4 眠れない夜の時間に音楽をかける。
眠れない夜の時間に音楽をかける。
その日の夜は、なんだかうまく眠ることができませんでした。(それは、眠ることが大好きなベルにとって、とても珍しいことでした)
夜風にあたろうと思って、屋上にいこうと思ったベルでしたが、ぽっと放送室の明かりがついていたので、なんだろう? と思って、放送室までやってくると、そこにはサラがいました。
サラはベルと同じで、眠れなかったようなのですが、なぜかサラはそこで椅子に座って、ひとりで赤い目をして泣いていました。
サラが泣いていたので、ベルは慌ててしまって、「どうかしたんですか? サラ。どこか痛いんですか?」とサラのところまでいって、(ベルまで泣き出しそうな)情けない顔で、そう言いました。
「ううん。違うんです。ごめんなさい。ベル。どこも痛くありませんよ。ただ、……」
「ただ?」
「夢をみたんです」とサラは言いました。
「夢ですか?」とサラのとなりにすわって、ベルは言いました。
「不思議な夢でした。その夢の中で、わたしはだれかに会っていました。でも、そのだれかが、だれなのか、わたしにはわかりませんでした。記憶を失っているからなのか、あるいは、夢だからなのかはわかりません。だけど、とっても悲しい気持ちになって、泣いてしまいました。ベルにかっこわるいところを見られてしまいましたね」と無理に笑ってサラは言いました。
「サラ。ぼくは夢をみたことがありません」とベルは言いました。
「ロボットは夢を見ないのですか?」とサラは言いました。
「はい。だから夢ってどんなものなのか、教えてくれませんか?」とにっこりと笑って、ベルは言いました。
サラはベルに夢がどんなものであるのかをお話ししました。
ベルはサラの夢のお話を聞いて、いつか自分も夢を見てみたいなってそう思いました。
それから二人は夜の時間だけど、このまま放送室で(少し贅沢だけど)音楽をかけることにしました。
優しい放送室でいつものように、ベルとサラは(あいさつだけが少し違っている)「こんばんは、優しい放送局です」とひとつのマイクで声をそろえて言って、放送をはじめました。
音楽をかけると、世界は音に包まれました。
ベルとサラはだまったままで、目をつぶって、その音楽を聞いていました。
暗い夜が明るくなったみたいでした。
それはまるで音楽が、遠い夜空にある月や星たちにまで届いているかのようでした。
みんなが音楽を聞いて、幸せな気持ちになっているみたいでした。
世界のぜんぶが、音楽で満たされているみたいでした。