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偽りの微笑(モナリザ盗難事件を巡るミステリー)  作者: マーク・ランシット


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共犯者 2


 1914年1月16日 パリ警視庁


 ヴィンチェント・ランチェロッティー逮捕の翌日。

 ミシェル・デュポアは警視総監のルイ・シモンに呼ばれた。


 昨夜は、上司への報告書を作成する為に、ランチェロッティーへの簡単な取り調べを行った。

 パリ警視庁に着いたばかりの頃はまだワインが残っていたせいか大声で喚き散らしていたが、やがて酒が抜けて冷静になると、無口になった。下を向いて、質問には首を振りながら、知らないという言葉を繰り返した。身体が不安に震えていた。2,3日も絞り上げれば自供するとデュボアは確信した。


 警視総監室のドアをノックして中に入った。

 白髭の小男が、それと不釣り合いな大きな椅子に座っている。そして、その横には警視副総監のニクロスが薄笑いを浮かべて立っていた。一年半前の映像が、不安な気持ちと共に蘇った。


「新容疑者の逮捕及び取り調べ、ご苦労だった」

 シモンは儀礼的にそう言った。そして、いつもする様に、顎髭を気持ち良さそうに触った。

 その感触をジックリと楽しんだ後、続ける。

「ドリュー判事の許可が下り次第、ランチェロッティー容疑者をラ・サンテ刑務所に収監する」

 ディボアは、納得した様に頷いた。


「ラ・サンテ刑務所での取り調べは、君に任せる。・・・ただし、ここでの容疑者の対応はニクロス副総監の扱いとする・・」

 小男はデュボアを睨み付ける様に言った。反論は認めないと言う事だ。

 

 なぜだ・・。デュボアは、眉をしかめた。


「デュボア君、安心したまえ。君の手柄を横取りするつもりなど無いからな・・」

 ニクロスは、ベストのボタンが千切れそうに膨らんだお腹を揺らしながら笑った。



 この日、フィレンツェ警察のバレッラ警部から新たな情報がもたらされた。

 

 日曜日、ペルージャとランチェロッティーの二人は、閉館前にルーブルに入館し、翌日の休館日に犯行に及んだ。無事にルーブルから出ると、二人はランチェロッティーの恋人である、フランソワーズ・セグノのアパートに向かった。そして、そこにモナリザを隠すと、ペルージャはアリバイ作りの為に職場に向かったのであった。警察からの取り調べが終わった後、ペルージャは、モナリザを自分のアパートに持ち帰った。


 フランソワーズ・セグノ・・。

 昨夜、ランチェロッティーと食事をしていた女か・・。


 アリバイ作りだと・・。

 ルーブルで3ヶ月間の勤務経験があるから、警察に目を付けられる事を事前に自覚していたというのか・・。


 友達の恋人のアパートにモナリザを隠していた・・。そして、我々の取り調べの後に、自分の部屋に持ち帰っていた。


 これほど緻密な計算が出来る男だったというのか・・。

 それは、正にプロの仕業だった。


 フランス人の同僚たちに一泡吹かせたい・・。

 またあの言葉が蘇って来た。

 ランチェロッティーも同じイタリア人の労働者として、ペルージャと同じような感情を抱いていたとしても不思議は無い。


 しかし、だからといって、そんなちっぽけな感情の為に、世界中を震撼させるという無謀な計画に乗ることが出来るのだろうか? ましてやフランソワーズ・セグノはフランス人ではないか・・。


 彼らを突き動かした原動力は、間違いなく金だ!

 それも、相当な額の金。

 それ以外の理由は考えられない。


 ミシェル・デュポアの頭の中を、いつもの疑問が回り始めた。


 なぜ首謀者は、折角盗んだモナリザを放棄したのだろうか?

 それとも、戻って来たモナリザは精巧に創られた贋作なのだろうか?

 ペルージャたちに多額の投資をしたのなら、プロである以上、それ以上の金を稼ぎ出さなければならない筈だ・・。


 彼の頭の中で、謎は深まるばかりだった。

 



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