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偽りの微笑(モナリザ盗難事件を巡るミステリー)  作者: マーク・ランシット
第一章

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狂人の誕生1

第二部


 1911年11月10日 ミズーリ州 セントルイス

 (モナリザ盗難事件の3か月後)


 ミシシッピ川のほとりに立つジェファーソン・バーラック国立墓地。もともと南北戦争の戦死者を弔う為に設立された国営の墓地であり、埋没者の多くが軍関係者であった。

 しかし、この墓地はそれ以外の一般人、特に地域の有力者たちにも開放されていた。


 この日、このミズーリ州で大規模な牧畜業(G・Eカンパニー)を営んでいたジョージ・エドワースの埋葬式が行われていた。墓地の周辺には黒塗りの高級車が幾重にも重なって駐車され、式に参列する人々が巨大な墓の周りを取り囲んでいた。彼の墓は、軍関係者の整然と並ぶ白い墓石群からは少し離れた場所に立てられていた。


 参列者のほとんどはG・Eカンパニーの関連者たちであったが、 その中には一部、ライバル企業の幹部たちも散見された。当初、彼らの表情には薄笑いが浮かんでいた。喪主である息子のジミー・エドワーズの神妙な面持ちとは裏腹に、彼と彼の家族たちに対してある種の嘲りの笑みがあからさまに噴出していた。ライバル企業の幹部たちは、既にG・Eカンパニーの取締役たちを取り込み、乗っ取りを企んでいた。


 一人息子のジミー・エドワーズは33歳。

 10年前にハーバード大学を卒業し、しばらくは弁護士として働き、そして漸く5年前にG・Eカンパニーに入社したばかりだった。彼の生真面目で内向的な性格は、現場出身の荒くれ者が多い役員たちからは、軽視され疎んじられていた。創業者である彼の父は豪放磊落で、彼の下では役員たちはまとまっていた。しかし、その創業者の突然の入院で、彼らの不安が爆発した。この牧畜関係の業界は競争が激しく、担当省庁への根回しや、運送業者を含めた協力企業との強い協力関係が命綱であった。


「あんなお坊ちゃまが社長になれば、この会社はあっという間に倒産しちまうぞ」

「そうなれば、俺たちの持ってる株もタダの紙切れになっちまう・・」

「C&Bの専務から誘いの連絡があった・・」


 創業者であるジョージ・エドワーズは、3週間の入院後、あっという間に息を引き取った。彼の遺言で息子のジミーが後継者に指名された。会社そのものの経営は順調だったが、5人の役員たちが敵に寝返っていた。

 この葬儀の後、ライバル企業のC&Bと、5人の裏切りものたちがメインバンクのスタンダード・トラスト銀行への融資差し止めの協議を計画していたのである。そのスタンダード・トラスト銀行の役員も葬儀に参列していた。

 

 葬儀は滞りなく進み、喪主であるジミー・エドワーズの挨拶を残すのみとなった。その胸が伝えられた時、黒塗りの高級車から一人の青年が降り立った。彼は人々の列を掻き分けて、ジミーの傍に歩み寄った。

「ジミー、遅くなって済まなかった」

 ジミーの顔に喜びが爆発した。

「とんでもない。わざわざニューヨークから来てくれたのか、ありがとう」

 二人は強く抱き合った。


 周辺の人々からどよめきが起こった。

「あれは、もしかしてメーソン商会のメーソンJrじゃないか?」

「うそだろ、世界一の銀行家の御曹司がなんでこんなところに・・」


 メーソンJrは、親族に挨拶した後、全員に向かって自己紹介を始めた。


「私は、ジミーの友人のジャック・メーソンです。彼とはハーバード大学のロースクルで共に勉学に励みました。正直、私の唯一と呼べる親友がジミーです・・」

 世界一の銀行と呼べるメーソン商会のトップの登場に、ライバル企業であるC&Bと、5人の裏切りものたちの表情が凍り付いた。


「その彼から突然の電報を貰い、ニューヨークから駆けつけて来ました。

 ・・・、私も法律を学び、その道に進むつもりでしたが、どうしても断れない事情で、父の事業を引き継ぐ羽目になってしまいました。あっという間に10年の月日が経ち、漸くビジネスという世界の本質、人間がいかに恐ろしい性を持っているかという事を身に染みて感じられる様になりました・・」

 ここで、彼はC&Bの幹部と5人の裏切り者の方に顔を向けた。


「そうです。ビジネスの世界は戦場です。油断をすれば首を掻き切られて殺される戦場です。味方でさえ裏切る可能性を十分に秘めています・・」

 メーソンJrの鬼の様な表情に、睨まれた連中はブルブルと震え始めた。


「本人を目の前にして言うのは気の毒ですが、ジミー・エドワーズはまだまだよちよち歩きのヒヨコです。しかし、どうかここに参列された皆様にはご安心頂きたい。私の会社が全面的に彼をサポートします。具体的にはG・Eカンパニーに私の信頼できるチームを送り込み、内部の不適切な人物たちを排除します・・」

 5人の裏切り者たちの顔から血の気が引いた。


「さらには、ライバル企業への徹底的な攻撃を開始します。これは、あのロックフェラーが得意とした兵糧攻めの戦略です。もし、お知り合いの方がいらっしゃれば、そうお伝え頂ければ幸いです・・。ご存じだと思いますが、ロックフェラーの残忍さは皆様の想像を遥かに超えていますからね・・」

 C&Bの幹部は歯をガタガタと鳴らして、震え始めた。このアメリカでメーソン商会に目を付けられて生き残れる可能性は0パーセントだと分かっていたからだ。


「最後に、亡き父上にお誓い申し上げます。会社とご家族の事は私とジミーに任せて、どうか安らかにお休みください・・・」



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