当たらない世界
ここでは、金は減らない。
でも、当たりもしない。
何回転したかなんて、もう分からない。
玉は無限に出てくる。
ハンドルをひねれば保留が溜まる。
それだけの世界だ。
音のない空間で、俺は牙狼を回し続けていた。
液晶の中では、牙狼剣が飛ぶ。
金タイトル、激アツ演出、虹保留。
現実じゃ信じられないような、“当たる演出”のオンパレード。
……でも、全部ハズれる。
30000回転、50000回転、70000回転。
虹保留すら普通にハズれた。
そして──
80000回転目。
この世界での“80000回目”の試行だった。
牙狼剣が飛んでも当たらない。保留は虹まで出てもスカ。
「これ、マジで当たんねえじゃねぇか…!」
思わず、右拳で画面を叩いた。
バキィン。
液晶が粉々に割れた。
ガラスの破片が飛び、リーチの途中で映像が停止した。
一瞬、静寂。
「……壊した……?」
初めて、この世界の“もの”が壊れたことに俺は動揺した。
だが──次の瞬間。
画面が勝手に修復を始めた。
割れたガラスが逆再生のように戻り、液晶が光を取り戻し、
さっきのリーチ演出の途中から、何事もなかったかのように再開される。
「……そうか。これは……本物じゃない」
この“攻略の部屋”では、何万回壊しても、壊れたものは治る。
でも、俺の精神は少しずつ摩耗してる。
心の中では、10年分の苛立ちと絶望を積んでる。
それでも、俺は回す。
壊しても治る台と、壊れていく俺とで──
どちらが先に限界に達するのか、試してみたくなった。




