10000回転の先に
9,999回転──
それが、俺がこの牙狼(GARO)を打った累計だった。
3日間、同じ台。
朝から閉店まで、ただただハンドルを回し続けて、出玉はゼロ。
台の前で飯を食い、台の前で居眠りをして、
トイレすら惜しんで打ち続けて、もう3日目。
「どうせここまで来たら、どこまでハマれるか見たくなるだろ…」
ハンドルをひねるたび、金が減る。
精神がすり減る。
そして──10,000回転目。
保留が赤に変わった。
ちょっとだけ、心臓が跳ねた。
牙狼剣が飛び、タイトルは金。演出は激熱。
「さすがに、これは…」
…そう思った。ほんの一瞬だけ。
そして──
ハズれた。
液晶が通常画面に戻り、保留が消える。
演出は、すべてなかったことにされたように消えた。
「……嘘だろ……?」
その瞬間だった。
世界が、止まった。
音が消えた。
液晶の映像も止まり、玉の動きも、ホールの喧騒も、すべてが遠ざかった。
気づけば、俺のまわりには──牙狼の筐体だけがあった。
フロアはない。店員もいない。音楽も光もない。
ただひとつ、牙狼だけがそこにあった。
「……夢か?」
そう思った。
だが、夢にしては感覚がありすぎる。
ハンドルを握ると、現実と同じ重みがあった。
試しに回してみる──
玉が発射され、液晶に保留が溜まる。
「……回せってことか」
自動じゃない。
俺が回さないと、何も始まらない。
1回転、また1回転。
ハンドルを回すたび、保留がチャージされて演出が始まる。
5回転、10回転、100回転。
1時間、2時間……体感でどれだけ回したかも分からない。
「誰もいない」「金も減らない」「でも当たらない」
それでも──ここは、静かだった。
現実みたいに、周囲の爆音も、嫌な視線も、肩越しの圧もない。
ここには俺と、台だけがある。
“当たらない牙狼”を、ただ俺が、回すだけの世界。
それが、最初の“攻略の部屋”だった。