表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りの微笑(モナリザ盗難事件を巡るミステリー)  作者: マーク・ランシット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/29

事件の終焉


 1914年2月5日 パリ警視庁

(ランチェロッティー容疑者が逮捕されてから約3週間後)


 その日、ランチェロッティーとフランソワーズ・セグノの二人は、証拠不十分として、起訴されることなく釈放された。ミシェル・デュポアは、部下のレオ・ブリュネ警部と共に、二人がラ・サンテ刑務所の正門から扉から出て行くのを歯がゆい思いで見送った。


 そしてその翌日、パリ警視庁の警視総監であるルイ・シモンは、モナリザ盗難事件の捜査本部の解散を正式に発表した。全職員に安堵の思いが広がった。一抹の悔しさはあったが、3年という長きにわたって背負い続けて来たモナリザという十字架から解放された喜びの方が大きかった。


 ミシェル・デュポアも通常の勤務体制に戻った。

 フィレンツェ警察のバレッラ警部とのやり取りは、時折ではあったが続けた。

 後の事になるが、その年の6月にペルージャの公判がフィレンツェの法廷で開かれた。

 モナリザもパリに戻され、この頃にはイタリア中を沸き立たせた熱狂もすっかり冷めきっていた。法廷を訪れた傍聴者の数はまばらで、数社の新聞記者だけだったとバレッラ警部から聞いた。


 その中で、ペルージャは相変わらず単独犯を主張した。

「1911年8月21日の月曜日、朝6時過ぎに、作業着姿でルーブルに忍び込みました。勝手知ったる場所です。色々な部屋を見て回りました。そして、最後にモナリザの展示されているサロン・カレにたどり着きました。その時、急にその絵を盗もうと思いたちました・・」


 何のことはない。突然思いたった無計画な犯行だと主張したのだ。

 

「家の事情で、私はほとんど教育らしい教育を受けられませんでした。でもあれこれと本を読んで、フランスの財宝のほとんどが、もとはと言えばイタリアのものだったという事を知りました・・」


 モナリザを盗もうと決めた理由を尋ねられたペルージャは・・。


「質、芸術的価値です。ラファエロ、ティツィアーノ、コレッジョ、どれでも盗めました。でも、モナリザこそ真の宝です。イタリアに返されるべき完璧な絵です」


 裁判長。モナリザが一番高く売れると思ったからではないですか?


「そんなことは絶対にありません」


 裁判長。被告人は家族に宛てて、とうとう一財産出来そうだと手紙を書いていますね。


「・・それは、ただ家族を喜ばせようとして書いただけです・・。裁判長、誓って言います。モナリザをイタリアに持ち帰ったのは、決して金のためではありません」


 裁判長。被告人は画商であるジェリ氏に、50万リラを要求していますね。


「嘘だ。取引をしようと言い出したのは、ジェリの方だ。彼ははっきり言ったんです。あなたの悪い様にはしないからと・・」


 バレッラ警部からの話に、デュボアはただただ呆れるしか無かった。

 盗まれたのがモナリザでなければ、その辺の空き巣狙いの裁判ではないか・・。

 バレッラ警部の取り調べで引き出された、当初の犯行情報の方が余程信憑性が高かった。


 結局、7月に行われた控訴審で、法廷はペルージャに7ヵ月の有罪判決を言い渡した。

 既に7ヵ月以上勾留されていたペルージャは、何の見返りも受けぬまま、そのまま無一文で釈放された。世界一の名画モナリザの盗難事件。世界中を驚愕させたこの大事件は、なんともはや、こんな風に、茶番劇の様な終焉を迎えたのである。


 パリで捕まっていれば、恐らくそんなものでは済まなかったであろう。

 イタリア側にすれば、隣国とはいえ他国で発生した事件。盗品は無傷であり、同国の被告人に重罪を与えたところで得るものは何もない。フランス側にしても、モナリザの引き渡しに対して迅速な対応を取って貰った以上、余計な波風を立てては失礼に当たる。その意味では、順当な結末だったのかもしれない。


 ミシェル・デュポアの中には、既に怒りも悔しさも消え去っていた。

 ただ、消えることなく残されたものが二つ。

 一つ目は、ペルージャが首謀者ではないという確信。

 二つ目は、上司である警視総監ルイ・シモンと警視副総監ニクロスへの疑惑。

 彼はひとえに、この事件の中に隠されている真実が知りたかった。

 誰が、何の為に・・。その人物はいったい何を手にしたのだろうか?

 そして、その中で上司二人の担っていた役割とは・・。


 通常業務に戻ったとはいえ、多忙な日々が続いていた。

 限られた時間ではあったが、ミシェル・デュポアは少しずつでもその真実にたどり着きたいを思った。


 先ずは、彼の耳にこびり付いているキーワード。

 贋作・・。


 彼は、エコール・デ・ボザール(国立高等美術学校)のポール・マルタン教授に会おうと思った。

 



 


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ