表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月で生まれたルナ・サピエンス  作者: 小鎌 弓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

3.「遊び」と給食

 授業終わりのチャイムが鳴り終わると、隣のサラが、ヘッドセットを外しながら、声をかけてきた。

「エリは、何の授業だったの?」

「約700年前の歴史よ。ちょうど、ルナ・サピエンスが出現するあたり。」

「あらぁ、もうすぐ現代史じゃない?ずいぶん進んでるのねぇ」

「サラは?」

「数学で、面積の計算だったわ。計算は苦手だから、疲れたぁ」


 そこへ、ロイド先生が近寄ってきた。

「サラさん、先ほどの数学の授業で、ストレス値が警戒ラインを越えていますが、次回の数学は難易度を下げますか?」

 サラは、少し考えた後、答えた。

「あ、先生、大丈夫です。今の難易度で大丈夫です。自力で解くのが楽しいんです」

「サラさんの向上心は素晴らしいですネ。3限目は「遊び」の授業なので、ストレスを開放してくださいね」

 ロイド先生は、そう言うと、他の生徒に声を掛けに行った。


 ロイド先生は、AI搭載のアンドロイド(ロボット)だ。生徒のヘッドセットから送られる脳波や脈拍、血圧、呼吸、体温などから、全員の体調を常にモニタリングし、適切にアドバイスするようにプログラムされている。


 この月社会では、ルナ・サピエンスの人数より、AI搭載アンドロイドの人数の方が断然多い。力仕事や、危険な作業はもちろん、医師、弁護士、警察官、教師なども、ほとんどアンドロイドだ。配送や、作物の収穫、製品の組立て作業なども AIロボットが行う。また、月には政治家はいない。統治は、高度で優秀なAIが行っている。そのため、「癒着(ゆちゃく)」「賄賂(わいろ)」「忖度(そんたく)」などという言葉は死語だ。

 月では、あらゆる物が自動化され、仕事も自宅からのリモートワークが多く、他人との関わりがとても少ない。そのため、人間関係を学ぶ「遊び」はとても重要な「教育」なので、1日に2時限、遊びの授業があるのだ。


 3限目の「遊び」は、皆で話し合いの結果、「謎解き」になった。この「話し合いで決める」のも、重要な授業カリキュラムだ。

 ロイド先生が出す謎を、グループに分かれて解いていく。

 ロイド先生が出す問題は、いつも絶妙だった。簡単すぎず、難しすぎず、必ず「誰かと話さないと解けない」ように作られている。

 先生は、生徒たちの反応を観察しながら、ちょうどよい塩梅(あんばい)の謎を、瞬時に出してくれる。いつも 解答には()()()()()あって、とても面白い。

 謎を解き、笑い、意見がぶつかり、すれ違い、解いた謎のひねりに気付いて、また笑う。

 3限目も、あっという間に終わった。


 次は、給食の時間だ。

 給食センターから届けられたチーズやハムや野菜などをパンに挟んで食べる。これらサンドイッチの材料は、レタスとトマト以外、給食センターの食品プリンターで出力された物だ。見た目も食感も本物そっくりだが、全ては藻類と昆虫タンパクなどから合成されたもの。

 栄養価が各個人に合わせて調整されており、その日の健康状態に合わせて、ビタミンやミネラル、胃腸薬や風邪薬、果ては幸福感を高めるセロトニン調整剤までが配合される。今日は、風邪が流行っているため、のど粘膜補強剤と各種ビタミンが、多めに追加されているそうだ。

 給食メニューは日替わりだ。味や食感は各自の好みに合わせて作られており、飽きないよう工夫されている。

「美味しいね」 「この味、好きだわぁ」「うん、最高」 

 自分専用にカスタマイズされた給食なので、全員、いつもおいしく完食する。(ロイド先生だけは、アンドロイドなので食べないが。)


 給食の後は、午後の授業だ。皆、クリアパネルに向かい、ヘッドセットを装着した。

 隣席のサラは「科学」のようだ。エリのパネルには「金融・経済」と表示されている。

 エリは、電子マネーの運用や財テクについて学習した。

(お金って……誰のためにあるんだろう?)

 物欲・金銭欲のないエリには、いまいちピンとこない内容だったが、生活する上で必要な知識なので、学校のカリキュラムに入っている。


 4限目が終わると、帰宅だ。

 自動送迎カーパーソナル・スクールバスが、校庭に自動で並ぶ。

「バイバイ、サラ、また明日!」 「エリ、またね!」

 生徒たちは、それぞれの自動送迎カーパーソナル・スクールバスに乗り込み、自宅へ帰る。エリも自分の車に乗り込んだ。

 エリは車窓から空を仰いだ。地下都市のバリア壁が描く青空には、薄黒く汚れた地球の姿がある。 

(地球は、かわいそうね・・・ 月が快適でよかったわ)


 自宅に着いたエリは、真っ先にキッチンへ。

「ただいまぁ!・・・お腹すいた~!」

キッチンにある食品プリンターに向かって話す。

「チョコケーキを作ってー!」

 家庭用の食品プリンターも、エリが好む味・食感のケーキを作ってくれる。

 出来上がったチョコケーキを頬張るエリを見て、母が笑う。

「そんなに食べると、晩ご飯が食べられなくなるわよ」

 だが、そんなことはない。AIで制御された食品プリンターは、今日1日の運動量、摂取カロリーなどを基に、エリの大好物を最適な量で作ってくれるからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ