恋のライバル登場
そんな「平和な日々」は、突然終わりを告げた。
ある日、舞の専門学校の同級生が工場に見学に来た。名前は川田という男で、背が高くてイケメン、しかも「爽やか王子様」タイプだった。僕とは正反対の「リア充」オーラを放っていた。
「舞ちゃん、こんなところで働いてるんや。大変やなあ」
川田は馴れ馴れしく舞に話しかけた。
「川田くん、なんでここに?」
「近くに用事があったから、ちょっと寄ってみたんや。今度の学園祭、一緒に回らへん?」
その瞬間、僕の心に「嫉妬の炎」が燃え上がった。
「学園祭…いいなあ」
舞は楽しそうに答えた。僕はその様子を見て、「負けた」と感じた。
川田は30分ほど滞在した後、「また連絡するわ」と言って帰っていった。その間、僕は「完全に蚊帳の外」状態だった。
舞は川田が帰った後も、なんだか浮き足立っているように見えた。それが僕には辛かった。
「あの人、舞の彼氏?」
僕は思い切って聞いてみた。
「違うよ。ただの同級生」
そう言ったものの、舞の表情には何か隠し事があるような雰囲気があった。
その日の帰り道、僕は一人で考え込んだ。「僕なんかより、川田の方がお似合いや」という劣等感でいっぱいになった。
# 決意の時
でも、ある夜、実家の母親から電話があった。
「優、元気にしてるか? 声が暗いけど、何かあったんか?」
母親の声を聞いているうちに、なぜか涙が出そうになった。
「母さん、僕、好きな人ができてん」
「ほう、それはいいことやないか」
「でも、僕なんかじゃダメかもしれん。もっとええ男がおるし」
「優、あんたはあんたや。人と比べる必要なんかない。大事なのは、その子に対する気持ちが本物かどうかや」
母親の言葉が胸に響いた。
「もし本当に好きなら、後悔せんように行動せえ。ダメもとでもええから」
電話を切った後、僕は決心した。「明日、舞に告白しよう」と。
成功するかどうかは分からない。でも、このまま何もしないで後悔するより、玉砕覚悟で気持ちを伝えよう。
翌日の工場で、僕は舞に声をかけた。
「今日の帰り、ちょっと話があるねん」
「うん、いいよ」
その時の舞の笑顔を見て、僕は「いけるかもしれない」と思った。
果たして、僕の人生初告白は成功するのか?
それは、また別の話である。
(この「ドタバタ恋愛劇」は、まだまだ続く…)
# 告白大作戦
翌日の工場は、僕にとって「人生最大の決戦場」と化していた。朝から手に汗をかきまくり、作業中も集中できない。型抜きしたプラスチックの形が微妙にゆがんでいるのに気づかず、田中班長に「西森、大丈夫か? 今日、変やで」と心配される始末。
「あ、すいません。ちょっと寝不足で…」
実際は一睡もできていなかった。布団の中で「告白セリフ」を何百回も練習していたのだ。
「舞、実は僕、君のことが…」(硬すぎる)
「舞ちゃん、俺と付き合わへん?」(柄じゃない)
「舞、好きやねん!」(直球すぎる)
結局、どれもしっくりこなくて、朝になってしまった。
昼休みも、舞との会話が全然頭に入ってこない。舞が何を話しているのか、「あいうえお」に聞こえるレベルだった。
「優くん、大丈夫? なんか顔色悪いで」
「え? あ、うん、大丈夫。ちょっと暑いだけ」
7月なのに、僕だけ「真冬の寒さ」を感じていた。緊張で体温調節がおかしくなっていたのだ。
午後の作業中、僕は「告白場所」について考えていた。工場の外? 駅? 電車の中? どこも「ロマンチック」とは程遠い。そもそも、僕に「ロマンチック」なんて似合わない。
「普通でええ。普通に言えばええ」
そう自分に言い聞かせながら、ついに終業時間がやってきた。
「舞、ちょっと話があるって言ってたけど…」
舞が僕に近づいてきた。その瞬間、僕の心臓は「和太鼓」のように響いた。
「あ、うん。外で話そか」
# 運命の瞬間
工場の外は、まだ夏の陽射しが残っていた。近くの小さな公園に向かう道すがら、僕は「緊張しすぎて死ぬかもしれん」と本気で思った。
公園のベンチに座ると、舞は「何の話?」と無邪気に聞いてきた。その笑顔を見て、僕はさらに緊張した。
「えっと…その…」
言葉が出てこない。頭の中が「真っ白」になった。練習した告白セリフは、すべて「宇宙の彼方」に飛んでいってしまった。
「優くん?」
舞が心配そうに僕の顔を覗き込んだ。その距離の近さに、僕の理性は「完全停止」した。
「舞…僕…君のことが…」
その時、突然の「ピンチ」が訪れた。小学生の野球ボールが僕の頭に直撃したのだ。
「痛っ!」
「ごめんなさーい!」
小学生が謝りながら走ってきた。僕は頭を押さえながら「なんで今?」と運命を恨んだ。
「大丈夫?」
舞が心配そうに僕の頭を見てくれた。その優しさに触れて、僕は決心した。
「舞、僕、君のことが好きやねん!」
「え?」
一瞬の沈黙。僕の心臓は「完全停止」しそうだった。
「僕と…付き合ってくれへん?」
舞は驚いたような顔をして、しばらく黙っていた。その「数秒間」が、僕には「数時間」に感じられた。
「優くん…ありがとう」
その言葉を聞いて、僕は「OKや!」と思った。しかし…
「でも、ごめん。今は恋愛する気になれへんねん」
その瞬間、僕の世界は「モノクロ」になった。
「そっか…」
「優くんのこと、嫌いやないよ。むしろ、すごくいい人やと思ってる。でも、今は将来のこととか、いろいろ考えることがあって…」
舞の優しい断り方が、逆に胸に刺さった。「嫌いじゃない」という言葉が、「好きでもない」という意味に聞こえた。
「ううん、大丈夫。急に言ってごめん」
「優くん…」
「友達のままでええから、変に気を使わんでな」
そう言って笑ったつもりだったが、顔が引きつっていたと思う。
# その後の日々
翌日からの工場勤務は「地獄」だった。舞と顔を合わせるたびに、昨日のことを思い出して胸が痛くなった。舞は普通に接してくれたが、それがかえって辛かった。
山田のおばちゃんは、僕たちの様子を見て何かを察したようで、「恋愛は忍耐やで」と意味深な言葉をかけてくれた。
同期の田村は、僕の落ち込みようを見て「ざまあみろ」という顔をしていた。そんな彼を見て、僕は「人の不幸を喜ぶやつとは違う」と思った。
一週間後、舞の専門学校の学園祭があった。舞は川田と一緒に回ると言っていた。僕は行くかどうか迷ったが、結局「見に行ったら余計辛くなる」と思って行かなかった。
その日、僕は一人で室戸岬の写真を見ながら、故郷が恋しくなった。「大阪に出てきて、何やってるんやろ」という気持ちでいっぱいだった。
# 意外な展開
しかし、翌週の月曜日、舞の様子がなんだか変だった。いつもの明るさがなく、どこか沈んでいるように見えた。
昼休み、僕は思い切って聞いてみた。
「学園祭、どうやった?」
「あ…うん…まあまあかな」
明らかに元気がない。何があったのか気になったが、立場上、深く聞くことはできなかった。
その日の帰り道、舞が僕に声をかけてきた。
「優くん、この前はごめん」
「何が?」
「告白のこと。もうちょっと、ちゃんと答えるべきやった」
「いや、ちゃんと答えてくれたやん」
舞は少し迷うような表情を見せた。
「実は…川田くんに告白されてん」
「え?」
「学園祭の時に。でも、断ってん」
僕は驚いた。「イケメン王子様」の川田を断るなんて。
「なんで?」
「なんか、違うなって思って。川田くんはいい人やけど、なんていうか…計算してる感じがしてん」
舞は少し考えてから続けた。
「優くんは、素直やんな。不器用やけど、一生懸命で。それが…いいなって思ってたんやけど」
僕の心臓が「ドキドキ」し始めた。
「でも、私も不器用やから、どう言ったらいいかわからんくて」
「舞…」
「もし…もしまだ私のこと、好きでいてくれるなら…もう一回、考えさせてもらえる?」
その瞬間、僕の世界は再び「カラフル」になった。
「もちろん! いくらでも待つから!」
舞は恥ずかしそうに笑った。
「ありがとう。でも、あんまり期待せんといてな。私、まだよくわからんから」
「大丈夫。僕も恋愛初心者やから、一緒に考えよう」
そう言って、僕たちは笑い合った。
# 新たなスタート
それからの日々は、以前とは違った意味で「特別」になった。僕たちは「友達以上、恋人未満」という微妙な関係になった。
舞は少しずつ、自分の気持ちを確かめているようだった。僕も焦らずに、彼女のペースに合わせることにした。
ある日の昼休み、舞が僕に小さな手紙を渡してくれた。
「今度、私の故郷の醒井に一緒に来てくれへん? 梅花藻、見せたいねん」
その提案に、僕の心は「大花火大会」状態だった。
「ぜひ! 行きたい!」
こうして、僕たちの「第二章」が始まった。
工場での短期バイトは夏の終わりで終了したが、僕たちの関係はそこからが本当のスタートだった。
でも、恋愛は「ハッピーエンド」で終わるほど単純ではなかった。その後に待っていたのは、もっと大きな試練だった。
舞の病気、そして別れ。長い沈黙の時間。
そして、10年後の再会…
でも、それはまた別の話。
(「ドタバタ恋愛劇」は、ここからさらに壮大なスケールで展開していく…)
# エピローグ
あの夏の工場で始まった恋は、僕の人生を大きく変えた。
不器用な告白、一度の失敗、そして意外な復活劇。
舞に教えられたのは、恋愛に「マニュアル」はないということ。そして、素直な気持ちが一番大切だということ。
今思い返すと、あの頃の僕は本当に「青かった」。でも、その「青さ」があったからこそ、純粋に人を好きになることができたのかもしれない。
工場という「地獄」のような場所で出会った「天使」。
それが、僕の人生最大の「ラブコメディ」の始まりだった。
そして、この物語はまだ終わっていない…