モブ騎士は、この三名の令嬢との親交を得た。モブ騎士の将来には大変有益となるだろう。
だが、ライアールとしてはこの流れを好ましく思っていない。
■
またモブ騎士が、服を脱ぐよう強要された。
「あの……ライアール様……どうして私はこのようなことに……?」
白い薄着のモブ騎士は理由を問う。
「まずは正座を」
「はい……」
叱られるのを恐れるモブ騎士は、素直にライアールに従った。
ここはライアールの部屋だ。モブ騎士はメイド服こそ脱いだものの、肩なし丈長の肌着、太ももを隠す長さのドロワーズを脱いでいない。彼女がメイド服でいる際は、それらの下にも白い下着を着用しているにもかかわらずだ。けれども、ライアールはここまでで許した。
「本日、貴女はあの令嬢達と仲良くしていましたよね? そのことは大いに結構ですが、私としては、配下の奴隷が他の女達と楽しそうにしているのは気分が良くないのですよ」
「今、奴隷って言いませんでしたか?」
「――おっしゃいませんでしたか王女殿下、です」
「ひぃいぃっ! あっ、あっ、いま、奴隷って、おっしゃいませんでしたか、王女殿下っ」
モブ騎士は訂正を述べた。
「よろしい」
ライアールは腕を組んでモブ騎士を見下ろす。
「貴女が奴隷と騎士、どちらなのかと聞かれたら、私はもちろん騎士だと答えます。そんな騎士職の貴女には、お仕置きをしなければなりません」
「あっ……!」
モブ騎士は押し倒され、モブ騎士の首から下げてられている小瓶を、密着するライアールが手に取った。
小瓶の中には無色透明の、特殊な気体が入っている。
「今日も貴女は、護身用の品を身に着けていますね……こちらはどのような効力なのでしょう?」
「わっ、おやめ下さいっ! ライアール様! それは危険なものなんですっ!」
「まあ、おそろしい。では、モブ騎士で試してみましょう」
ライアールが蓋を開けると、思っていた以上に気体が勢い良く拡散した。
煙幕のように白い気体が舞い、周囲の視界が一気に悪化する。
やがて収まったかと思うと、モブ騎士とライアールに外見上の大きな変化が現れる。
あなたは二人の頭に着目してほしい。そこにはなんと、立派な猫耳が生えていたのだった。
猫耳は髪色と同じで、モブ騎士は黒、ライアール王女は金色になっている。
モブ騎士は平然としているが、ライアールのほうは倒れていて、気絶をしているふうにも見える。
「今の気体は、猫さん状態にして弱体化するものなのですよ。私には耐性があるので、猫耳が生えるだけで意識は万全です。今のライアール様は、心も猫さん状態ですよね?」
「にゃああああぁ……」
ライアールが目覚めた時の第一声がこれだった。
しかも、猫のように四つん這いの体勢をとる。
「まさかライアール様がご自分で開けてしまうとは。難敵と遭遇した際の緊急回避用でしたが……、まあ、ライアール様も難敵ではあるでしょうか……」
モブ騎士は満足そうにライアールを見つめる。
「それにしても、本当に猫さんみたいですねぇ……ライアール様は」
モブ騎士はライアールがにゃあにゃあ鳴いている間に、脱がされたメイド服を着直した。
「さて、ライアール様。もう私が誰なのか、分かりませんよね? 今は絶好の機会です。これまで虐げられて来たことの仕返しをしなければ……」
嫌な笑顔で、モブ騎士はライアールを仰向けにして、上に被さった。今までと立場が逆転している。
「にゃああああ……」
ライアールは猫のように鳴くだけだ。
「かわいいですねぇ……いつもこうなら良かったのですが……」
モブ騎士はライアールの猫耳を撫でる。
「散々脱がされたので、私も脱がしてみましょうかねぇ……」
禁断の両手をライアールの制服に伸ばす。
しかし、止めた。
「……出来ません」
モブ騎士は呟く。
「やはり報復を恐れてしまいます……」
有利な状況にあっても、モブ騎士は臆病であった。
「私でも訓練して耐性を得られたのですから、ライアール様も耐性をお持ちの可能性があります。今のライアール様が、猫さんの演技をしているだけでしたら……私の人生終了が確定です……」
独り言の後に、モブ騎士はライアールの上から退いて、少し離れた。
背筋を伸ばして両手を腰の前で重ねた従者の格好で、じっと待ち始める。
動かないメイドの前で、猫はにゃあにゃあ鳴くのをやめた。
「――命拾いをしましたね、モブ騎士。私を脱がしたら、処刑場行きになっていたところでした」
寝転んだままライアールは言い、いかにも正常な様子で立ち上がった。
頭に猫耳がついている以外、ライアール王女は普段と何一つ変わらない。
「やはり耐性をお持ちでしたか! さすがはライアール様!」
作り笑顔で下手に出るモブ騎士。
「――ですが、私の命令なしに服を着たことと、私に対して邪な感情を出したことは頂けないですね……」
ライアールは椅子を用意し、自らが座り、茶色い革靴の片方を脱いだ。黒い靴下も脱いだ。右足を組み、先端をわざとらしく上げた。見下しの顔を向ける。
「私の足を舐めなさい。それで私への無礼は不問にしてあげましょう」
「はい、承知いたしました……」
モブ騎士は従順に王女の前で膝を折り、顔を出して近づける。
「あ痛っ!」
軽く顎を蹴られた。
「冗談ですよ」
ライアールは右足を軽く振り、理解したモブ騎士は靴下と靴をはかせた。その終了後、モブ騎士は三歩ほど下がってメイドらしい姿勢を保った。
「しかしこれは、きちんとした耳のようですね。聴力が違います」
猫耳を右手で触りながらライアールが言う。
「そうなのですよ。これを緊急時に使えば、敵を猫さん状態に出来る上に、逃げる際には聴力上昇で一石二鳥です」
モブ騎士も猫耳を両手で触れた。
「これの効力が切れるのは、どのくらいですか?」
「ええそれは……一週間ほど過ぎれば、元に戻るかと思います」
モブ騎士の説明を受けた時、ライアールの余裕が消えた。
「困りましたね……日曜の式典までこのままでは……。何か解除する方法はありませんか?」
「すみません、ないです……」
「強引に切り落とすしかないのでしょうか……」
「私のほうを見ないで下さいっ!」
猫耳が生えたまま式典に出席すること。禁じられているわけではないが、王族の沽券に関わる。
「……どうしましょうか、ライアール様」
「ふふっ」
小さくライアールは笑う。
「良い考えが思い浮かびました」
取り繕うための案に、ライアールはたどり着いたのだった。
■
建国百二十周年の式典当日には、いくつもの猫耳が注目を浴びた。
「これは、私が創設した『猫耳近衛騎士団』に合わせたものです」
金髪を短い三つ編みにした王女ライアールが、広場の記者達に語った。
木を隠すのは森の中、のように、ライアールは猫耳を利用することにした。
ライアールの近衛騎士は、元々モブ騎士しかいなかった。そのモブ騎士が騎士団長になるのを密かに夢見ていたので、ライアールは名目上の騎士団をでっち上げることにしたのである。
ライアールの後ろに控えるのは、その猫耳近衛騎士団だ。騎士姿の者が、全部で四人いる。全員に猫耳があり、黒くて薄い布で覆っていて顔は判別しづらい。
その中の一人は、あなたも分かるようにモブ騎士で、残りは彼女を慕うようになった令嬢達だった。彼女達の素性が知られぬよう、顔にヴェールをまとっているわけで、加えて髪型も変えている。
なお、モブ騎士とライアールの猫耳は実際に生えているものだが、令嬢達のそれは単なる髪飾りであった。
「お姉様とご一緒出来て、光栄に思いますわ」
橙色の髪をモブ騎士のように二本の三つ編みにした公爵令嬢が、小声で言う。青髪の伯爵令嬢、茶髪の子爵令嬢もモブ騎士に好意的だった。ちなみに、茶髪の子爵令嬢も二本の三つ編み、青い伯爵令嬢は長い一本の三つ編みにしていた。
騎士団の頭数を揃えるため、ライアールは令嬢達に協力を頼んだ。ライアールとしては借りを作ったつもりだったが、令嬢達には逆に感謝された。彼女達はモブ騎士をだいぶ気に入っているらしい。
もし彼女達の誰かにモブ騎士を譲れば、その家とは盤石な関係を築けるだろう。だが、ライアールはモブ騎士を手放したくない。
記者達には、モブ騎士ではなく公爵令嬢が受け答えを熟していた。堂々とした彼女のほうが、地味なモブ騎士よりも騎士団長が似合っているのかもしれない。
そんな公爵令嬢の活躍もあり、ライアールとモブ騎士は危機を脱した。
しかし、気体の効力が切れて猫耳が無事に消えてからも、猫耳の飾りが行事等で必要になった。
「猫耳を着けるのは、多少は気になりますけど、職を失わずに済んでいるのですから、しょうがないです」
「今日は、私は黒いほうを着けるので、モブ騎士は金色のほうをどうぞ」
「はい、分かりました。ライアール様」
実は、猫耳のあるモブ騎士も、ライアールは気に入っている。
(終わり)
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
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