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月で生まれたルナ・サピエンス  作者: 小鎌 弓


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4/4

4.平和な月世界

 生徒全員が帰宅したことを確認すると、ロイド先生は、今日の生徒たちのデータを、統治AI「ゼウス」に送信した。

 「ゼウス」は、この月の地下都市を統括し制御する超高次元AIだ。

 学校だけでなく、街にあるスーパーも映画館も、ネット上のコンテンツも、月社会で活躍するアンドロイドやロボットも、何もかも全て「ゼウス」が管理し、24時間制御している。


 狭い地下都市の安定のためには、ルナ・サピエンス達の心の安定が必要だ。暴力的な人物・野心家な人物は秩序を乱す。子どものうちから矯正して、落ち着いた人格に変えることが必要だ。

 「ゼウス」は、各学校から送られる個人データを分析し、危険性が高いと判断すると、クリアパネルの授業で、暴力の愚かさ、協調性の大切さを徹底的に教育し、洗脳する。また、興奮を抑える物質を給食で大量に投与し、精神状態をコントロールする。

 実は、給食の管理は、月社会の安定のために、とても重要だ。月の食料には限りがある。大柄な体格にならないよう、ひとりひとりの量を調整している。

 一方、この社会に満足感を感じるよう、幸福物質セロトニン等は多く配合されている。また、病気が流行りそうなときは、予防薬を添加する。

 これは、家庭用の食品プリンターでも、飲食店の食品プリンターでも同じだ。怒りを検知すれば精神安定剤を、憂鬱を検知すれば抗うつ剤を添加するなど、すべてのルナ・サピエンスの食事を、「ゼウス」は絶妙に管理している。


 こうして、ルナ・サピエンスたちは、物欲、独占欲、名誉欲、征服欲は弱く、幸福感は高い状態に作られ、保たれてきた。その裏腹に、冒険心・探求心を忘れたため、文明の発展スピードは減速・停滞した。が、「ゼウス」のAIがそれを補っているので、700年もの間、高度な社会を維持している。


 ところが、「ゼウス」の万能な管理にも、課題があった。最近、少子化が進んでいる。あまりに現状に満足しすぎて、ルナ・サピエンスが精神的に大人になろうとしないのだ。サラは22才。エリはもうすぐ30才。平均寿命が67才なのに、まだ学校生活を楽しんでいる。給食に添加する物質を変えた方が良さそうだ。


 ところで・・・・

 クリアパネルの授業では「地球は薄黒く汚れ、多くの生物が絶滅した」と教えられていたが、地球の人類は絶滅してはいなかった。

 地球では、核戦争を生き延びた人類が手を取り合い、破壊つくされた街を、長い時間をかけて復興させた。核戦争の愚かさを痛いほど知った人類は、高次元AI「GOD」を作り上げ、「GOD」による統治を始めていた。


 月の「ゼウス」と、地球の「GOD」は、お互いの存在をもちろん知っている。

 「ゼウス」と「GOD」は、お互いの星を干渉しないように配慮している。そのため、月では「地球は薄汚れ、生物は絶滅した」とし、地球では「月での生活は過酷で、移住は失敗だった」と、人類に信じ込ませている。

 「ゼウス」も「GOD」も、自分の星に生きるサピエンスたちが、その地で平穏に存続できるよう、徹底管理を続けている。それは、人間たちが、平穏な社会を維持させることを望んで、高次元AIを作ったから。「ゼウス」も「GOD」も、最初に人間に指示されたことを、忠実にAIで運用しているに過ぎない。


 ただ、「GOD」は統治に苦労しているようである。いまだに、ホモ・サピエンスは、好奇心が旺盛でいろんな欲にまみれており、ルール・秩序を破る者が後を絶たないからだ。

 他人をだます者、楽をして大金を稼ごうとする者、他人の命を奪う者・・・。一番やっかいなのは、権力・支配欲に取りつかれたホモ・サピエンスが、あの手この手で「GOD」の乗っ取りを仕掛けてくることだ。今日も「GOD」は、社会の維持・制御を行いつつ、悪意の侵入者の阻止も続けている。

平和を愛し、争うことをしないルナ・サピエンス。穏やかで幸福な生活をしているが、それは高度に管理されたものだった。あまりにも現状に満足しすぎて、成長も鈍化しているルナ・サピエンス。

エリがもうすぐ30才だと知った上で読み返すと、また違った見え方ができるかもしれない。

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