運命の日曜日
そして迎えた運命の日曜日。僕は朝5時に目が覚めた。予定では8時起床だったのに、体内時計が「今日は特別な日やで!」と大騒ぎしていた。
洗面所で鏡を見ると、寝癖で髪が「爆発」していた。まるで「サザエさん」のワカメちゃん状態。慌ててシャワーを浴び、髪をセットしようと格闘すること30分。結果、普段より5倍は時間をかけたのに、いつもとほぼ同じ仕上がりという「努力の無駄遣い」を体験した。
服装選びも一大事業だった。クローゼットの前で1時間立ち尽くし、「これはダサい」「これは子どもっぽい」「これは地味すぎる」と、まるで「ファッション評論家」になっていた。最終的に選んだのは、無難な白いTシャツとジーンズ。結局、「無難が一番」という「おじさん思考」に落ち着いた。
午前9時、千里レジャーランドの入り口で舞を待っていると、遠くから「あ、優くん!」という声が聞こえた。振り返ると、薄いピンクのワンピースを着た舞が手を振っていた。その瞬間、僕の心は「天使降臨」モードに突入。周りの景色がスローモーションになり、BGMが聞こえてきそうだった。
「おはよう! 早かった?」
「ううん、僕も今来たとこや」
実際は30分前から「待ちぼうけ」していたが、そんなことは口が裂けても言えなかった。
入園料を払うとき、僕は「男らしく」奢ろうとしたが、舞は「割り勘にしよう」と言ってくれた。財布の中身が心配だった僕には、まさに「天使の提案」だった。
最初に乗ったのは観覧車。僕の提案だった。理由は「高いところから景色を見るのが好きやから」と言ったが、本当は「密室で二人きりになれる」という下心があった。完全に「邪悪な計算」である。
観覧車のゴンドラに乗り込むと、思ったより狭くて、舞との距離が近かった。彼女の香水の香りが漂ってきて、僕の脳は「パニック状態」に。
「わあ、きれい!」
舞が窓から外を見て感嘆の声を上げた。僕も外を見ようとしたが、舞の横顔に見とれてしまい、景色なんてどうでもよくなった。
「優くん、写真撮ろう!」
舞がカメラを取り出した。当時、デジカメはまだ高価で、彼女が持っていたのは「写ルンです」だった。
「はい、チーズ!」
パシャリ。人生初の「カップル写真」(まだ付き合ってないけど)が撮れた瞬間だった。
次はジェットコースター。舞は「怖いけど、大丈夫」と言っていたが、実際に乗り場に着くと顔が青ざめていた。
「本当に大丈夫?」
「う、うん…多分…」
その「多分」に不安を感じたが、今更引き下がれない。僕も実は高所恐怖症だったが、「男らしさ」を演出するため黙っていた。
いざ出発すると、最初の上り坂で舞が僕の腕をガシッと掴んだ。その瞬間、恐怖より「ドキドキ」の方が勝った。でも、急降下が始まると、僕たちは揃って「ぎゃあああああ!」と絶叫。完全に「恐怖のシンフォニー」状態だった。
降りた後、舞は足がガクガクしていた。
「大丈夫やった?」
「う、うん…思ったより…怖かった…」
僕も内心「死ぬかと思った」が、「まあまあやったな」とクールを装った。
お昼はレストランで食事。舞はハンバーグ、僕はカレーライスを注文した。
「お腹すいた」と言いながら、舞は上品に食べていた。一方、僕はカレーを食べるのに必死で、口の周りにルーが付いているのに気づかなかった。
「優くん、口の周り…」
舞が指差して教えてくれた。慌ててナプキンで拭いたが、恥ずかしさで顔が「トマト」のように赤くなった。
午後はゲームコーナーへ。僕は「男の意地」を見せようと、クレーンゲームに挑戦した。舞が欲しがっていたテディベアを取ろうと、500円投入。
1回目:「もう少し右…あ、落ちた」
2回目:「今度は左に…また落ちた」
3回目:「今度こそ…あああああ」
結局、1000円使ってもテディベアは取れず、代わりに「男のプライド」が粉砕された。
「もういいよ、優くん。気持ちだけで嬉しいから」
舞の優しさが胸に沁みた。と同時に、「情けない男」になってしまった自分が悔しかった。
その時、近くにいた小学生の男の子が、1回でテディベアを取った。
「やったー!」
その光景を見て、僕は「完全敗北」を味わった。
気を取り直して、次はボーリング場へ。僕は高校時代にちょっとだけボーリングをやったことがあったので、「ここで挽回や!」と意気込んだ。
1投目、思いっきり投げた球は…ガターだった。
「あ、あれ?」
2投目も…ガターだった。
「えええええ?」
舞は優雅にボールを投げ、見事にストライク。
「やったあ!」
僕は目を疑った。「なんで?なんで舞の方が上手いん?」
「実は、地元のボーリング場でバイトしてたことあるねん」
そんな重要な情報を今さら!僕の「男としてのメンツ」は完全に地に落ちた。
結果、舞:130点、僕:67点。完全に「惨敗」だった。
「優くん、ボーリング初心者?」
「…まあ、そんなところかな」
プライドが許さず、素直に「下手くそです」とは言えなかった。
夕方になって、最後にもう一度観覧車に乗った。今度は夕日が美しく、ロマンチックな雰囲気だった。
「今日、すごく楽しかった」
舞がそう言ってくれた時、僕は「今日のダメダメな自分」を全て忘れて、幸せな気持ちになった。
「僕も。また今度、一緒に出かけへん?」
「うん、ぜひ!」
その返事を聞いて、僕の心は「打ち上げ花火」状態だった。
帰りの電車で、舞は疲れて僕の肩にもたれかかって眠ってしまった。その寝顔を見ながら、僕は「この時間がずっと続けばいいのに」と思った。同時に「肩が痛いけど、絶対に動けない」というジレンマも感じていた。
# その後の日々
デートの翌日、工場で舞と顔を合わせると、お互い照れくさそうに笑った。昨日のことが夢だったのか現実だったのか、まだ実感が湧かなかった。
「昨日はありがとう。すごく楽しかった」
「こちらこそ。また今度、どこか行こうな」
そんな会話を交わしながら、僕たちの関係は少しずつ変わっていった。
山田のおばちゃんは、僕たちの様子を見て「ニヤニヤ」していた。
「あんたら、昨日デートしたやろ? 顔に書いてあるで」
「え? そんなことないですよ」
舞は慌てて否定したが、頬が赤くなっていた。僕も同じく「バレバレ」状態だった。
同期の男子学生たちは、明らかに「嫉妬モード」全開だった。特に田村という大学生は、舞に何度もアプローチしていたので、僕への敵意を隠そうともしなかった。
「西森、調子に乗るなよ」
休憩時間に、田村が僕に絡んできた。
「別に調子に乗ってへんけど」
「舞ちゃんは俺が先に狙ってたんや」
「狙うって…舞は物ちゃうで」
そんなやり取りで、工場内の「男の戦い」が始まった。といっても、所詮は短期バイトの学生同士。大したことにはならなかったが。
舞は相変わらず、誰に対しても優しく接していた。でも、僕との会話の時だけは、特別な笑顔を見せてくれるような気がした。それが「勘違い」だったのか「事実」だったのかは、今でも分からない。
ある日の昼休み、舞が僕に小さな箱を渡してくれた。
「これ、お礼」
「お礼?」
「この前のデートの。手作りクッキーやねん」
箱を開けると、星の形をした可愛いクッキーが入っていた。一口食べると、甘くて美味しくて、「幸せの味」がした。
「めっちゃ美味しい!」
「本当? 良かった。実は何回も失敗して、やっと成功したねん」
その時、僕は確信した。「この子は僕のことを特別に思ってくれている」と。
でも、恋愛経験ゼロの僕には、どうやって「次のステップ」に進めばいいのか全く分からなかった。「告白」なんて、ドラマの中の話だと思っていた。