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偽りの微笑(モナリザ盗難事件を巡るミステリー)  作者: マーク・ランシット


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推理 4


 1914年2月20日 パリ郊外ナンテール


 トマス・ゲランの自宅


「ゲランさんの話を整理する前に、いくつか質問させて下さい」

 デュボアは、興奮気味の自分を落ち着かせる為に、わざとゆっくりと言った。

 彼は、テーブルの上の手帳を手元に引き寄せると、まっさらな次のページを捲った。

 ゲランも、今まで忘れていた過去の記憶を思い起こしたことで、眠っていた刑事としての感性を目覚めさせていた。


 どうぞ、と言うように静かに頷いた。


「その詐欺行為は、1回だけだったのでしょうか?」

「いえ、守衛の証言によると、きっかり15回です。彼はその都度たんまりの口止め料を貰っていたので、はっきりと覚えていました」

「確か、写生は一回だけだったとおっしゃいましたね?」

「そうです。ショドロンと言う贋作師は、一枚の原板から、最低15枚の贋作を再生した訳です」

「相当な金額ですね。守衛はその後、マルケスという詐欺師と連絡は取ったんでしょうか?」

「いえ、守衛はマルケスの連絡先を知りませんでした。まあ、当然でしょうけどね。15回目の詐欺行為を最後に、彼からの連絡はピッタリと止んだ様です」

「そろそろ同じ手口では危ないと考えたんでしょうね・・」


「これはあくまでもゲランさんの推測で結構なんですが、その贋作師はいまだにその原板は手元に所有していると思いますか?」

「当然、そう考える方が自然でしょうね。そうすれば、もう2度と写生と言う危険を冒す必要はありませんからね。特に骸骨に似た風貌では、目に付きやすいでしょうから・・」


 デュボアは、これまでの話を基に、手帳に仮説4を記入した。

 彼らが同一犯である可能性は少ないが、リアリティーを持たせる為にあえて彼らの名前を明記した。


 仮説4.首謀者:マルケス アルゼンチン人 紳士然とした風貌 英語堪能

     贋作師:ショドロンフランス人 痩せぎすの長身 骸骨の様な顔

     実行犯: ペルージャ、アンチェロッティ、フランソワーズ・セグノ。

     購入者: 複数


 犯行の時系列:

    1.マルケスによる購入予定者の選定、予備接触。

    2.ショドロンに依る贋作の作成。原板は1枚。ルーブルでの写生は必須。

    3.マルケスによる犯行計画立案。

      実行犯の選定。

    4.ショドロンに依る贋作完成(複数枚の可能性あり)。

    5.贋作(複数枚)の海外への発送。

    6.モナリザ強奪の実行。(一定期間保管する事で、取引の時間及び逃亡時間を確保)

    7.世界的な盗難のニュース。(購入予定者に、本物であるという証拠になる)

    8.マルケスから連絡がなく、実行犯ペルージャによる画商への接触。


 問題点: 1.実行犯の未熟さによる強奪の失敗。

      2.モナリザ表面の絵具のひび割れの再現方法(あくまでも購入者を騙せれば良い)。

      3.・・・・



 正直、仮説3での贋作師のイメージは、ルーブルの専門家たちをも騙し通せるほどの贋作を描ける天才だった。自分自身そんな事が可能なのかは半信半疑であった。しかし、教授と出会い、彼らたちの力量を知ると、そんなことが不可能なのは実感として認識出来た。それが、素人のコレクターたちを騙す程度の贋作でも良いとなれば、ハードルは極端に低くなる。

 

 デュボアは書きながら、この仮説ならばこれまでの疑問点をほぼほぼ解決してくれる様に感じた。

 勿論、実行犯が素人であることで、成功しない確率は高くなるし、絵具のひび割れの問題については、教授の贋作の結果を待たなくてはならない。


 さらに、あえて書かなかったが、上司である警視総監ルイ・シモンと警視副総監ニクロスの不穏な動きについては説明がつかなかった。彼らを美術館の守衛と一緒には出来ない。ただ、ゲラン氏のお陰で、明らかな前進が出来た事を嬉しく思った。


 手帳を見せると、ゲランはそれにジックリと目を通した。


「良く出来ていますね・・」

 ゲランは、手帳をテーブルに置くと、ソファーの背にもたれて、両手を広げた。

 アーッ、と声を上げると、首を左右に振った。


「何か、一仕事した気分ですね」

「同感です。ゲランさんのお話で、一挙に核心に迫れた感じがします」

 ゲランは、アーッと伸びをして、気持ち良さそうにまた声を上げると、すっと立ち上がって部屋から出て行った。


 デュボアはトイレかと思ったが、直ぐにドアが開いて、夫人と一緒に入って来た。

 ゲラン氏の手にはシャンパンが、そしてゲラン夫人のお盆の上にはグラスが乗せられていた。


「久しぶりに楽しい気分になりました。ちょっとだけ、乾杯しませんか?」

 

 これは単なる仮説にすぎない。そして、この仮説が仮に真実だったとしても、今の自分にマルケスとショドロンを捕らえる術はない。だとしても、胸の中に溜まっていたモヤモヤとした霧が、一瞬だけでも晴れた気がした。



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