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アオハルOSKラブコメ(梅花藻の咲く川)  作者: 湯豆腐タロウ
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雪の残る高野山


三月に入ってすぐのある日、電話越しの舞の声が少し違って聞こえた。なんだか「哲学者モード」に入っているような響きだった。


学校の卒業制作も終わって、少し時間ができたらしい。


僕たちが付き合い始めてから、半年以上が経っていた。最初の頃の「ドキドキMAX」状態は薄れて、でもその分、お互いのことがよく分かるようになっていた。舞は明るくて人懐っこいけれど、時々「一人の時間が欲しい病」にかかることがある。


三月の大阪は、まだ「コート手放せない」状態だった。桜の開花予想が話題になり始めているが、朝晩は「ガタガタ震える」レベル。僕の歯科技工士の専門学校も、そろそろ卒業を控えて就職活動が「戦争状態」になっていた。


「今度、高野山に行こうと思ってるねん」

「誰と?」

「ううん、一人で」


その瞬間、僕の脳内に「危険信号」が点滅した。舞がひとりで旅に出るなんて、それまで「想定外」だった。


「一人って……なんで?俺、何か悪いことした?」

「そうやないよ。なんとなく。行ってみたいって前から思ってて」


電話の向こうで、舞の声が少し「遠い星」みたいに聞こえた。


「卒業制作、大変やったもんなあ」


「うん、めっちゃしんどかった。もう『ケーキ見るのも嫌』ってレベルやった。でも、やっと終わったから、ちょっと静かなとこに行きたくなってん」


舞の専門学校では、最終学年になると「地獄の卒業制作」がある。彼女は何種類ものケーキを作り上げて、プレゼンテーションまでしなければならなかった。


「合格したん?」


「うん、なんとか。先生にも『将来有望』って言ってもらえた」


それなら「バンザイ」のはずなのに、舞の声にはあまり喜びが感じられなかった。むしろ、どこか「燃え尽き症候群」みたいな響きがあった。


「でも、なんか燃え尽きたっていうか…もう少し静かなところで、ゆっくり『人生について考えたい』ねん」


「考えたいって、何を?」


「これからのこととか…自分のこととか」


電話を切ったあと、どうしても落ち着かなくて、結局僕は「やっぱ、俺も行く!」と舞に「緊急電話」した。


「え、でも一人で行きたかってん」


「なんで? 俺がおったら『お邪魔虫』?」


「そうやないけど…」


「一緒に行こうよ。高野山なんて、俺も『未知の世界』やし」


少し「ゴリ押し」する形で、僕は同行することになった。今思えば、あの時の舞の気持ちをもっと「察してちゃん」してあげるべきだったのかもしれない。


旅の日、朝の南海なんば駅はまだ少し肌寒く、通勤客の波に紛れるようにして、僕たちは南海高野線で極楽橋行きの電車に乗った。


朝の8時発の準急電車は、思ったより乗客が多かった。「高野山詣で」の年配の夫婦、外国人観光客、僕たちと同じような若いカップル。車内は静かで、みんなそれぞれの目的を持って山に向かっているような「修学旅行」的雰囲気だった。


車窓から眺める景色は、街から山へと次第に色を変えていった。大阪の住宅街から田園風景へ、そして山間部へ。橋本を過ぎたあたりから、山道に差しかかると、雪がぽつぽつと残っていて、僕は「童心に帰って」興奮した。


「うわ、まだ雪残ってる!『雪だるま』作れそう!」


「高知って、あんまり雪降らんの?」


「ほとんど見たことない。年に一回、『うっすら化粧』するかどうかやな」


舞は笑いながら、

「うちは、実家の前が『雪国物語』になるくらい降ったことあるで。二階の窓から外に『雪の滑り台』で出れるくらい積もったこともあった」

と、誇らしげに言った。


「それは『すごいレベル』やな。醒井の冬って、そんなに『極寒地獄』なんや」


終点の極楽橋駅で降りて、ケーブルカーに乗り換える。樹木の間の傾斜を、ゆっくりと登っていくケーブルカーの中で、僕らは並んで座った。


ケーブルカーは年季の入った車両で、木製のシートが「昭和レトロ」な温かみを感じさせた。


「このケーブルカー、ちょっと『遊園地のアトラクション』っぽくない?」


「なんか、な。雪もあるし、『スキー場』みたい」


舞は窓に手をつけて外を「じーっ」と見つめていた。僕は、その横顔を見ていた。なんだか「お嬢様モード」に見えた。


ふと、彼女がこちらを向いた瞬間、僕は「えいやっ」と思わずキスをした。ほんの一瞬の、軽く触れるだけの「ちゅっ」だった。


だけどその時、世界が「一時停止」したように感じた。


「……びっくりした」


「ごめん、なんか『魔が差した』」


「……でも、うれしかったよ」


舞は照れたように、でもちゃんと目を見てそう言った。でも、その後の舞の表情には、どこか「複雑な乙女心」があった。


高野山の街に着くと、あたりには観光客が「ちらほら」。雪は端に残る程度で、道は乾いていた。空気が澄んでいて、吐く息が「ハーッ」と白く見えた。


駅から出ると、そこは「別次元」だった。標高800メートルの山上に広がる宗教都市。1200年の歴史を持つ真言密教の聖地が、静かに僕たちを「ようこそ」状態で迎えてくれた。


まずは金剛峯寺を見学した。豊臣秀吉ゆかりの寺院で、立派な建物と美しい庭園があった。舞は石庭を「じーっ」と見つめていた。


「こういう庭、見てるだけで心が『リセット』されるなあ」


「うん、なんか時間が『スローモーション』で流れてる感じがする」


石庭の前で、舞は長い間「哲学者ポーズ」で立ち止まっていた。


「舞、大丈夫? 『悟り』でも開いた?」


「うん、大丈夫。なんか、色々考えてしまって」


「何を? 『人生の意味』とか?」


「うーん、うまく言えんけど…これからのこととか」


その後、僕らは奥之院へ向かって歩き始めた。


一の橋から奥之院まで、約2キロの「修行の道」が続いている。両側には樹齢数百年の杉の大木が立ち並び、その間に数十万基の墓石や供養塔が並んでいる。


静かな杉並木。凍った空気。鳥の鳴き声すら聞こえない。まるで「RPGゲーム」の神聖な森みたいだった。


歩いているうちに、だんだん「厳かモード」になってきた。ここには戦国武将から江戸時代の大名、企業の創設者まで、数多くの「歴史上の有名人」が眠っている。武田信玄、上杉謙信、明智光秀…「歴史クイズ」で見た名前の墓標を見つけるたびに、「タイムスリップ」した気分になった。


舞はあまりしゃべらなかった。でも、その沈黙は気まずさじゃなく、空気に溶け込むような「禅モード」だった。


「なんか、すごい場所やな。『パワースポット』って感じ」


「うん、ほんまに。『気』が違う」


参道を歩いていると、時間の概念が「フワフワ」になってくる。


「ここに来ると、なんか自分が『米粒』みたいに感じるなあ」


「でも、それが悪いことやないと思う。『謙虚モード』になれるもん」


奥之院の御廟に着くと、そこには「神々しい」雰囲気が漂っていた。弘法大師空海が今も生き続けているとされる場所。多くの参拝者が静かに「パンパン」と手を合わせていた。


僕たちも手を合わせた。何をお願いしたらいいのか分からなかったが、とにかく「ありがとうございます」の気持ちを込めて祈った。


舞は、いつもより「本気モード」で長い時間祈っていた。目を閉じて、何かを真剣に願っているようだった。


帰り道、僕たちは途中の茶屋で「一服」した。ぜんざいと温かいお茶で体を「ホカホカ」にした。


「美味しいなあ。『心も温まる』味」


「うん、あんこが『上品セレブ』な甘さやね」


「舞の作るお菓子の方が『プロ級』やけどな」


「そんなことないって」


でも、舞は嬉しそうに笑った。


「こんなとこで暮らしてみたいなあ」


舞がぽつりと言った。


「え? 『山籠り』するん?」


「なんとなく。静かで『癒やし系』やん」


「でも、仕事とかどうするん? 『お坊さん』になるん?」


「そうやね…『現実逃避』やないわな」


舞は苦笑いした。


夕方近くになって、僕たちは帰路についた。


帰りのケーブルカーの中で、僕らは並んで座った。舞は少し「お疲れモード」にしていた。僕は外を見ていたけれど、ふと横を向くと、舞が僕の肩にそっと「コテン」ともたれていた。


その重みがとても「愛おしい」感じられた。一日歩き回って「ヘトヘト」なのだろう。舞の寝顔は無防備で、でもとても「天使」だった。


このままずっと、時間が「一時停止」すればいいと思った。でも、それは「無理ゲー」だとわかっていた。


舞は春になったら就職する。大津市内のスイーツ専門店で「パティシエデビュー」することが決まっていた。僕も歯科技工士としての道を歩み始める。お互いに「社会人モード」になって、こうやってゆっくり過ごす時間も「レア」になるだろう。


電車が麓に近づくにつれて、現実の世界に「強制送還」されていく感覚があった。山の上の静寂から、街の「ガヤガヤ」へ。


なんば駅で別れるとき、舞が言った。


「今日は、ありがとう。一人で行こうと思ってたけど、優くんと一緒で『幸せMAX』やった」


「俺も楽しかった。また、どこか『冒険』しような」


「うん、行こう」


でも、その声のどこかに、「何かが終わってしまう」ような寂しさが混じっているような気がした。


「舞、何か『深刻な悩み』あるん?」


「うーん、特にないけど…ただ、色々『人生設計』を考えることがあって」


「話してくれたら、少しは『スッキリ』するかもしれへんで」


「ありがとう。でも、まだ自分でも『混乱中』やから」


舞は微笑んだが、その笑顔は少し「切ない映画」みたいだった。


高野山で過ごしたあの一日は、まるで「夢の中の特別編」みたいだった。でも、間違いなく僕の心に「永久保存版」として残った。


そして、それが僕たちにとって最後の「ラブラブ小旅行」になるとは、その時はまだ「予想だにしなかった」。


その夜、一人で下宿に帰った僕は、今日の出来事を「リプレイ」していた。高野山の神聖な雰囲気、舞の横顔、ケーブルカーでの「サプライズキス」。すべてが「青春映画」みたいな思い出だった。


でも、同時に何か「引っかかる」ものもあった。舞の様子が、いつもと少し違っていた。何かを「一人で背負っている」ような、考え込んでいるような。


僕には、彼女の心の奥にある「秘密」が分からなかった。でも、それが僕たちの関係に何かしらの「大変化」を与えるような気がして、漠然とした「嫌な予感」を感じていた。


窓の外では、大阪の夜景が「キラキラ」輝いている。でも、高野山の静寂を体験した後では、その明かりも少し「騒がしすぎ」に感じられた。


明日からは、また普通の「日常茶飯事」が始まる。でも、今日の特別な思い出は、きっと僕の心の「宝箱」に大切にしまわれるだろう。


高野山で感じた神聖な気持ちと、舞への愛情と、そして微かな不安。それらが混じり合って、「複雑な夜」だった。


(この後、運命の大転換が待っている…)

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