おい、妊娠させてから婚約破棄イベント起こすな! ― 被害者の会
おい、妊娠させてから婚約破棄イベントを起こすな!
「今日……何事もなく終わりますかね」
「それは、まずないですね」
「……殿下が?」
「ええ」
「……アデリア様も?」
「ええ」
二人は、同時にため息をついた。
◇◇◇
「今日もアデリア様の様子がおかしかったわ……。もしかして、殿下と何か……?」
独り言を言うくせが直らない、私はミリアム。
絶賛悩み中だ。
あまりにも集中していたために、前方から人が来ていることに気づかなかった。
「おっと」
「あ……!すみません」
それは見知った顔だった。いや、3日に1度は顔を合わせる――マイルズ殿下の側近だ。
名前は……。忘れた。
「あなたは、アデリア様のご友人の。ミリアム嬢、ですね。……どうしました?」
「いえ……。少し、悩み事が。えーと、あなたも顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」
彼は、数秒の間黙り込み、顔をあげた。
「……あの、つかぬ事を伺いますが……。アデリア様の最近のご様子は……?」
「え?」
「その……、何か、普段と違うなど、些細な事でいいんですが……」
要点がわからない。答えあぐねていると――、
「あの……。『マリー』という女性について知っていますか?」
さらに意味不明な事を聞かれた。
「マリーなんて名前、沢山おりますが?……何かありました?」
「いえ。詳しくは……。ただ、ある方が最近よく口にするようになりまして……」
ある方ね。
もう答えを言っているようなものだわ。
「アデリア様は、昨日のお茶会でずっと沈んだ様子でした。それが、殿下のお名前が出た途端、席を立たれて――」
それを聞いた瞬間に崩れ落ちる彼。
「あぁ……やっぱり……!僕は終わりだ。バカ王子に道連れにされる……」
「やはり、殿下に女が?」
「ええ。確実に。さらに悪い事に、密かに……ベビー用品を集めています」
私たちは二人で同時に天を仰いだ。
「ちなみに、あなたの名前、何でしたっけ?」
「今さらですね……ケインです……」
◇◇◇
「アデリア!」
とあるパーティー会場だった。
それまで賑やかに話をしていた場が一瞬で静まり返った。
――マイルズ殿下だ。
アデリア様は扇子で口元を隠して振り返った。
誰かが息を呑む音がした。
やばい。
絶対にやらかす。
私は思わず目を閉じた。
「僕は……。このまま、君と結婚出来ない」
「……なぜでしょう」
「それは……。マリーが……いや」
会場がざわめき立つ。
しかし、空気だけは冷えた気がした。
あ〜!浮気相手の名前まで出すなんて!しかもここで!?
「このままだと、君に対して誠実になれないんだ」
最初から誠実じゃないでしょうが。
隣をチラリと伺うと、ケイン様が両手で顔を覆っていた。
俯き加減も完璧だ。
「それで、殿下はどうなさりたいのです?……逃げたい、とでも?」
「ああ……。正直、逃げたい。僕にはマリーに対して、責任が……」
「さっきから、随分と歯切れが悪いですわね。それに――マリー?その名前をこんな場で出すのは不快ですわ」
アデリア様は顔を背けた。彼女の髪が流れる。
「でも……!」
「いい加減になさいませ!あなたはこれから父親になりますのよ。それに――勝手に名前まで決めないで下さい」
「え?」
それは誰の声だったのか。
でも、全員の疑問が一致した瞬間だった。
「殿下。一つよろしいでしょうか。マリーとは……?」
ケイン様が手を上げて恐る恐る聞いた。
「アデリアのお腹の子だ。きっと女の子だと思う」
「だから、二人で決めると約束したはずでしょう!」
私も、アデリア様に小声で聞いた。
「あの……。この前、殿下の話題が出た時に席を立ったのは?」
「ああ、あの時。最近、つわりが酷くて」
――ガックリ。
効果音が聞こえた気がした。
そして、ここで叫びたい。
ただの痴話喧嘩!
「逃げてごめん……。でも、僕も君とお腹の子のために……。――頑張れるかな……?」
(いや、そこは断言するシーンだろ)
「はい〜!?今、雑音が聞こえましたわ!もう一度言ってくださる!?」
「はい!君とお腹の子供の為に、人生をかけます!」
王子の宣言に、会場から戸惑いながらも拍手が上がる。
私も疲れたから、流れに乗った。
私は、拍手をしながら、同じ苦労を分かち合った人を見上げる。目が合った。
私たちは苦笑いで拳を合わせた。
――妊娠してから、婚約破棄イベント(?)を起こすな!
二人とも、はた迷惑すぎるわ!
拍手で終わる婚約破棄イベント(?)でした。
お読みいただきありがとうございました。




