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アオハルOSKラブコメ(梅花藻の咲く川)  作者: 湯豆腐タロウ
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最初の出会い


この物語を書くきっかけになったのは、とある場所で――ふいに聞こえた、あの声だった。


「なんでスピーカーの型抜きって、こんなに地味なんやろ…」


スピーカーの型抜き作業は、最初こそ新鮮だったけれど、二日もすると僕の集中力は金魚並みになった。真夏に差しかかる大阪の倉庫はまるでサウナの中で筋トレしているような暑さで、扇風機は「頑張ってます」アピールだけは立派だが、実際は熱風をかき回しているだけ。Tシャツは背中に張り付いて、もはや第二の皮膚と化していた。


「この暑さ、絶対に違法やろ…」と心の中で労働基準監督署に訴えながら、僕は黙々と作業を続けていた。


その工場は、北区にある築40年は経っていそうな建物で、「昭和の香り」が充満していた。電子部品の組み立てを請け負う零細企業で、大学生や専門学校生が夏休みの短期バイトで雇われる、いわば「青春の墓場」だった。僕も、歯科技工士の専門学校に通いながら、お金のために魂を売った一人である。


時給は最低賃金ギリギリ。それでも、実家の高知から大阪に出てきた僕には、「お金様」は神様だった。下宿代、食費、学費――全て自分で賄わなければならない。実家の両親は漁業を営んでいたが、「魚はたくさん釣れるけど、お金は釣れない」状態だった。


作業内容は、猿でもできそうなほど単純だった。プラスチックの板から決められた形を型抜きし、不良品がないかチェックして、箱に詰める。これを8時間、ゾンビのように繰り返す。最初は「俺、器用やん!」と自画自賛していたが、三日目には完全に魂が抜けていた。


そんな環境で働く人たちも、人生の縮図みたいに様々だった。僕のような「金欠学生」、子育てが一段落した「戦うパート主婦」、定年後に「まだ働かなあかんのかい」と愚痴る再就職組、そして何らかの事情で「人生、思い通りにいかんなあ」と嘆く中年男性たち。みんな、それぞれの人生ドラマを抱えてここにいた。


僕は、どちらかといえば「一匹オオカミ」を気取っていた。実際は単なる人見知りなのだが、「クールな俺」を演出していた。休憩時間も一人で過ごし、同僚との会話も業務連絡程度。高知の田舎育ちで、大阪の人たちの早口の関西弁を聞くと、「えっ、今なんて?」と聞き返すのが恥ずかしくて、ついつい「うん、うん」と相槌を打つだけだった。


――そんな中で、彼女が現れた。


彼女の名前は、水原 まい。バイト初日、僕より少し遅れて現れた舞は、濃い藍色のTシャツにジーンズという「清楚系」の服装だったが、それでも僕の「恋愛レーダー」がピピピッと反応した。肩の少し下まで伸びた髪、軽く流した前髪。そして、笑うと「天使降臨」みたいな笑顔。工場の「地獄」みたいな環境に、突然現れた「天使」だった。


班長の田中さんが彼女を紹介すると、舞は軽く会釈して「よろしくお願いします」と言った。その瞬間、僕の心は「キュンキュン」と音を立てた。工場内の騒音の中でも、その声だけは天の啓示のように聞こえた。


田中さんは50代のベテランで、「工場の父」的存在だった。新人には「最初はみんなそうや」と優しく、でも手抜きには容赦ない。特に学生には「勉強の邪魔にならん程度に、でも手は抜くなよ」と絶妙なプレッシャーをかけてくる人だった。


「水原さんは製菓の専門学校に通ってはるんや。将来はパティシエを目指してるそうやで」


パティシエ! 僕の脳内に「ケーキ」「甘いもの」「素敵」という単語が踊った。そして「僕の人生にも甘い展開が来るのか?」と淡い期待を抱いた。


舞は、魔法でも使っているかのように、あっという間にみんなと仲良くなった。中年のパートのおばちゃんたちとも「昔からの友達」みたいに話し、同年代の大学生たちとも「青春ドラマ」みたいに盛り上がっていた。僕とは大違いだった。


特に印象的だったのは、60歳を過ぎた山田のおばちゃんとの会話だった。


「あんた、専門学校でケーキ作ってるんやって?」


「はい、まだまだ下手くそですけど」


「うちの孫な、ケーキ大好きやねん。今度、誕生日やから、何かコツ教えてくれへん?」


「もちろんです! 今度、簡単なレシピ持ってきますね」


その会話を聞いて、僕は「この子、天使や…」と心の中で拝んだ。


一方、僕はいつも作業台の端で、まるで「陰キャの王様」のように黙々と手を動かしていた。人と話すのが苦手で、特に女性には「緊張して舌が回らない症候群」を発症してしまう。高知の高校は男子校だったし、専門学校でも女子学生は絶滅危惧種並みに少なかった。


休憩時間も一人で缶コーヒーを飲みながら、窓の外の大阪の街並みを眺めて「俺、なんでここにいるんやろ…」と哲学していた。


同期の大学生たちは、休憩時間になると「青春の輪」を作って雑談していた。大学の話、アルバイトの話、恋愛の話。僕には「異世界」の話だった。


でも、ふと目が合うと、舞はいつも「にっこり」と笑ってくれた。その笑顔を見るたび、僕の心は「ドキドキ」と音を立て、同時に「この笑顔、俺だけに向けられてるんちゃうか?」という勘違いも生まれた。作業中、顔を上げると彼女がこちらを見て微笑んでいることがあって、そのたびに僕は「うわあああ」と心の中で叫びながら、慌てて視線をそらしてしまう。完全に「恋する乙女」状態だった。


三日目の昼休み。いつものように一人で「孤独のグルメ」を実践していると、舞が声をかけてきた。


「一人で食べてるん? よかったら、一緒に食べへん?」


その瞬間、僕の手から箸が「ポロリ」と落ちた。まるでコントのようだった。


「え、あ、うん…でも、大丈夫なん?」


「全然かまへんよ。一人で食べるより、みんなで食べる方が美味しいやん」


そう言って、彼女は僕の隣に腰を下ろした。僕の心は「これは夢か? 現実か?」とパニック状態。近くで見る彼女は思っていたより小柄で、それでいて存在感が「キラキラ」していた。


僕の弁当は、コンビニの「寂しい独身男性セット」だった。一方、舞の弁当は手作りで、まるで「料理番組」のようにカラフルで美味しそうだった。


「手作り?」


「うん、朝早起きして作ってるねん。お金節約したいし、それに栄養も考えたいから」


「すごいな。僕なんて、いつも『コンビニ様』に頼りっぱなしや」


「今度、簡単にできるおかずのレシピ教えたろか?」


その優しさに、僕の心は「メロメロ」になった。


「歯科の専門学校通ってるって聞いたけど、歯医者さん目指してるん?」


「歯科技工士やねん。歯を作る方の…」


「すごいやん! めっちゃ細かい作業なんやろ?」


彼女の「キラキラ」した目を見て、僕の緊張は「スーッ」と消えていった。普段は誰にも話さない授業のことや、将来の夢についても、気づけば「饒舌な男」になっていた。


「いつか、自分の技工所持ちたいねん」


「きっと、できるよ。真面目やし、手先も器用そうやもん」


その瞬間、僕の心は「花火大会」状態だった。将来の夢を、こんなに素直に応援してもらったのは初めてだった。


「私はお菓子作りの学校やねん。パティシエになるのが夢で」


「パティシエ……めっちゃええやん」


「でも、まだまだ全然やで。この前なんか、シュークリーム作ったら、シューが膨らまんくて、先生に『これ、パンケーキ?』って言われてん」


その話を聞いて、僕は「この子、完璧やないんや」と妙にホッとした。


「でも、お菓子作りって、人を幸せにする仕事やんな」


「そうやね。誰かが私の作ったケーキを食べて笑顔になってくれたら、それが一番嬉しい」


舞の目が「キラキラ」していた。本当に好きなことを見つけた人の目だった。


それから自然と、昼休みは彼女と過ごすようになった。毎日が「青春ドラマ」のように楽しくなった。朝目が覚めると、「今日は何を話そうかな」と考えている自分がいた。完全に「恋する男子」だった。


工場での作業も、舞がいると「天国」に感じられるようになった。同じ作業台で黙々と手を動かしながら、時々目が合って微笑み合う。それだけで、単調な作業が「愛の作業」に変わった。


ある日の作業帰り、同じ電車に乗ることになった。南森町の改札で、彼女の後ろ姿を見つけた僕は、「今がチャンス!」と思い、勇気を振り絞って声をかけた。


「……どこから通ってるの?」


声が「上ずり」まくっていた。でも彼女は振り返り、「びっくり顔」をしてから、「にっこり」笑った。


「え? ああ、私? 四ツ橋線の本町からやで。ちょっと歩くけどな」


電車の中で、彼女の学校の話をもっと聞いた。失敗談も含めて、全部が「キラキラ」して聞こえた。


数日後、バイト帰りにまた同じ電車になったとき、僕は「人生最大の賭け」に出た。


「今度の日曜、空いてる?」


心臓が「ドキドキ」というより「ドカドカ」と音を立てていた。でも、舞は「にっこり」笑って「うん、空いてるよ」と答えてくれた。


「よかったら、一緒にどこか行かへん?」


「うん、どこ行こうか?」


「千里レジャーランドとか……どうかな?」


「いいね! 行ったことないから、楽しみやわ」


その瞬間、僕の心の中で「祭り」が始まった。


その夜、電車の窓に映る自分の顔を見て、「うわあ、めっちゃ嬉しそうな顔してる」と思わず笑ってしまった。普段は「無表情王」の僕が、まるで「子犬」のようにはしゃいだ顔をしていた。


人生初デートの約束。期待と不安で、心は「ジェットコースター」状態だった。


日曜までの一週間が、「亀の歩み」のように長く感じられた。バイト中も、舞との会話で「千里レジャーランド作戦会議」を開いていた。


「ジェットコースター、大丈夫?」


「怖いけど、大丈夫やと思う。一緒やったら」


その言葉を聞いて、僕の心は「ロケット発射」状態だった。


工場の他の同僚たちも、僕たちの関係に気づいているようだった。山田のおばちゃんなんかは、「ニヤニヤ」しながら「若いっていいなあ。うちの若い頃思い出すわ」と言っていた。


同期の男子学生たちは、明らかに「嫉妬の炎」を燃やしていた。でも、僕は「勝利の美酒」に酔いしれていた。


こうして、僕の「青春ラブコメ」が始まった。


工場という「地獄」のような環境の中で、舞は僕にとって「天使」だった。彼女がいるだけで、単調な作業も「愛の労働」になった。


そして――あの一言が、僕たちの「ラブストーリー」の扉を、そっと開いた。


初恋の「甘酸っぱさ」と、未来への「キラキラ」した希望に満ちた、人生で最も「青春していた」時間の始まりだった。


まだこの時の僕は知らなかった。恋愛とは、「天国」と「地獄」がセットで付いてくるものだということを。でも、それも含めて「青春」なのだと、今なら思える。


あの夏の工場で出会った舞との時間は、僕の人生の中で最も「キラキラ」した記憶の一つだった。そして、その後に続く「ドタバタ恋愛劇」の、記念すべき第一幕だったのだ。

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